信念を貫く「頑固オヤジ(ウサギ)」の生き様が呼ぶ“リアル”な共感 2D探索アクション『Rusty Rabbit』レビュー

『Rusty Rabbit』レビュー

 ――車やバイクの話となると随分と雄弁になる中年の男性が、今日もまた趣味のジャンク漁りに没頭している。膨大なガラクタの山の中から掘り出し物を探す姿を、周りは嫌悪感に満ちた眼差しで見つめ、ヒソヒソと噂話をしている。思わず「なぜそんなことをしているの?」と聞くと、「ガラクタは語るんだ。声が聞こえてくるのさ」だそうだ。奥さんはだいぶ前にいなくなり、唯一の家族だった娘さんも、ずっと前に家を出てから行方不明らしい。時々、近場のダイナーに顔を出しては、友人や若者たちと会話を交わしているようだが、元々の口の悪さやこだわりの強さが災いしてなのか、見るからにコミュニケーションに苦労している。あまりにも典型的な「頑固オヤジ」そのものだが、噂によれば、辛い目に遭っている人を見ると、文句を言いながらも助けてしまう優しい一面もあるそうだ。

 この描写だけを見れば、きっとハードボイルドな映画やドラマの光景が目に浮かぶかもしれない。だが、実際の画面に広がるのは、モフモフとした毛並みとつぶらな瞳が印象的なウサギの姿だ。率直に言って、とっても可愛い。

 そんなウサギの“ラスティ”ことスタンプが主人公を務めているのが、4月17日発売の『Rusty Rabbit』(PlayStation 5 / Nintendo Switch / PC)である。同作はNetEase Gamesとニトロプラスが共同開発する2Dプラットフォームアクションゲームだ。

 「STEINS;GATE」や「刀剣乱舞」で知られるニトロプラスと、『第五人格』や『Marvel Rivals』などで知られるNetEase Gamesがタッグを組んだ作品となると、随分と気合いの入ったプロジェクトに聞こえるかもしれないが、実際の『Rusty Rabbit』はむしろインディーズのような手触りを持つ作品となっている。それは、完成度や規模感がどうこうというよりは、ゲームの至るところから開発者の想いやこだわりが感じられるような、非常に個人的な内容であるように感じられるからである。

 意外な印象ではあるが、本作が「原案を務めた虚淵玄が、自分で楽しむために趣味で作っていた作品がベースである」ことを踏まえると納得だ。その趣味性、もっと言えば「(周りが何と言おうと)これが好きなんだ!」という強い想いはゲームの隅々まで反映されており、もし、あなたが「面白いアクションゲームをプレイしたい!」と思って『Rusty Rabbit』を手に取ったとしたら、その随分と尖った仕上がりに戸惑ってしまうかもしれない。だが、冒頭の文章を読んで共鳴したり、グッとくるような何かを感じられたのであれば、きっと本作はその期待に応えてくれるだろう。

「巨人」たちが滅び、知性を持つウサギたちが文明を築いたポストアポカリプスの世界 

 『Rusty Rabbit』の舞台となるのは、一面が雪で覆われた「氷の世界」。かつては「巨人」と呼ばれる種族がこの地を支配し、ウサギたちは従属する身となっていたが「聖ペテロ」なるウサギの英雄によって解放され、今では独自の進化を遂げた、知能を持つウサギたちが中心となって生活している。スタンプや主要な登場人(兎)物が暮らすのは、天高くそびえる「エントツ山」のふもとにある「ブラス村」だ。

 この「巨人」が人類を指していることは想像に難くない。かつてテクノロジーを極めた人類が滅び、新たな種族による統治へと変わっていくという設定は、まさしくポストアポカリプス的だ。一見するとよくあるテーマのように思えるかもしれないが、本作ならではの興味深い点は、こうした歴史が信仰と一体となっている点にある。ゲーム内に用意されている教会では、ウサギの歴史において「いかに巨人が悪で、ウサギが優れているのか」を神父が雄弁に語り、“かつての歴史や文化”を「滅び去った時代が遺した呪い」と位置付け、宗教的な禁忌と見做している。こうした考えは信仰の大小を問わず、生活の基盤としてウサギたちの社会全体に浸透しており、それは教会に対して反抗心を抱いているスタンプとて例外ではない。

 とはいえ、スタンプは教義自体を「そういうもの」として信じる一方で、信仰については明確に軽んじている。それどころか、ガラクタ(≒巨人たちの遺物)に対して得も言われぬ魅力を感じ、日々、愛機のロボット「ポンコツ」に跨がって、遺跡(ダンジョン)でのジャンク漁りを続けている。どれだけ「罰当たりだ」と言われようが、その日常を止めるつもりはない。

 本作のメインストーリーは、そんな生活を続けていたスタンプが、ある時、ジャンクの山に埋もれる「行方不明の娘が残したと思われるメッセージ」を発見したことを起点にして動き出していく。(スタンプ本人は鬱陶しく思っているが)とある目的のために同じくダンジョンの奥底へと向かっていく「BB団」との出会いや交流を重ねながら、未開の地をひたすらに掘り進めていくのだ。これまで、周りの人々から散々罵られてきた「ジャンク漁り」という老いぼれの趣味は、「娘を探す手段」へと変わり、その旅路は教会によって封印されてきた「歴史の真実」を解き明かす過程でもある。

やや荒削りではあるが、「掘り進める楽しさ」がユニークな中毒性を生み出すゲーム性

 『Rusty Rabbit』のゲームプレイの大部分は、複数のエリアで構成されたダンジョンの深部を目指す2D探索アクションとなっており、いわゆるメトロイドヴァニアに分類されるだろう。ダンジョン内にはさまざまなモンスターやトラップ、パズルなどの障害が配置され、背丈の何倍もあるようなボスたちも待っている。特定の武器やスキルを活用しなければ先に進むことができないエリアも設けられており、ジャンルの基本は一通り揃っているという印象だ。

 本作ならではの特徴としては、世界観を体現するように、マップの至るところに土のブロックやジャンクの塊、ガラクタの入ったコンテナなどが配置されていることだろう。場所によっては、ブロックが画面いっぱいに敷き詰められており、探索の過程では(初期武器でもある)ドリルを使って『ミスタードリラー』や『マインクラフト』のようにひたすらに掘り進めていくことになる。ブロックを掘れば経験値が手に入るし、ガラクタは武器やアップグレードパーツを作るための材料になるので、主人公を強化するためにも積極的に掘っていくことが推奨される。

 ゲームバランスについては、敵のダメージ量やモーションなど、そこまでシビアな調整にはなっておらず、デスペナルティも特にないため、慣れている人であれば比較的サクサク進めていくことができるだろう。ワープポイントの配置も適切で、一つのエリアにつき複数のセーフルーム(入るだけで体力を最大まで回復し、回復アイテムなどの購入もできる)も用意されており、メニュー画面からいつでも拠点の村へと戻ることができるため、メトロイドヴァニアとしてはかなりユーザーフレンドリーな部類だ(その代わり、進行自体はかなりリニアである)。

 一方で、プレイフィールに関しては、やや荒削りな印象があるのは否めない。特に悩まされるのは近接武器のリーチの短さで、(ドリルを筆頭に)ダメージを与えるためには敵の真横くらいまで近付く必要がある。リスクが高い割には、モンスターは(特に後半において)結構な頻度で攻撃してくるし、狭い空間に何体も配置されていて余裕がないというシチュエーションも少なくないため、プレイを重ねていくうちに「多少のダメージは覚悟してゴリ押す」というのが正攻法になってしまう。ゲームを進めていくと、もう少しリーチのある武器や遠距離武器も使えるようになるのだが、敵の種類に応じて相性の良い武器が決められていることも相まって、この問題は最後まで付きまとう。

 また、操作性に関しても、斜め方向のコントロールが難しかったり、(途中で解禁される)ワイヤー移動の判定がシビアだったりと、思った通りに操作するのはなかなかに大変だ。「オンボロのロボットを操作しているのだからしょうがない」と思えば、ある程度は納得できるのだが、それでも高所から落ちていくスタンプの姿を見るたびに、「もう!」とフラストレーションが溜まっていったのが正直なところではある。

 だが、本作ならではのユニークな魅力は間違いなく存在する。特に「ブロックを掘る」という行為にはなんとも言えない充足感があり、ステージ中に配置されたブロックを、ある時はドリルで一個ずつコツコツと、またある時はスキルを使って豪快に掘り進めていると、いつの間にかやめ時を見失っていることに気付かされる。メトロイドヴァニアといえば、「戦闘」と「探索」を反復することで生まれるリズムが、プレイヤーをゲームへ引き込む原動力となるわけだが、『Rusty Rabbit』はここに「掘削」を加えることによって、ユニークな中毒性を生み出しているのだ。本作には自動生成されるダンジョンを攻略して下層を目指す「ランダムダンジョン」もゲーム内の施設の一つとして用意されており、ここではそんな独特のリズムを何にも邪魔されることなく、心ゆくまで存分に遊ぶことができる(攻略自体は任意だが、アップグレード用のアイテムが豊富に手に入るため、挑戦する価値はある)。

魅力的な世界観の向こう側に見える、“もがく頑固オヤジ”の姿

 ゲームプレイの魅力となっている「黙々と掘り進める」という行為は、『Rusty Rabbit』という作品全体においても重要な意味を持っており、ある意味ではゲームの本質であるといっても過言ではないだろう。世間の人々から非難され、自分でもどこか「無駄かもしれない」と思いながらも、それでも「誰がなんと言おうと、俺はこれが面白いと思っているんだ」と割り切って、ブレることなく趣味に没頭するスタンプの姿を、本作はさまざまな形で肯定する。

 「ジャンク漁り」が「娘を探すための手段」へと変わるシナリオ展開はもちろんだが、特に印象的なのが、本作におけるサブクエスト的な位置付けの「レストア」である。ダンジョン内部で見つけた車(らしき何か)のパーツを組み立て、完成品を知人にプレゼントするという本パートでは、パーツを持ち帰るたびに長々とその魅力やこだわりがスタンプによって語られ、時には自身の過去にまで話が及ぶ。この語りが本当に長く、明らかに本編のカットシーンよりも時間が割かれている場合すらあるのだが、この配分は恐らく意図的なものだろう。また、知人や友人との会話を楽しむことができる「ダイナー」では、会話の選択肢が用意されており、相手に合ったベストな回答を選ぶことができれば、より良い報酬を手に入れることができる。だが、その答えを選ぶのはなかなかに難しく、「あれ、なんか微妙な反応……」と思わされることも珍しくない。

 一見すると、モフモフとしたかわいらしいウサギとポストアポカリプスSFの世界観に目を奪われるが、その向こう側に見えるのは、趣味の話となるとやたらと饒舌になり、一方でちょっとしたコミュニケーションに苦労してしまうような、哀愁漂う中年の姿に他ならない。本作はそんなギャップを見事に描き、そのうえで、「だからこそ辿り着ける“何か”があるのではないか」というメッセージを伝えようとしているように思う。

どこか現代社会とも重なる、「封印された歴史」を辿る物語

 だが、その「何か」は決して都合の良いものではない。『Rusty Rabbit』の物語を進めていくと、「自分たちが教えられた歴史に、嘘が混ざっているのではないか」、「もしかしたら、自分たちにとって都合の良いように書き換えられているのではないか」という疑念が浮かび上がっていく。前述の通り、その内容は(強い権力を持つ)教会によって、信仰という形で人々の規範として根付いており、スタンプのように過去を漁ることはもちろん、信仰に抗う行為そのものが良くないこととされている。モフモフとしたかわいらしいウサギたちの向こう側に見えるのは、宗教的な価値観に基づき、権力者の力によって歴史に都合の良いように手が加えられ、知らずしらずのうちに「そういうもの」として新たな「歴史」が広まっていく光景だ。

 「なんとなく、つい最近もこんな話を聞いたような気がする」と感じてしまうのは、きっと筆者だけではないはずだ。先日公開された話題の映画『ウィキッド ふたりの魔女』においても、歴史修正主義に対する批判的な視点が込められていたが、本作もまた、(明確に意図していたのかは不明だが)そうした動きが加速しつつある近年の現代社会を投影しているように思えてならない。

 とはいえ、本作がそうした状況に対する強いメッセージ性を持っているのかというと、必ずしもそういうわけではない。スタンプ自身は疑念を抱きつつも、ある程度は自分が教えられた歴史を信じており、物語が進んでいくにつれて明らかになっていく「真実」に対して戸惑いや葛藤を抱いていく。だが、そんな感情のブレこそが、『Rusty Rabbit』にリアルで奥深い魅力を与えているのだ。

 迷いながらも絶対に譲れないものだけは信じて前へと進み続けるスタンプの姿は、「歴史修正は良くない」とただ単純にバッサリ切り捨てるよりもリアルで共感できるし、強く胸を打たれる。しかもそれは、ゲームプレイの核となる「黙々とジャンクを掘り続ける行為」と地続きになっている。この、社会や歴史を前に圧倒されながらも、それでもひたむきに「やりたいこと」、そして「やるべきこと」をコツコツと進めていくというプロセスこそが、『Rusty Rabbit』という奇妙で尖ったゲームの、何よりの魅力なのではないだろうか。

 周りにはどうもうまく馴染むことのできない頑固オヤジが、誰に何を言われようとも、これまでの常識が覆されようとも、信念だけはブレることなく貫き続けることによって、きっと辿り着ける場所がある。だから今日も、ウサギは黙々と掘り続けるのである。

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