『ドンキーコング バナンザ』新時代の到来を告げる超高品質アクション 「材質」を見抜き、すべてを「破壊」する遊びがヤミツキに

『ドンキーコング バナンザ』をクリアした。
Nintendo Switch 2専用のファーストパーティー製ソロプレイタイトルとしては初めての大作となる本作。開発は『スーパーマリオ オデッセイ』の第8プロダクションが手掛けており、発売前から大注目されていたタイトルだ。
結論から言って、本作は傑作だった。いくつか気になる点はあるものの、およそドンキーコングや任天堂製の3Dプラットフォーマーに求める遊びはすべてあり、子どもから大人まで幅広く遊べ、やめどきが見つからないほど楽しいアクションがてんこ盛りだった。

物語は、地下世界でバナナを探していたドンキーコングが、謎の少女ポリーンと出くわすところから始まる。彼女は地下世界で悪だくみを企むヴォイドカンパニーという連中に拉致されてしまっていたのだ。
地下世界のバナナというバナナを盗み、エネ ルギーに変えて「星の中心」を目指しているヴォイドカンパニー。どうもそこでは、なんでも願いを叶えることができるらしい。ヴォイドカンパニーとバナナを争奪しつつ、ドンキーは大量のバナナを、ポリーンは地上に帰ることを願うために、星の中心を目指すのだった。

本作は『スーパーマリオ オデッセイ』同様に、道中に隠されている大量のバナモンドという収集物を集めつつ、ステージギミックを攻略したり、ボスを倒したりしながら、さらに深層へと進んでいくという作りだ。ゲーム自体は非常に丁寧な導線が貼られており、一部のストーリークリアには必須ではないバナモンドの取得以外では、攻略に困ることはないだろう。
本作の特長は何と言っても「破壊」である。ドンキーコングはその剛腕でもって、フィールドのありとあらゆるオブジェクトを破壊できる(一部、破壊できないものも存在する)。床らしい床は大抵壊したり剥がしたりできるし、破片を投げて物にぶつけたり、スケボー代わりにして駆け回ったりすることも可能だ。

この破壊というコンセプト自体が、このゲームの面白さを底上げしている部分でもあるし、やや冗長にしている部分でもある。
まず面白い点としては、すべての地面や壁、天井に「材質」の概念がある。他のゲームでいうと『Minecraft』のような感じだ。たとえば、泥は足を取られるし、投げれば他のものにくっつく。岩のような固い物質は壊すのに何度もパンチする必要がある。他にも、塩やらイバラやらチーズやらと、本当に大量の「材質」が用意されている。

これらは単に数が多いだけでなく、バナモンドの取得やストーリークリアにおいて必ず機能している。何をどこにくっつけるか、どこから持ってくるか、どんな風に扱うか、ということについて思案し、ガチャガチャと試しているうちにパズルが解けており、何度もアハ体験を味わうことができる。最近のゲームでは『Ruffy and the Riverside』とコンセプトが近いように感じた。
敵にもそれぞれ特徴があり、材質と同様に、掴んで投げたり、攻撃を誘ったりすることで、道が開けることがある。また、道中で獲得できる「バナンザ」という変身も組み合わさり、ステージを進めば進むほどさまざまなギミックが登場するので、退屈さを感じることは全くといっていいほどなかった。そしてどのステージにも納得できないものはほとんどなく、ずっと幸せな気分でアクションとパズルを楽しむことができた。

反面、かなり多くのバナモンドが、単に地中に埋まっていたり、正規のルートじゃない方向からアプローチできてしまうものがあり、あまり印象の良くない解法でたどり着けてしまうものが多かった。
この問題を加速させているのが、バナモンドや化石といった収集物の位置を教えてくれる「地図」で、オブジェクトを破壊しているとランダムでポップする宝箱から入手できることがある。

漫然とYボタンを連打し、地中を破壊しまくって宝箱やバナモンドを探すのも心地よさはあるのだが、緻密に設計されたステージ攻略を進める面白さとは相反する部分があり、何だかチグハグに感じてしまった。
ステージはそれぞれコンセプチュアルなバイオームが用意されており、そのどれもが美しい。鉄板の溶岩ステージや毒沼ステージから、食品工場といった色物まで取り揃えている。毒沼やトゲなどもそこまで邪魔ではなく、一見してげんなりするような回りくどいギミックは限界まで排除されており、ほぼ快適にアクションを楽しむことができた。

サウンドやグラフィックも申し分ない。一部、巨大な敵との戦いで処理落ちすることもあったが、複雑な破壊表現を鮮やかに描いており、携帯ゲーム機とは思えないほど高クオリティなビジュアルとゲームプレイを担保できていた。まさしく次世代機――Nintendo Switch 2を購入して遊んでいるという経験が味わえる唯一無二のソフトだろう。
ドンキーコングやポリーン、そして悪役のヴォイドカンパニーをはじめ、キャラクターたちは皆可愛らしく、活き活きとしている。特にドンキーコングの仕草は徹底して細かく作り上げられており、彼特有の大袈裟なジェスチャーは何十パターンも用意されている。

エレベーター代わりになる地下アナゴの「イーレベータ」など、相変わらず30秒で考えたような機能先行的な名前のキャラクターばかりだが、見た目の愛らしさや会話におけるテキストセンスのおかげで、どのキャラも愛らしく見えてくるのが不思議だ。

本作は今すぐ遊ぶべきマスターピースだとは思うものの、ストーリーテリングについては問題があるように感じた。
本作はアート・サウンド・ギミック・キャラクターなど、数多くの点で『スーパードンキーコング』シリーズなどの過去作をオマージュしており、任天堂オタクであればあるほどうれしいイースターエッグが山ほど盛り込まれている。

筆者も何度も泣かされた。特に楽曲のアレンジは最高で、ふとした瞬間にスーパーファミコン時代に聞いたあのフレーズが差し込まれ、心の底から感動できる。
ただし、それらイースターエッグはあくまでイースターエッグであるべきで、骨子に関わるべき部分に置いてはならないだろう。物語の後半にとある仕掛けが待っているのだが、特に大きな伏線もなく、単に懐かしい思いにさせるだけなので、それが登場する理由に納得することができなかった。

特に本作は、シリーズ作では扱ってこなかった地中世界が舞台で、新キャラクターも多くいるなかでのナンバリングではない完全新作なので、せめてメインストーリーはそれ一本で完結するお話にすべきだったのでは? と考えてしまう。

ストーリーテリングについての捉え方に疑問を覚えたものの、アクションに関してはこの世のすべてのゲームと比べてもずば抜けて良くできた作品である。Nintendo Switch 2を購入した全プレイヤーが体験すべき新時代の一本であることは間違いない。






















