連載「音楽機材とテクノロジー」第17回:星銀乃丈
作編曲家・星銀乃丈と共に振り返る“創作のルーツ” DAWネイティブな幼少期を過ごし、渋谷系とアイマスに魂を震わされた新鋭

渋谷系の衝撃と作家への道のり

――あらためて、星さんの音楽的なルーツを聞かせてください。
星:一番最初はディズニーですね。中でも幼少期に観たパレードの音楽は、幼いながらにすごく感動して。今あらためて聴くとわかるのですがファンクとか、ブラックミュージックのエッセンスが入っていたりするんですよね。
あとは、親がJ-POPリスナーだったのもあって、サザンオールスターズとか、Mr.Childrenとか、ユーミン(松任谷由実)とかもたくさん聴きました。小学校高学年くらいからは日本のバンド……BUMP OF CHICKENをはじめ、RADWIMPS、SEKAI NO OWARI、ONE OK ROCKなどを通りました。
――打ち込み的な音楽への関心は、そのあとから?
星:そうですね。中学から高校くらいの時期にかけて、Corneliusとか、小沢健二とか、ピチカート・ファイヴとか、Cymbalsとか、いわゆる渋谷系・ポスト渋谷系と言われる辺りのジャンルにがっつりハマって。有機的なサウンドの中にリズムマシンを入れたりするアプローチに、当時すごく感動したんですよね。
たとえばCorneliusの『FANTASMA』は、実験的な要素のあるディズニーの作品……『ファンタジア』の音楽なんかとも近い印象があるじゃないですか。自分が好きなものが全部入っていて、「まさに!」という感じでした。
で、そこからSoundCloudも掘るようになって、「インターネットの文脈の音楽ってこうなんだ」みたいな。もう少しニッチなほうにも行ったって感じですね。
――ちなみに、自分で誰かと一緒にバンドをやろうと思ったことはなかったんでしょうか?
星:最初にギターを買った小学生のときに、同級生と組みはしたんですよ。自分の通っていた学校は音楽リテラシーが高かったのか、BUMP派とRAD派で戦ったりしていたぐらいで(笑)。そのときはオリジナルをやろうというよりは、コピーを120%突き詰めようという感じで、BUMPの「R.I.P.」という、転調しまくりで、歌詞もすごく哲学的な曲を、小学生達が夏祭りのステージで披露するみたいなことをしてました(笑)。
高校でも学祭に出たり、大学生のときにはバンドもやっていたんですが、その頃にはもう「やっぱり自分は裏方志向だろうな」と直感的に思っていて。あくまで作曲を軸としつつ、バンドは“そうじゃない自分”の趣味というか、そこから解放された秘密基地みたいな位置づけでした。自分が前に立って音楽を演奏する、というのがどういうことなのかを知りたい気持ちもありましたね。
――作家としての活動を始められたのには、どういった経緯があったんですか?活動を始められたのには、どういった経緯があったんですか?
星:高校生の頃に、ちょうど今の自分と同じくらいの年齢の堀江晶太さんが、それこそ作家として活躍しつつプレイヤーとしても活動されていて、「この人かっこいいな」と思ったんです。そんな中、堀江さんがワークショップを開く機会があると知って。堀江さんが編曲を担当しているLiSAさんの「Rising Hope」を、1時間でリアレンジするという内容だったんですけど、目の前で見て本当に感動したんです。
それで、また同じような機会があったとき、今度は当時作っていたデモをUSBに入れていって「聴いてください!」と渡したんです。でもすぐには返事が来ず、「ああ、終わっちゃったな」と思っていたら、その後「聴きました、よかったのでスタジオに遊びに来ませんか?」と連絡をいただいて。そこから伝手ができて、スタジオでレコーディングを見学させてもらったり、事務所を紹介してもらったりして、作家としての道が開けていきました。
――以前のインタビューでも「師匠」みたいな存在と話してらっしゃいましたよね。
星:そうなんです。堀江さんがいなかったら、作家にもなっていなかったかもしれないという意味で、それくらい大きい存在ですね。
――一緒にお仕事もされるようになって、あらためて堀江さんのどういうところがすごいと感じますか。
星:誰しも、ある程度の自分の型というものがあると思うんですよ。自分はどちらかというと、よく言えば研究、悪くいうと執着してしまうタイプなのですが、堀江さんって毎年毎年新しいことをずっと続けていて、聴くたびに新しい作家性を、キャリアが第一線になってからも模索されている。それがすごくかっこいいと思うし、尊敬しているところでもあります。
先輩たちがそういう模索をし続けてくれているおかげで、自分たちがより自由になれるのはとてもありがたいです。自分も囚われずに、より身軽になっていきたいなと思いますね。
「作曲」と「編曲」についての考え方
――昨年まで活動されていたユニット・tiny babyは、星さんの作家としてのキャリアとも表裏一体の活動だったと思います。ご自身の中でこちらではこういう曲を作ろうと、切り替える意識はありましたか。
星:昔はありましたね。tinyは半径数メートルくらいの狭い範囲で、自分の好きな音楽にどう向き合うかとか、身の回りにどんな音楽があれば嬉しいかを考えて、内省的に作っていたんです。
一方でアニソンは、業界や時代の中で「どういう音楽があればより良いか」を考えて作っていたので、内に向かうものと外に向かうもので違うと思っていました。でも今は「自分の中と外にどういう音楽があればいいか」という点で、結局は表裏一体なんだと感じるようになって、線引きはあまりしなくなりました。入れ込む音数だったり、テンポの速さだったり、手段の部分は確かに違う面もあるんですけど、逆に言えば変わるのは手段だけだな、という感覚です。
――星さんの作る曲には、ミドルやローのテンポでもしっかり高揚させたいという意志を感じます。DIALOGUE+のアルバムなど、他の作家さんの曲も並んでいる中で聴き比べると、より異色に聴こえる。
星:自分の場合、まっさらな気持ちで作ると、どうしてもテンポが遅めになるんですよね。それはリスナーとしてそういう曲が好きということでもあって、アニソン系のクラブイベントによく出るんですけど、共演者にも自分のセットは遅いとよく言われる(笑)。でも自分には「ナンバー2の音楽」というか、ちょっと反抗精神を持っているくらいの音楽が刺さってきたので、その気持ちに素直に、いい意味での違和感や面白さがある、自分なりの音楽を供給していきたいなと思ってます。
――編曲もたくさん手がけられていますが、編曲だけを手がける場合と、作曲から編曲まで手がける場合とで、制作のアプローチに違いはありますか。
星:「編曲も作曲の一部である」とは思っているんですよね。音をつけるということ自体がもう作曲というか。制作の進捗度合いの話でしかなくて、「作曲」という呼ばれる進捗が向こうで終わっているなら、残りは「編曲」をすればいいなみたいな感じで、違いはあまり意識していないかなと。
唯一違いがあるとしたら、作曲を担当された方の伝えたい意図だったり、ここは残したいという思いがあったりするので、それをちゃんとキャッチしなきゃいけないなと思って、より慎重になるところはあるかもしれないですね。
――編曲で、特に原曲の良さを引き出せたなとか、納得のいく作品になったなと思うものってありますか。
星:すべての作品に120%で向き合うというのが大前提の上で、自分でも説得力のあるものが作れたなと記憶に残っているのは、VTuber・百鬼あやめさんの「melting」という曲です。作詞・作曲が渡辺翔さんで、自分自身の弱いところに向き合うというようなテーマの楽曲なんですけど、自分も似たような経験をしたことがあったので、そういった意味でも説得力を持って音をつけられたんじゃないかなと。
痛みとか、自分の内面を吐露する楽曲って、「なんちゃって」でやってしまうと本当に宙ぶらりんになってしまうので、より自分の深いところに落ちていって作れた曲なのかなと思います。自分でも聴くたびに勇気づけられる作品ですね。
――自分自身のその時々の状態であったりも反映された楽曲になっていると。
星:まさに、そうですね。その時のバイオリズムが本当に、自分は出やすいので。そういう曲はすごく多いですね。
――原曲のデータを受け取る立場として、この人の作曲はすごいと思った方はいますか。
星:それで言うと、まさに渡辺翔さんは衝撃的でした。そのままリリースできるくらい、デモの段階で突き詰められているんです。大抵は伴奏とメロディという形が多い中で、FXとか、楽曲で軸になるような音遣いとかまで、すごく作り込まれていて。リハーモナイズをして、また別の方向に持っていくのか、そのままコード感を引き継いで、ブラッシュアップする形で作るのか……何回か一緒に作らせてもらっていて、毎回すごく難しいんですけど、曲そのものの軸って何だろうみたいなことをすごく考える機会になるし、他の制作時にも生きるノウハウがたくさんあるなと思います。
あとは、身の周りのトラックメイカーからも刺激を受けますね。tiny babyで一緒に活動していた かわいあこは、アニソンでは麻倉ももさんの「HIT GIRL NUMBER」を一緒に作りましたが、彼女もすごくトラックメイクが上手いし、同じ大学出身の友人でもあるPAS TASTAのyuigotも、今やトラックメイカーとして第一線で活躍していて。仕事では『D4DJ』で1曲作ったんですけど(Happy Around!「Cosmic CoaSTAR」)、自分のトラックとしての役割をすごく考えさせてもらえるので、いい友達に恵まれたなって思いますね。
――「トラックメイカー的」な考え方ってありますよね。yuigotさんには別のメディアの取材でお話を聞いたことがあって、その時には「音の機能性」を重視しているということをおっしゃっていました。音をひとつのまとまりとして捉えて、それをパーツ化して使うみたいな考え方というか。
星:そうですね、まさしくそういうところに重きを置いていて。彼と自分の間では聴こえてる何かが違うんだろうなというのを、お互いの家で曲を作ったりもした中で思ったんですよね。
何か音の、そもそものフェティシズムみたいなところの捉え方が違う。自分はメロディとして捉えるところが昔からあったんですけど、音そのものの、触れないけど、触ったらどういう感触がするんだろうとか、そういったところまで感じ取っているんじゃないかと思って。そこから自分の聴き方もちょっと変わっていきましたね。
――刺激をもらったという話で言うと、堀江晶太さん、Akkiさんと共作した「LIKE YOU o(>< = ><)o LOVE YOU?」は、「演奏してみた」動画にもあるようにジャムセッション的に作られたんですよね。そもそもそういった経験って、あまりないと思うのですが、ご自身の制作にも影響があったのではないでしょうか?
星:堀江さんもAkkiさんも、作業しているのを後ろから見ていると、身体性が伴っているんです。本当にあの動画みたいに作っていて、自分が自分に感動してるというか、前のめりになっているのがすごくいいなと思って。
2人ともすごく「判断が速い」んですよ。流れを堰き止めないように、自分自身が前のめりになりながら作るのが上手い。少しでもマイナスなものを感じたら、臆することなく一個前の作業に戻って、すぐ考え直すみたいな。
横であんなに楽しそうにブンブンやってるのを見たら、自分ももっと身体から出てくるもの、身体と直結した即興性みたいなところを信じてもいいと思えましたね。そこからは作業スピードも少し速くなったなと感じています。





















