『FFTイヴァリース クロニクルズ』先行プレイレポ 極上のストーリーを備えた不朽の名作が“増強”を経てよみがえる

1997年にスクウェア・ソフトから発売されたタクティカルRPG『ファイナルファンタジータクティクス』が、現代によみがえる。
その名も『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』(2025年9月30日発売予定/Steam版は10月1日発売予定)。ユーザーインターフェースの改良、グラフィックの刷新、脚本の加筆及び修正を施した「エンハンスド」と、当時のゲーム体験を極力再現した「クラシック」のふたつのモードを用意し、初心者から当時を知るプレイヤーまで幅広い層が遊べる作品に仕上がっていた。
なお、執筆に際し、スクウェア・エニックスよりダウンロードキーを提供いただいた。また「エンハンスド」でプレイしたうえでの感想となる。

『ファイナルファンタジータクティクス』はかつて存在したゲーム制作会社「クエスト」にて『タクティクスオウガ』を製作した松野泰己氏が『ファイナルファンタジー』の世界観を引き継いで作り上げたタイトルである。戦乱の絶えないイヴァリースという世界で、貴族の出である主人公・ラムザと、平民ながらラムザとともに幼少期を過ごした青年・ディリータの運命が交錯する様を描いた大河ファンタジーだ。
ゲーム体験としては、一般的なグリッド式のシミュレーションRPG(SRPG)に「ファイナルファンタジー」シリーズのジョブやアビリティといった概念を加えたものになっている。プレイヤーは章ごとに加入するキャラクターたちを訓練しつつ、激動のイヴァリースを戦い抜くのが目的だ。

キャラクターには2種類存在し、物語に関わる名前のあるプレイアブルキャラクター(PC)と、いつでも雇用できるモブのPCがいる。(途中加入するPCを除くと)だいたいのPCが「見習い戦士」というジョブからスタートしているので、戦闘を繰り返してEXPとJ-EXP(ジョブ経験値ポイント)を稼ぎ、もっと強いジョブにチェンジしていく必要がある。

ジョブは20種類以上用意されており、どれも特色があって面白い。原作では著しく強い技や魔法がいくつかあったが、筆者がプレイしている限り、その点は多少マイルドにはなっているようだ。それでも、まったくの初見で遊ぶ場合は試行錯誤する必要が出てくるだろう。

特に本作はメインストーリーで戦う敵が右肩上がりで強くなっていくので、頻繁にレベル上げが必要になる。なお、原作同様にユニットそれぞれに「自動戦闘」を選ぶことができ、ある程度放置してレベル上げすることは可能だが、たいしてAIは賢くないうえに、キャラクターロストの危険性もある。そのうえアイテムを拾ったりするとメッセージ送りのためにゲームが止まるので、そこまで便利ではない。
とはいえ、元は1997年のゲームだと考えると、戦闘システムは面白い。マップには地形や高度の概念があり、弓や銃は高いところから一方的に打ち下ろせるし、魔法は詠唱時間と効果範囲を考慮して撃たなければならず、かといって近接ジョブが使えないわけでもない。「次はどんな技を使ってみようかな?」と考える時間も尊く、時間を忘れてのめりこんだ。

しかし、その分地形は複雑であり、特定のマスをクリックしたいのに物陰に隠れて選びづらいということが幾度も起きた。ただこの点に関しては、Steam(PC)版ではマウスを使用して遊ぶことができるようになったという進化だけでも肯定的に捉えるべきポイントかもしれない。
【編集部注】
本作は基本的にコントローラー(ゲームパッド)でプレイすることを想定して最適化されている。

本作の白眉は何と言ってもストーリーだろう。
裏切りや権謀術数、出自の違いや友情の意義といった中世ファンタジーにありがちなファクターを扱っていながら、そのテキストセンスは流石の一言で、どれもこれも壁紙として保存したいほど重たいセリフばかりだ。「家畜に神はいないッ!」だの「脳みそが、ちょっと変色した!」だの、声に出して読みたいワードが次々に出てくる。

キャラクターたちも素晴らしく、血の通った人間たちが揃っている。特に序盤から登場するアルガスには驚いた。没落貴族であるからこそ、人間を出自で切り分けようとする彼の言葉は残忍だが、同時にイヴァリースが抱えている問題の本質を捉えている。
善玉も悪玉もそれぞれに野心を抱いており、彼らが演劇のように高らかにセリフを発しながら、戦場で相まみえる姿に何度も心打たれてしまった。

筆者は『ファイナルファンタジーXIV』のファンでもあるが、同作の制作陣(スクウェア・エニックス クリエイティブスタジオ3)が松野泰己氏の作品をリメイクしてきたことや、重厚長大な政治劇を描いてきた理由がようやくわかった気がした。『FF』というブランドのなかで、戦争や政治に翻弄される個人の物語を描いてきた松野氏の遺伝子は、現代まで連綿と繋がっているようである。
レイズやヘイストのような『FF』では当たり前に使用できる魔法がミスしたり、店でまとめて購入するときに持っている武器や防具も買わせようとしてきたりと、細かい点はレトロゲームなりの煩わしさが残っているが、まとっている世界観やストーリーは極上であり、今後も一切色褪せることはないだろう。

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