『Heretic + Hexen』名作ファンタジーFPSを振り返る 老舗スタジオの“ひと捻り”で魅力的な体験を生む魔術

『Heretic + Hexen』とRaven Software

 突然だが、あなたはRaven Softwareというゲーム会社を知っているだろうか? もしそうであれば、海外ゲームの歴史にある程度精通しているか、あるいは重度のFPS好きである可能性が高い。

知る人ぞ知るビデオゲーム界の老舗、Raven Software

 1990年にアメリカ・ウィスコンシン州で設立されたRaven Softwareは、移り変わりの激しいゲーム業界において30年以上の歴史を持つ老舗のゲーム開発会社だ。2000年代前半には鮮烈なゴア表現で話題となった「Soldier of Fortune」シリーズや、今なお「スター・ウォーズ」ゲームの傑作として名高い『Star Wars: Jedi Knight』、シングルプレイヤーの「Quake」最終作となる『Quake 4』などを世に送り出し、ゲーム業界に鮮烈な印象を残してきた。会社としては、1997年に当時のアクティビジョン傘下に入り、現在もアクティビジョン・ブリザードのグループ企業(すなわちマイクロソフト傘下)となっている。

 それなりの支持を獲得していたRaven Softwareだが、他のアクティビジョン・ブリザード傘下の企業の例に漏れず、2010年代以降の同社の歩みはすっかり「Call of Duty(CoD)」一色に染まっている。2010年の『Call of Duty: Black Ops』のDLC開発に参加して以来、毎年リリースされる「CoD」のすべての作品に開発協力しており、2016年に登場した名作のリマスター版『Call of Duty: Modern Warfare Remastered』ではメインで開発を担当していた。

『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア リマスタード』 ストーリートレーラー

 基本的には現行の「CoD」の主要な開発元であるInfinity Ward / Treyarch / Sledgehammer Gamesへのサポートに徹しているRaven Softwareだが、近年では(筆者を含む)一部の「CoD」ファンから熱視線を集めている。その理由は、Treyarch主導で開発された『Call of Duty: Black Ops Cold War』(2020年)と、現時点での最新作である『Call of Duty: Black Ops 6』(2024年)のキャンペーンモードをメインで開発していたことにある。

Black Ops 6 - 公開ゲームプレイトレーラー

 (特に2010年代以降は)出来不出来の差が激しいことで知られる「CoD」のキャンペーンだが、「Raven Software製の作品は一味違う」というのは、多くのファンが認めるところだろう。その大きな要因は、いわゆる「CoDらしい」リニアで壮大な体験に対して、独自の捻りを入れている点にある。たとえば、NPCとの会話やマップ全体の地形を活かしてミッションを突破する(「ヒットマン」的な)イマーシブシム的な要素が取り入れられていたり、必ずしもクリアには必須でないサイドミッションが用意されていたり、ウォーキングシム系の作品を彷彿とさせるようなホラー演出が待ち受けていたりと、「ただドンパチするだけではない」幅広いゲームプレイが楽しめる仕上がりとなっている。もちろん、ユーザーが多い分、賛否は分かれる傾向にあるが、少なくとも筆者としてはRaven Software製の「CoD」キャンペーンをとても楽しんでいる。

 これはRaven Softwareが長年にわたって手掛けてきた作品の特徴とも合致していると言えるだろう。それは、端的にまとめると、「既存のシステムに対して、遊び心のある捻りを加え、なじみやすいがユニークな体験を生み出す」ということだ。とはいえ、この15年ほどは完全に「CoD」の裏方に徹しているため、そうした側面がなかなか表舞台に出てこないというのが実情だ。

 すっかり「Call of Duty」の話ばかりをしてしまったが、そんなRaven Softwareの歴史の最初期を飾るのが、本稿のテーマであり、8月7日~10日開催の『Quakecon 2025』にあわせてリマスター版がリリースされた『Heretic + Hexen』である。

現代に蘇る、『DOOM』から生まれたFPS界のカルト・クラシック

 タイトルが示す通り、本作にはRaven Softwareの初期作『Heretic: Shadow of the Serpent Riders』(1994年)に、その続編的位置付けの『Hexen: Beyond Heretic』(1995年)、同作の拡張パックである「Deathkings of the Dark Citadel」(1996年)の現世代機向けリマスター版が収録されており、さらに新作エピソードとなる『Heretic: Faith Renewed』と『Hexen: Vestiges of Grandeur』を含む多くの特典が追加されている。パッケージとしては、昨年リリースされたクラシックFPSのアップグレード版である『DOOM + DOOM II』に近いといえるだろう。

 とはいえ、正直なところ『DOOM』(1993年)と比較するのは分が悪いかもしれない。同作がクラシックな名作として力強くゲームの歴史に名を残しているのに対して、「Heretic」と「Hexen」は「カルト的に愛され続けてきたクラシック」という表現がよく似合う。その理由は、これらの作品が、まさに『DOOM』をベースに捻りを加え、独自の魅力を生み出しているからに他ならない。

 実際にプレイしてみれば、その意味はすぐに分かるだろう。『DOOM』に触れたことがある人であれば、わずか数秒ほどで「これ『DOOM』じゃん」と気づくはずだ。UIこそ異なるが、グラフィックや操作性、細かな挙動に至るまで紛れもなく『DOOM』そのものである。

 それもそのはず、「Heretic」と「Hexen」は『DOOM』を手掛けたid Software協力のもと、同作のゲームエンジン(「Doom engine」)を調整したものを基にして開発された作品であり、『DOOM』の生みの親の一人であるジョン・ロメロもプロデューサーとして関わっている。いわば、当時、雨後の筍のように『DOOM』クローンが生まれる中で誕生した「公式『DOOM』クローン」なのだ。

 「では、何がユニークなのか?」というと、『DOOM』が地獄とショットガンの世界を描いているのに対して、「Heretic」と「Hexen」はファンタジーの世界を舞台としていることにある。「Heretic」では、破壊力満点の銃火器の数々は魔法の杖やクロスボウに、悪魔たちはガーゴイルやゴーレムへと置き換わり、BGMもヘヴィメタルからどこか幻想的で壮大なものへと変わっている(本作では、『DOOM + DOOM II』にも参加していたアンドリュー・ハルシュルト氏によるリミックス版サウンドトラックも収録されており、こちらも素晴らしい出来栄えである)。また、『DOOM』にはなかったインベントリシステムが実装されており、体力を回復するポーションや、魔法を強化する書物を持ち歩いて、ここぞというときに発動することも可能だ。総じて、「もし『DOOM』をベースに、ファンタジーRPGを作るなら?」というアイデアを具現化したような仕上がりとなっている。

 とはいえ、『DOOM』の過激さは継承されており、敵のグラフィックはそれなりにおぞましく、倒したときの演出もなかなかに刺激的だ。ゴーレムの撃破時に、中から霊体が出て消えていくアニメーションが流れるのもこだわりを感じられる。今、『DOOM』を遊んでも十分に面白いように、今回のタイミングで初めて触れたとしても、きっとすぐに楽しめるはずだ。移植&リマスターのクオリティは極めて高く、何よりも破壊力満点のクロスボウを撃ちまくるのは、実に爽快である。

 ただし、「Hexen」にはそれなりの注意が必要だろう。「Heretic」から進化を遂げた同作では、操作するプレイヤーキャラクターがバーバリアン、クレリック、メイジの3種類から選べるようになっていたり、キャラクターや背景の描画がより細やかになっていたり、豊富なアイテムによって戦術の幅が広がっていたりと、さまざまな面においてファンタジーRPGとしての順当な進化を遂げている。ただし、それまでリニアなステージクリア型だったレベルデザインを凝った結果、かなり複雑なステージ設計になってしまっているのだ。

 「Hexen」では、スタート地点となるエントランスエリアから始まり、エリア内に点在する「ハブ」へと向かい、そこからさらに各ステージへと移動するという、(分割されているとはいえ)実質的にひとつの巨大なオープンエリアを探索するような構造となっている。このように書くとオープンワールド感があってワクワクするかもしれないが、クエストマーカーのようなものは当然存在しないため、初見であれば、まず間違いなくどこに行けばいいのか分からなくなる。さらに、今で言うメトロイドヴァニア的に「この扉は後で開ける」的な要素もあるのだが、メモを取っていなければ(もしくは取っていても)見失う可能性が高い。ついでに前述の要素(豊富なアイテムの効果など)も一切説明がないため、想像以上に手探りでゲームを進めることになってしまうのである。

 この辺りは、3Dゲームの黎明期における、当時の開発者たちの「何とか『DOOM』的なFPSと『ダンジョンズ&ドラゴンズ』的なRPGを融合させたい!」という試行錯誤の結果であり、以降の一人称視点アクションRPG(『The Elder Scrolls V: Skyrim』や、最近では『Avowed』など)と比較してみると、技術の進化をありありと実感することができるだろう。もちろん、こうした点を把握しておけばゲームとしても充分に楽しめるのだが、やはり資料としての魅力の方が大きいことは否めない。実際、本作には当時の貴重な開発資料も収録されており、レトロゲームに興味のある人であれば、かなり楽しめるに違いない。

 さらに、本作では、「Heretic」と「Hexen」それぞれの新作エピソードが追加収録されている。どちらも、元のレベルデザインにおける欠点を見直しつつ、探索の面白さをしっかりと閉じ込めた仕上がりとなっており、一見の価値ありだ。ただし、難易度は明らかに元の作品をクリアしていることを前提としたものとなっており、所狭しと敵が襲いかかってくるため、それなりに覚悟をしておいた方がいいだろう(筆者は最低難易度でも何度か死にかけている)。さらに、デスマッチなどが遊べるマルチプレイヤーモードも新規に追加されており、シンプルながら奥深い撃ち合いを、オフライン/オンラインを問わず思う存分に楽しめる。まさに、お腹いっぱいになるまでカルト・クラシックとして愛されてきた「Heretic」と「Hexen」を味わえる、ボリューム満点のパッケージだ。

 今でこそ“「CoD」の裏方”という印象が強いRaven Softwareだが、その背景には30年以上にわたる歴史がある。「Heretic」と「Hexen」には、同社の持ち味でもある「既存のシステムに捻りを加えたユニークな体験」の魅力が詰まっており、歴史の影に埋もれさせておくにはもったいない作品だ。今年の11月14日には、昨年に続いてRaven Software主導で開発されたキャンペーンモードが収録される『Call of Duty: Black Ops 7』の発売も予定されており、それぞれの作品を遊ぶことによって、FPSというジャンルが歩んできた歴史に想いを馳せるのも一興だろう。浮き沈みの激しいゲーム業界において、長年にわたって活躍し続けている会社には、それなりの理由というものがあるのだ。

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