“JRPGらしさ”から「守破離」へ EDEN's CLINEが掴み取った『アナザーエデン』の新たな可能性と、ゲーム音楽からの解放

『アナデン』音楽の新たな可能性

 ライトフライヤースタジオのシングルプレイ専用スマホRPG『アナザーエデン』のサウンドチームから派生したバンド、「EDEN's CLINE(エデンズクライン)」。井上幹(Ba)・山上毅(Key)・林茂樹(Dr)ら各氏によって結成されたプロジェクトが、満を持して動き出した。6月3日に同作BGMのアレンジアルバム『EDEN's CLINE Arrangement Album Vol.1』をリリースし、同月27日には東京・渋谷の恵比寿CreAtoで初ライブを開催した。

 満員のライブハウスで披露された3人(+サポートメンバーのギタリスト・MASA)のパフォーマンスは、大きな物語の始まりを予感させるには十分だった。それはさながらバルオキーの旅の黎明、新章の萌芽が見られた東方、あるいは“観測不可能な”時空にたたずむ虚時層……。ライブ後の高揚感は、まさに我々が『アナザーエデン』を通じて味わってきたものだった。

 今回のインタビューは、バンドの立ち上げの経緯やアルバムの制作背景、さらには本作のサウンドデザインの根幹に迫るような話にまで及んでいる。この時点で聞ける内容はあらかた伺えた自負もあり、『アナザーエデン』のファンだけでなくJRPGやゲーム音楽を愛する人にも最後までお付き合いいただきたい。(Yuki Kawasaki)

――ライブ、本当に最高でした。アレンジの時点で興奮度が高かったのですが、生で見るとまた違った迫力があります。まずはバンド発足のきっかけからお伺いできればと思います。

井上幹(以下、井上):直接的な発端はWFSの周年ライブですよね。昨年6月にライトフライヤースタジオ10周年記念フェスが秋葉原で行われて、アナザーエデンチームは朝からライブがありました。このときはホシノオトシモノという公式バンドが主役で、僕らは企画側に回っていたのですが、2曲ほど演奏させてもらえて。このときもMASAさんにサポートで出てもらって、“これイケるのかも”といった手応えがありました。

林茂樹(以下、林):お客さんの反応もすごくよかったんですよね。やっぱりコンポーザーが出るっていうだけで、よろこんでくださって。我々もそうですけど、平澤(信之介)プロデューサーも多分手応えを感じたんだと思います。そこから“ちょっとやってみたらいいんじゃない?”みたいな流れになりまして。

井上:でも山上さんは、それ以前から社内でバンドをやりたいと思っていたように見えます。林さんもですか?

林:そうですね。山上さんと時々そういう話をしていて、我々世代は古きよきゲームメイカーのサウンドチームに憧れがあるんですよ。いつかできたらいいなとはずっと思っていて、その流れが繋がった感覚もあります。

Another Eden (JP) 5th Anniversary: Special Mini Concert by "Hoshino Otoshimono"


山上毅(以下、山上):その意味では、発端の発端は僕かもしれないですね。『アナザーエデン』自体が1980年代、90年代の日本のRPGをリスペクトしたゲームで。もともとのサウンドコンセプトが、BGMで演出をしていくというものでした。

 背景を補足すると、その当時のそのハード側の性能の制約で、フルボイスなどができないから、音楽でシーンやテーマを演出していく必要性もあったんです。それ(古きよきJRPG)を現代にどのようによみがえらせるかみたいなところで、『アナザーエデン』の音楽も作っていったんですね。なので、リリース当初からBGMはゲームそのものに重要な関わりを持っています。

 それで、先ほど林さんからもあったんですけど、僕はまさにその時代のJRPGをリアルタイムで追いかけていました。当時のゲーム会社さんたちもサウンドチームでバンドを立ち上げていて、おのおの活動されていたんです。僕が大人になってコンポーザー側に回ってから、いつか自分たちでも実現させたいなと思っていて、その意味では本当に悲願ですね。

――アナザーエデンは今年(2025年)4月でリリースから8周年を迎え、今や曲数も膨大です。アルバム『EDEN's CLINE Arrangement Album Vol.1』に収録された6曲はどのように選定されていったのでしょうか?

井上:アイデアを思いついたものを、とりあえず全部出したみたいな感じですかね?

林:自分が主観的に好きな曲だと、オーケストラの仕様だったりバンドの編成に合わない場合もあったんですよ。4人でやるならこれかな、というような選び方で曲を決めていって、各自持ち寄った曲を集めていったら自然とこうなった感じです。話し合って収録を決めた楽曲はひとつもないんじゃないかな。

井上:どういう方向性でやっていくかも分からなかったので、探り探りでしたよね。

Apocalypse Crucible-EDEN's CLINE Ver.-

――ゲーム音楽家のみなさんはジャンルに限らず様々な音楽を作らなければならないという前提がありつつ、それでも得意なサウンドはあるのではとお見受けします。たとえばロックの楽曲をアレンジしようという場合、どなたが音頭をとるのでしょうか?

林:やたらバトル曲を作ることが多いということもあって、ロックは自分ですね。ちょっと私事になってしまうんですが、10代の頃は本当にバンド野郎だったんですよ。 5年間ほどだけですが、それはもう気が狂ったようにハマってた時期があって。そのときは完全に頭がハードロックにフォーカスしていて、そのおかげでEDEN's CLINEに全力投球できているというのはあります。10代だった頃の気持ちを全部ブチ込もうと思ったら、意外とハマった。それに加えて、リーダーの幹くんの持ち味も発揮されていて、バランスが取れている気がしています。

――ライブで演奏するうえで特に苦労した曲をお聞きしてもいいですか?

林:「Violet Lightning」じゃないですかね。作曲したのが自分なので文句は言えないんですが、実際に演奏するのが本当にしんどかった(笑)。

井上:演奏面に関してはみなさんしんどかったですよね。

Violet Lightning

――「Violet Lightning」は未来外典『霊長の理と枢機の天秤』のバトルテーマなだけあって、原曲はサイバーな雰囲気がありますよね。リズムパターンがドラムンベースっぽくもあり、リスナーとしても“これを人力で実践するの……?”という怖さはありました(笑)。

林:この業界に入ってばかりの20代の頃は、バンドをすべて忘れて打ち込みに傾倒していった時期があったんです。未来を舞台にしたBGMは、その影響が強く出ているかと思いますね。その頃は主にテクノ、今もハウスミュージックが好きだったりするんですけど、そっち方面の音楽にのめり込んでいた時期があるのも事実ですね。電子音楽を取り入れたバトル曲は意図的にやっている部分もあるんですが、まぁ演奏は難しかったですね(笑)。

VioletLightning-EDEN's CLINE Ver.-

林:幹くんにとっては「Scalepiercer」も難しかったと思います。ベースの動きが激しい曲なので、自分としてはチャレンジングな感覚を持っていました。同時に、彼が弾いてくれたらさらにカッコよくなるだろうなと。ゲーム用に作った曲って、いろいろなものが付加されているんですよ。それらを再構築すると何か違ったものが見えるんじゃないかっていうのが、今回の試みの根幹のひとつでした。それに対する好奇心が“怖さ”を軽くしてくれましたね。この曲で言えば山上さんのピアノソロも本当に素晴らしかったですし。そういう意味でもおのおのの見せ場を作って本当によかったと思いますし、今後もどんどん挑戦したいなと。

山上:ゲーム音楽の制約を取っ払おうっていうのが大きなテーマでしたからね。メンバーの見せ場をどう作るかは確かに意識していたような気がします。

Scalepiercer-EDEN's CLINE Ver.-

――アルバムには収録されていませんが、ライブで大きく変貌したという点では、個人的にはアンコールで披露された「空中城郭 イージア」に触れずにはいられません。リスペクトを示す意味でグリーンキーを未来ガルレアに捧げるほど感動しました。原曲はオーケストレーションが際立っていて気付けなかったのですが、実はフュージョンだったりするのでしょうか?

井上:難しいな……。ジャンルは謎ですよね。

林:私はプログレだと思った。

井上:あー、プログレっぽさもありますね。

山上:オリジナルの「空中城郭 イージア」は僕が作曲して、幹くんがアレンジしてくれたんです。デモをもらったときに、自分の曲ながら鳥肌がたったんですよね。“こういうアレンジか!”って、このときすでに新しい発見がありました。それを今度はステージ上で演奏してみたら、またそれぞれメンバーのよさが引き立って。一段と昇華されたというか、自分が作った曲を育成してもらっている感覚があります。

林:幹くんが山上さんをリスペクトしてアレンジするっていうのがいいですよね。違った解釈で返せるっていう。

空中城郭 イージア

井上:自分の曲を編曲するのならある程度筋道が見えるんですよ。“こういうパターンもあるな”と思いながら作っているところがあって、ゲームのシーンにあわせながら分岐しているイメージがあります。その際はほとんどの場合自分でコントロールできるので作業もしやすいのですが、好きなのは他のコンポーザーが作った楽曲の編曲ですね。仲間をビックリさせたいみたいな気持ちがあるんですよ。

山上:実際めっちゃビックリしました(笑)。

林:私もね、幹くんをビックリさせたくて3部のテーマの「The Impractical Waltz」と3部後編ボス戦の「None Dynamis」を繋げてライブ用に編曲したんですけど、しっかり怒られましたね。なんてことをしてくれたんだと。

井上:いや編曲はよかったんですよ!(笑)。ベースがひたすら大変なんですって。“これを今から練習してライブでやるのか……”って思いましたもん。まぁでもそういうのもバンドの楽しみですね。

時間帝国の逆襲 序曲 The Impractical Waltz

――「ブラッドリング帯」なんかは最たる例ではないでしょうか。ライブではボコーダーまで使いこなすという……。

井上:あれは自分で書いて自分で編曲したんですけど、「ブラッドリング帯」もやっぱりビックリさせたい意図はありましたね。そもそもリミックスの醍醐味って、原曲を想起させつつ“こういうアプローチもあるんだ!”って思ってもらうことだと思うんです。できるだけ遠いところまで持っていくというか。原曲はゲームの舞台も相まって宇宙っぽくアンビエントな雰囲気で作りましたが、このアレンジはライブハウスに向けてます。

ブラッドリング帯-EDEN's CLINE Ver.-

――アナザーエデンにはボーカルトラックも多いですが、個人的には歌い手がEDEN's CLINEに関わる未来もあるのではと期待しています。それについては林さんもライブMCで仰っていましたが、今後の可能性についてお聞きしたいです。

林:いまは歌唱曲も10曲近くありますかね? 私自身は歌が下手くそなんですが、いつの間にか歌モノもたくさん書かせてもらって……。個人的にはぜひともやりたいですね。もちろんインスト曲もすごく楽しんですけど、やっぱりバンドといったらボーカルっていうのも、ちょっとあるかなと思ってまして……、あまり余計なこと言わないほうがいいですかね?(笑)。 今ちょっと(広報担当に)目線を送ってます。

井上:まぁやりましょう!(笑)。ぜひやりましょう!

Immaculate

――ではリスナー一同の楽しみということに(笑)。プロジェクトの過去にも少し立ち返りたいのですが、EDEN's CLINEに限らず『アナザーエデン』は音楽を大事にしてきたように見えます。7周年記念イベント『未完の生命と瑕疵の楽土』ではDOPEDOWNの吾龍さんをボーカルに迎えていますし、BGMの枠を超えて音楽そのものでユーザーに訴求しようとしてるのではと感じます。

井上:山上さんは『アナザーエデン』の開発初期から携わっているスタッフですけど、実際その頃から音楽の位置付けってかなり重要度が高いですよね?

山上:そうですね。最初にBGMの重要度の話をしましたが、ゲーム音楽における“サウンド”は環境音やボイス、効果音なども含みます。そのなかで『アナザーエデン』は“音楽”をしっかり打ち出していこうというコンセプトが最初期からありました。本作がリリースされた2017年にはすでにハイエンドのゲーム機も出てましたし、リッチなスマホアプリも登場してきました。3Dのリアルな世界における音の表現が広がっていく中で、『アナザーエデン』はあえてクラシックな方向に持っていったんですね。そこで古きよき“ゲーム音楽らしさ”をまず追求しました。それが“アナザーエデンらしさ”にも繋がってるような気がします。

Duress of luna

――『アナザーエデン』は最序盤から現代・未来・古代の異なる時代と世界を渡り歩くので、曲調で“らしさ”を定義するのが難しいのではと推察します。具体的な基準などはあるのでしょうか?

山上:やはり80年代のRPGのゲーム音楽に共通性を持たせているんですけど、具体的にはメロディをちゃんと聴かせるっていうところですかね。それと、先ほど歌モノの話が出ましたけど、J-POPのようにイントロとA・B・サビっていうわかりやすい展開にもこだわりました。その点はゲームリリース初期のころ特に重要視していて、それをスマートフォンで堪能していただけるようにという部分にも意欲的でした。

――「守破離」といいますか、8年を経て、今度はその基準からいかに逸脱するかというアイデアも出てきそうですよね。それについては、第29回「こみゅなま」(2023年8月2日配信)の後半で井上さんが“攻めと守りのせめぎ合い”という言葉で表現していたように記憶しています。

井上:そこが一番苦労するところじゃないですかね。林さんはそうでもないですか?

林:私の場合はサウンドディレクターの山上さんがきっちり線を引いてくれているので、作りやすいと思っています。というか、そのクオリティを担保するのに必死(笑)。それだけでずっと来てますね。むしろ私は、EDEN's CLINEのおかげでそのせめぎ合いから解放されたかもしれない。ここで好き勝手やってやろうって(笑)。

山上:最初は楽器の縛りを設けたりもしたんですよ。トランペットをソロでなるべく使わないとか。なぜかというと主張が強すぎるからで、その代わりにメロディにはバイオリンを多く使うなどして対応していたんです。そういう制限を制作に課していたんですが、ふたりに作業を渡していくうちにいいバランスで僕のアイデアをこじ開けてくれるようになってきて。「Scalepiercer」はまさにそうで、ああいったファンキーな曲ってアナザーエデンではちょっとやりづらかったんですよ。僕個人としては好きなんですけど、封印していたんです。林さんはそれを解き放ってくれたし、幹くんは3部で以前とは全然違った世界観を音で表現しているので、すごく面白いですよね。

林:……まぁ、自分的にはちゃんと守ってるつもりだったんですけどね(笑)。

Scalepiercer

――最後に大阪公演に向けて、お話できる範囲で教えてほしいです。

井上:東京と違う点で言えば、大阪では2公演やりますということですね。そしてその両方とも少し違った内容になりそうで、東京公演とも異なるセットリストになるかもしれません。だから先日恵比寿に来ていただいた方も楽しめる内容にできそうだなと。

林:もちろんアルバムの楽曲が中心にはなるんですが、親和性があるものをチョイスしてセットリストに組み込もうと考えています。ご来場のみなさん、ぜひ楽しみにしていてください!

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