人情劇とアクションで描かれる“ファミリー”の世界 『マフィア』の成り立ちを読む

ゲームに頻出する『マフィア』の成り立ち

 多種多様な販売形態の登場により、構造や文脈が複雑化し、より多くのユーザーを楽しませるようになってきたデジタルゲーム。本連載では、そんなゲームの下地になった作品・伝承・神話・出来事などを追いかけ、多角的な視点からゲームを掘り下げようという企画だ。

 企画の性質上、ゲームのストーリーや設定に関するネタバレが登場する可能性があるので、その点はご了承願いたい。

 第8回は「マフィア」の成り立ちやその精神性について考えていく。

『マフィア コンプリート・エディション』発売記念トレーラー

 2Kから販売されている「マフィア」シリーズや、Rockstar Gamesの代表作である「グランド・セフト・オート」シリーズなど、主に欧米の開発会社がこぞって主題に取り上げる組織……マフィア。

 フォトリアルな箱庭のなかでも、さして違和感なくプレイヤーが暴れ回ることができるというゲーム的な要請も当然あるだろうが、マフィアはビデオゲーム登場以前からも映画や小説といったメディアには多数登場してきた。

 裏社会を牛耳る無法者たち、ファミリーを大事にする価値観など、我々は断片的なイメージこそ共有できているが、一体彼らはいつどこから発生したものなのか、どういったことを考えていたのかについてはベールに包まれている。藤沢房俊著『シチリア・マフィアの世界』を参考に、マフィアの源流を追っていきたい。

シチリア人のメンタリティが生んだ「マフィア」という現象

 マフィアの誕生を考えるにはまず、それを生んだ風土を見ていく必要がある。

 彼らを生み出したのは、長靴と形容されるイタリアの爪先から見える島、シチリアだ。地中海最大の島で、いまなおリゾート地としても人気の高い土地である。

シチリア島(画像=Unsplashより)
シチリア島(画像=Unsplashより)

 シチリア人の特性に「名誉」と「オメルタ」がある。オメルタとは暴力に対しての自己防衛や、その恐怖から生じる沈黙を意味する。古来からシチリアは数多くの異民族に支配されてきた歴史があり、被支配者同士の連帯として、沈黙を守って支配者への抵抗を示してきた。

 ようは、支配者があまりに変わりすぎるために、その時々に敷かれる法やルールなんぞよりも、自分たちのあいだで流れる空気のほうが大事であったというわけだ。このオメルタという概念は「血の掟」とも呼ばれ、犯罪組織の顔を持つようになってからのマフィア内でも、ファミリーを縛るルールとして機能する言葉になった。

 また、オメルタの柱となるのが「名誉」だ。強者から弱者を守る行為は尊敬され、それを行うものは名誉があるとして、共同体のなかで褒めそやされるのだ。逆に、その者が国家の法に従ったとしても、共同体に害を為すのであれば、不名誉な者だという烙印を押される。

 このメンタリティがマフィアの形成に重要であった。つまり、マフィアというのは尊敬される人間という意味だったのだ。

マフィアの原型「ガベロット」

 19世紀、ローマ帝国が遺していった大土地所有制により、土地貴族が農民を奴隷のごとくこき使っていたなかで、マフィアが介入し、農民を保護していた。

 具体的には、不在地主である貴族から土地を借りた借地人を「ガベロット」と呼び、彼らはその土地を細分化して農民に又貸しする。ガベロットは地主や農民が言うことを聞かない場合、暴力や恐喝を用いた。

 地主がガベロットの息のかかった人間を雇おうとしない場合は、馬や牛の首を斬り落として暗にメッセージを送ったり、農民が地代の借金を支払わない場合は、ルパラという散弾銃で撃ち殺して野原に晒したりする。こういったやり口は『ゴッドファーザー』などのノワール映画でも観たことがある人は多いだろう。

 そうして、地主と農民の双方から利益を得ていったガベロットは、次第に財を成していくこととなる。これがマフィアの原型となっていった。

シチリア・マフィアとアメリカ・マフィアの違い

 1882年にイタリアで選挙法が改正され、有権者の数が膨れ上がると、マフィアは自分たちの息がかかった人物を当選させるためにあらゆる不正選挙を行った。村長・町長はもちろんのこと、銀行も腐敗し、19世紀のうちにシチリアの行政・政治はマフィアが牛耳ることとなっていく。

 20世紀以降は徴兵逃れのために山へ逃げて山賊となった若者が、マフィアと援助し合うなどの現象も見られた。ムッソリーニ政権のファシズムとも癒着し、いよいよマフィアは政治の表裏を行き来していくこととなる。

『マフィア2』
『マフィア2』

 と、ここまではイタリア国内の話だが、彼らの魔の手は国外にも及んでおり、それを示すように多くの有名なマフィアもののフィクションがアメリカを舞台としている。これはどういうことか。

 19世紀後半、ニューヨークのリトル・イタリーで貧しく暮らしているイタリア系アメリカ人たちのあいだに、自然と組織ができていく。はじめは故郷を同じくするもの同士の互助会であったが、逮捕を逃れてアメリカに渡ってきたシチリアのマフィアらが介入することで変質していく。

『マフィア2』
『マフィア2』

 シチリア・マフィアはイタリア系アメリカ人の商人たちに「ピッツ」という税金を課す代わりに、彼らを外敵から庇護することを約束した。このマフィアに似た組織は「マーノ・ネーラ」(黒い手)と呼ばれ、後に「コーザ・ノストラ」へと発展することとなった。後者の名前は聞き覚えのある方も多いことだろう。

 彼らは1920年代の禁酒法時代に興した“商売”で莫大な資金を得て、その商売の裾野を手当たり次第に広げていくことになる。「コーザ・ノストラ」にもオメルタに相当する「法」が存在するが、売春や麻薬や違法レースなどを取り仕切っていく彼らの顔は、企業家としてのそれにすげ変わっていった。

 2Kのビデオゲーム「マフィア」シリーズを始め、多くのマフィアもののフィクションはこの転換期をネタにし、登場人物の心情やドラマの中心に据えている。マフィアとは、虐げられている同胞を助けて尊敬を得る者という面と、暴力でもって自らの商売を拡大させる恐ろしい存在というふたつの面があるのだ。

 前者は涙を誘う人情劇を描くことができるし、後者は成り上がった人間の邪悪な本性や、単純に銃や爆弾を用いたアクションシーンを見せることもできる。マフィアものが持つ多義的な作りは、そもそもの成り立ちからして担保されていたと取ることもできるだろう。

参考文献:藤沢房俊『シチリア・マフィアの世界』(講談社学術文庫・2009)

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