作編曲家・星銀乃丈と共に振り返る“創作のルーツ” DAWネイティブな幼少期を過ごし、渋谷系とアイマスに魂を震わされた新鋭

星銀乃丈と共に振り返る“創作のルーツ”

 アニソン界注目の若手作曲家と聞かれて、星 銀乃丈の名前を真っ先に挙げる人は少なくないだろう。1998年生まれの星は、コロナ禍と呼ばれた時期と重なる大学生の頃よりプロとして活動、アニメ『小林さんちのメイドラゴンS』(2021年)で多くの作編曲を手がけたことで耳の肥えたリスナーの注目を浴びた。その後もアニメ系コンテンツのほか、ホロライブ・百鬼あやめやにじさんじ・叶といったトップVTuberの楽曲、幾田りらなどシンガーソングライターの編曲も手がけている。

 一方で、昨年活動を終了したユニット・tiny babyでは渋谷系由来の良質なポップスの系譜を感じさせ、2010年代半ばの「アニソンが一番音楽的に面白い」とされていた頃の――そう、あの星野源が『オールナイトニッポン』で『アイドルマスター』愛を公言したことが話題になった頃の――クロスオーバー性の最良の部分を継承している作家と言えるだろう。

 J-POPアーティストが主題歌を席巻するようになり、「アニソンならでは」のクリエイティビティを実感する機会が少なくなってきたと感じる今日この頃。そこにはさまざまな事情があるだろうが、このインタビューを読めば“あの頃”から地続きでありつつ、さらにその先を行く新世代の息吹を感じることができるはずだ。(北出栞)

「DAWネイティブ」な機材環境と視覚情報の重要性

――作曲に興味を持ったのにはどういったきっかけがあったのでしょう?

星:幼稚園児の頃、音楽を好きになったのとほぼ同時期に、家の中にシンセサイザーが1台あったんですよ。Rolandの『JUNO-106』だったかな。父が大学生の時に買ったものが置いてあったのを、ピッチベンドとかを触りながら音を出して面白がっていて。思えば、それが原体験だったなと。

 そこから、当時観ていたアニメ映画に勝手に鼻歌で劇伴をつけたり、友達に自分の頭の中で流れてる音をその場で歌って聞かせて、反応をもらって満足するみたいなことをしていました。そういえば今話していて思い出したのですが、小学生の時には親の携帯のムービー機能を使って、歌ったものを吹き込んだりもしていましたね。

――そのあと、まずは楽器でしたか?

星:そうですね。自分が小学校高学年の時に、『けいおん!』のアニメが放送されたんですよ。当時は気恥ずかしくて、親に隠れて観ていたんですけど(笑)。主人公の平沢唯ちゃんを見て、「自分もギターやりたい!」と。同時期にBUMP OF CHICKENにも熱中していたので、一番最初に自分で買ったのはレスポールのギターでしたね。

 で、弾いていく中で「この音をどうにかして録音したい」と思うようになって、中3くらいからDAWを使うようになりました。確か一番最初に録ったのは、サンボマスターの楽曲で、その時はすごく感動したのを覚えています。

――そこからどうやって作家になっていったのかについては、じっくり伺っていくとして……まずは、現在使っている主な制作機材を教えてください。DAWは何を使っていますか?

星:『Studio One』の一番新しいバージョンの『Studio One Pro 7』ですね。最初のDAWは『SONAR(※)』で、中3から高1にかけては無料版を使っていました。その頃にちょうど『Studio One 3』がリリースされて、これからこのDAWが覇権を取るんじゃないかと言われていたので、新しいツールに触れたいという興味も合わさって購入して、そこからは現在に至るまでずっと『Studio One』を使っています。

(※編注:当時のソフトウェア名。2022年に開発を停止したが、紆余曲折を経て現在は『Cakewalk by BandLab』と名前を変えてリリースされている)

――『Studio One』の気に入っているポイントを教えてください。

星:制作画面と書き出した音源で、ちょっと音が変わって聴こえてしまうDAWって、結構あるんですよ。『Studio One』はあまりその差異がないなと感じているのと、自分の身の回りの先輩も後輩も『Studio One』を使っている人たちが多いので、コライトなどをする時にプロジェクトファイルを共有できたりするのもあって、特に困ることはないなという感じですね。

――愛用しているソフト音源があれば教えていただきたいです。

星:Arturia社のソフト音源はどれも好きで、『Analog Lab』や、テクノ系のインストゥルメンタルを扱っている、D16 Groupという海外のデベロッパーの『Lush 2』というアナログシンセ系のソフト音源もよく使います。可愛いし、絶妙に古くさい音が出るんですよ。自分が聴いてきた音楽と相性がいいこともあって、よく使っていますね。

――楽器に関してはいかがでしょう?

星:弦楽器でよく使うのは、クラシックギターと、アコースティックギター、エレキはテレキャスと、ベースが2本。

 あとこのYAMAHAのミニシンセ、自分が生まれる前に出たビンテージ機材なんですけど、こちらも曲の中に使ったり愛用しています。

YAMAHA CBX-K1XG

 でも、本当に打ち込みでしか作らない曲もあるし。トラックメイカーの作るような音楽と、バンドサウンドと、ちょうど自分の好きな音楽が半々な感じなので、どちらも行き来しながら作っていくスタイルが今の自分の作家性にもつながっている気がします。

――トラックメイカー的な作り方をする時に使うものも教えてもらえますか?

星:Spliceの提供している『Beatmaker』というVSTはめちゃくちゃ使いますね。放り込んだサンプルをMIDIキーボードに割り当てることができて、鍵盤を叩きながら組み上げていくみたいなビートの作り方をよくしていて。

 Spliceで販売しているサンプルもめっちゃ使います。最初はやっぱり「いや、これそのまま使ってもいいのかな?」みたいな気持ちもあったんですけど、今やみんな普通に使うようになっていて。自分のリリースされている曲にも全然入ってるし、時代ですよね。

――ストリングスを実際のスタジオで録音することもあると思うのですが、デモの段階からこだわって作られているんですか?

星:そうですね。いつも使うのはSpitfire Audioの「Chamber Strings」,「Ólafur Arnalds Chamber Evolutions」、あとNative Instrumentsの「SYMPHONY SERIES STRING ENSEMBLE」です。

――ハードウェアは少ないですね。

星:プリアンプ1個と、オーディオインターフェースだけ。DAWネイティブ世代ってやつなんですかね。

――アイデアを膨らませていく際は、サンプルをループさせたり、打ち込みでフレーズを作ったり、もしくは実際に楽器とか弾いていく中でフレーズを組み立てていったり、どういった工程が一番多いですか?

星:両方ありますが、どちらの場合でも、本当に最初の着想源は、本などの視覚情報からくることが多くて。フォトエッセイとか、絵本とか……だからネタになりそうな本はいつも横に置いています。壁にたくさん貼ってある絵もそうで、アイデアに困ったらぼーっと見て、という感じで。

――本棚にはデザインの本もありますね。

星:実は日中はデザイン関連で会社員をしているんです。それでちょっとデザインの本が多いというのもあるかもしれない。

――そうなんですね! 音楽を作るにあたって、そういったデザイン的な考え方が影響している部分もありますか?

星:かなりあると思います。自分は建築もすごく好きで、『レゴ』とかも小さいときから好きだったんですが、やっぱりすごく音楽と相性がいいなと思いますね。

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