シチリア“裏社会”の美しくも恐ろしい生き様を知る 『マフィア:オリジン ~裏切りの祖国』をプレイして

じめっとした筆運びで描かれる丁寧な脚本と、課題が残るゲームシステム
プレイヤーはエンツォという青年を通して、裏社会にどっぷりと浸かることになる。
「マフィア」シリーズの過去作はほぼアメリカが舞台だったが、今回はシチリアの田舎社会だ。麻薬を売り捌いて大金を儲ける会社組織としての顔が強いアメリカのマフィアと違い、ドン・トリージはぶどう園のガベロット(農場管理人)として生計を立てており、地主や敵対組織との関係性に悩んでいる。スケールが小さい分、非常に土着的で、じめっとした筆運びだ。
ドラマの中心も、エンツォとドン・トリージの娘、イザベラとの恋物語であり、よりいっそうわかりやすい筋書きになっている。マフィアものというと、さして顔も出てこない男たちの名前が矢継ぎ早に捲し立てられて、殺されたりいなくなったりすることが多く、何が何だかわからなくなることもあるが(本作も御多分に漏れず、久々に出てきた脇役が瞬殺される展開が何度かある)本作はエンツォとイザベラの筋さえ追っていれば頭に入ってくるので、ストーリーがわからなくなることはないだろう。
とはいえ、脇役たちがつまらないわけではない。トリージの甥っ子で、叔父に認めてもらえないがゆえに自棄に走りがちな問題児・チェーザレや、頼れる兄貴分・ルカ、何かと仕事で世話になるガランテ商会の跡取り・レオーネ(レオ)、及び腰で優柔不断な地主のフォンタネッラ男爵、敵対組織であるスパダーロ・ファミリーの面々まで、誰も彼もがドラマのなかで役目を担っている。違和感のある行動を取ったり、つまらない発言をしたりする者は誰もおらず、よくよく練られた脚本のままエンディングまで疾走していく。
ローカライズもばっちりで、皮肉っぽい言い回しから、たった数語の感情的なセリフまで、良い塩梅で意訳されている。筆者は英語ボイスで遊んだが、声優の演技も素晴らしかった。特にドン・トリージのしわがれ声は存在感があった(『ゴッド・ファーザー』のマーロン・ブランドかと思ったが)。
また、先述した通り、本作は“シチリア人らしい感覚”を学べる作品でもある。地主とガベロットと庇護される農民の関係性、名誉ある男(マフィオーゾ)、マフィアへの入会儀式と血の掟(オメルタ)、聖人の日や公道レースといった当時のイタリア文化まで、シチリアの文化から多くのカルチャーを取り入れている。まさしく『マフィア:オリジン』の名前に相応しいタイトルだろう。
ストーリーを堪能するゲームと割り切れば、これ以上ないくらい素敵な体験ができることは間違いない。しかしながら、ゲーム部分においては、まだまだ改善すべきポイントが多いことも事実である。
先述した通り、本作は単なる「TPSとステルスとカットシーン」をサンドした形式であり、別に面白いフィーチャーがあるわけではない。銃撃戦の気持ち良さや、ステルスパートでの駆け引きも特になく、大昔のPCゲームの装いをしている。
世界観を壊したくないという気持ちはわかるが、各パートにもっとインタラクションできるオモチャがなければ、そもそもゲームである必要があるのかも怪しいと思ってしまった。
探索においても、取り立ててやるべきことはない。各地に散らばる聖人カードや新聞といった収集物を集めるくらいのもので、用意された美しい箱庭がプレイヤーに答えてくれることはないのだ。毎度のことだが、せっかくここまで美麗な箱庭を作るのだから、そこに色々と面白いアクティビティを配置してもバチは当たらないのではないか。
今回の目玉であるナイフファイトという近接戦のイベントも、ボス戦にしてはそこまで珍しいものでもなく、パリィや回避が軸のよくあるバトルシステムに落ち着いている。これを目当てに買うことはないだろう。
他にも、マップにピンを立てられなかったり、敵のAIがさして賢くなかったりと、およそ3Dアクションゲームに必要な最低限の要素が足りていない印象があった。
ゲームとしては遊びづらいところも多かったが、背景の美しさ、ストーリーの出来、シチリア文化への愛など、見応えのあるゲームだったのは間違いない。マフィア世界に興味があるのであれば、チェックしておくべきタイトルだろう。
余談だが、筆者は過去に「人情劇とアクションで描かれる“ファミリー”の世界 『マフィア』の成り立ちを読む」という記事を書いている。興味を惹かれた方は、よければ併せて読んでみてほしい。































