『ドンキーコング バナンザ』日常生活に支障が出る面白さ 「破壊=最高!」「生態系の頂点に立つ」経験の虜に

『ドンキーコング バナンザ』が面白すぎる

 『ドンキーコング バナンザ』(以下『バナンザ』)が面白い。面白すぎて、寝ている時以外はずっとうっすらドンキーコングのことを考えてしまっている。すごいんですよ、このゲーム。

 先日、ちょっとした偶然でNintendo Switch2が買えてしまった。近所の家電量販店に、偶然入荷していたのである。その場で調べてみたら、どうやら自分は購入条件を満たしているらしい。真昼間から田舎の家電量販店をウロウロできるのはヒマなフリーランスの特権。大喜びで購入したのだった。ありがとう、田舎の家電量販店……。

 とはいえ、「Switch2ならでは」というソフトは実はまだあんまり売っていない。買えたのはSwitch2でも『マリオカート ワールド』 がセットになっていない方だし、『サイバーパンク2077』でも買おうかな……と思っていたところに発売になったのが『バナンザ』である。「任天堂が作った最新ハード向けに、任天堂が作った最新ゲーム」とは一体どんなものか。試しに買ってやってみた結果、最近は生活の全てをドンキーコングに支配されてしまった。今の自分はコングの下僕である。

 『バナンザ』は、一言で言えば「破壊と暴力を楽しむゲーム」である。ゲーム開始直後、我らが主人公ドンキーコングは突如巻き起こった大嵐に巻き込まれ、巨大な地下世界に吹き飛ばされる。そこで出会ったのは言葉をしゃべる不思議な岩。その岩の正体は、とある理由で地下世界に閉じ込められた13歳の少女ポリーンだった。バナナがほしくてたまらないドンキーコングととにかく地上へ帰りたいポリーンは、どんな願いも叶うという星の中心を目指して地下世界を下へ下へと冒険していくが、そこに悪の掘削会社「ヴォイドカンパニー」の面々が立ち塞がる……というストーリーだ。

『ドンキーコング バナンザ』©Nintendo

『ドンキーコング バナンザ』©Nintendo

 この、「ゲームの舞台が巨大な地下世界」という点が大変重要だ。オープンワールドっぽく感じるくらい広大なステージは、全て地下にある巨大な空洞の中に配置されている。全部地面の中なので、当然ドンキーコングの周囲にあるものは「掘削可能な地層」ということになる。ドンキーコングは類稀なるすさまじいパワーの持ち主であるため、殴ったり踏んづけたりすることで目に入る周囲の地面や壁を全て破壊できるのだ。『バナンザ』のステージは例えるなら「皿に乗ったケーキ」のようなものであり、ケーキの上に乗ったドンキーコングは一番下の皿以外の部分全てを破壊できるのである。

 最初は意味がわからなかったのだが、『バナンザ』は本当にマジでありとあらゆるものを殴打して破壊できる。パンチは「前方」「上方」「下方」の3方向に打ち分けることができるので、その場で下方向のパンチを打ち続ければどんどん地面に潜っていく。そのまま前方向のパンチを打てば、前方へと地中を掘り進む。スタミナゲージ的なものもなく、ドンキーコングの動作も早いので、ボタンを連打しているだけでボコボコ無限に穴を掘り進め、地形が変わってしまうレベルの大破壊を繰り広げつつ、遮るもの全てを破壊して進むことができる。これがもう、本当に単純に楽しい。地面を殴れば地表の土やらなんやらが「ドゴォ!」と吹き出し、爆発する岩を投げれば当たった地面が大きく吹き飛ぶ。ステージを破壊すること自体が楽しすぎて、なかなか話が前に進まない。

『ドンキーコング バナンザ』©Nintendo

 本作の大きな特徴として、こういった画面内のオブジェクトの破壊に対して大きなインセンティブが与えられている点がある。ドンキーコングが冒険するのは地下世界であり、地面の中にはゴールドや化石、宝箱などが多数埋まっている。適当にそのへんの地面を殴って掘るだけでもボロボロとゴールドが出現し、ボタン一発でそれらを回収することができ、回収したゴールドや化石はアイテムや様々な機能を持った衣服、回復地点である「別荘」の建設に回すことができる。これらゴールドや化石をゲットするためには、積極的に地面を破壊し、好き勝手に掘り進め、周囲の物品を破壊しまくらねばならない! 単に「物を壊さないと前に進めないステージがある」というレベルではなく、積極的に画面内のオブジェクトを破壊しまくり地面を掘りまくって穴だらけにすることが、ゲーム内で暗に推奨されているのである。おれが破壊したくてやっているんじゃなくて、任天堂が「目に映るもの全てを破壊してくれや」と語りかけてくるのだ。おれは悪くない!

 恐ろしくよくできているのは、この破壊を推奨するゲームシステムがドンキーコングというキャラクターの持ち味と密接に結びついている点だ。ドンキーコングはマリオではない。人間よりずっと巨大なゴリラであり、あらゆるものを薙ぎ倒すほどパワフルで、プリミティブで、ちょっとおバカである。そんなドンキーコングを主人公に据えて最新ハードでゲームを作るにあたって採用されたのが、「破壊=前進」「破壊=報酬」というルールなのだ。「力任せに周囲のオブジェクトを破壊しまくるパワフルなキャラクター」という、そこだけ聞いたらタダのヤバい奴みたいなドンキーコングのキャラクター性が、「破壊=最高!」という『バナンザ』のルールによってプラスの特徴へと変換され、「ドンキーコングってこういう奴なんです」という自然なプレゼンテーションにつながっている。ゲーム自体のありようとプレイヤーが操作するキャラクターの特徴が単純かつ美しく接続され、地面を殴りまくっているうちにドンキーコングというキャラクターの面白さ・キュートさが伝わってくる。すごい。

『ドンキーコング バナンザ』©Nintendo

『ドンキーコング バナンザ』©Nintendo

 さらに書けば、ゲーム自体の難易度がちょっとユルめなのも、『バナンザ』の魅力につながっていると思う。ドンキーコングの攻撃方法は、基本的に「殴打」のみである。走り回りつつターゲットに接近して、ボタンを連打してボコボコとぶん殴っているうちに、なんだか気がついたら勝っている。この戦闘方法はボス戦でもほぼ同じで、細かい駆け引きやタイミングを合わせた防御などは不要。肉薄して殴りまくって勝つ。『バナンザ』はそれだけでなんとかなる難易度に調整されている。

 特に頭を使わなくても、殴りまくるだけで画面内のほぼ全ての敵に勝利することができるという『バナンザ』のユルさは、独特の快感をもたらしてくれる。色々な攻撃を仕掛けてくる敵が登場するが、どいつもこいつも最終的にドンキーコングに殴られまくれば退散する。どういう攻撃を仕掛けてこようが、結局お前もお前もお前もコング以下。殴り続ければいつかはこっちが勝つ。つまり、プレイヤーはごく簡単に、ゲーム内の生態系の頂点に立てるのだ。生態系の頂点の位置から見下ろす地下世界は、まばゆく光り輝いている。我の前にひれ伏せ、地下世界の生物たちよ……。

 普段の生活で「生態系の頂点に立つ」という経験は、なかなかできるものではない。しかし『バナンザ』をプレイすれば、あっという間にアナタも頂点捕食者、キング・オブ・キングスである。この快感から離れられなくなり、今や自分はすっかりコングの虜だ。早く飽きてこのゲームを手放さなくては、日常生活に支障が出る。しかし、地面を掘り進み、敵を殴り飛ばす面白さは何者にも代え難い。Switch2の抽選に当たったら、ぜひ皆様にもこの快感を味わっていただきたいと思う。

『ドンキーコング バナンザ』新時代の到来を告げる超高品質アクション 「材質」を見抜き、すべてを「破壊」する遊びがヤミツキに

結論から言って、本作は傑作だった。『ドンキーコング バナンザ』は、Nintendo Switch 2専用のファーストパーティー製…

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