歌広場淳×REKKA“eスポーツドクター”対談 eスポーツ選手の心身にかかる負荷はフィジカルスポーツと同レベル?

歌広場淳×REKKA“eスポーツドクター”対談

eスポーツドクターの認知向上&潜在的ニーズの開拓を目指して

歌広場淳:5月9日から開催される「EVO Japan 2025」にも医療スタッフ、もとい医療チームとして参加されるREKKAさんですが、あらためてどういった思いがあるのか聞かせてもらえますか。

REKKA:はい。やはり前回の経験を生かして、今回は医療チームの人数も増員していますし、より精度の高い連携がとれるように事前の準備や当日の動きの確認も進めています。

 それと、救護以外でももっとできることがあるんじゃないかということで、「EVO Japan 2025」では先ほど触れたMadCatzブースでの実験的なこともやらせてもらいますし。みなさんの目にも触れやすいところで言うと、今回は各対戦台に共用備品に対しての除菌ウェットティッシュを用意してもらえるように運営さんに話をしたり、事前の健康管理に関しても公式にアナウンスしてもらえるように働きかけました。

 それこそ緊急時に備えて、僕ら医療チームやスタッフたちはAEDの設置場所を確認しているわけなんですけど、参加者の方も知っているに越したことはないので、PDFか何かでAEDマップを作って公式サイトに載せてもらえないかと相談をしたり。

 そういったことで、徐々にeスポーツドクターとしての活動の幅を広げていけるようにと思っています。

歌広場淳:当日は大勢の方がいらっしゃるはずですし、そういったeスポーツドクターの活動に触れることで、ひとりでも多くの方にREKKAさんの思いが伝わるといいなと僕も思います。

REKKA:eスポーツドクターの必要性を感じてもらうためにも、まずは認知してもらわなければと思っているので。こうした草の根的活動が、ゆくゆくは僕の次の世代とかで、ゲーミングチーム専属のドクターが出てくるようなことにつながったりしたらいいなと。

歌広場淳:たしかに、スポーツの世界だったらスポーツドクターって当然いるものだというレベルの存在ですもんね。

REKKA:実はスポーツの世界でもスポーツドクターが携わる案件の6割は、内科的な疾患だというデータもあるんですよ。「スポーツドクター」って打撲や骨折とか整形外科的なケースを想像する人は多いと思うんですけど。

 そうであれば、eスポーツにおいては、私みたいな内科医の介入できる余地がよりあるのではないかと思ってます。
そういった潜在的ニーズをいろいろと模索していくためにも、「EVO Japan 2025」での活動をがんばろうと思っています。

 あと、プレイヤーとしても初日のトーナメントは突破したいと思っています(笑)。

歌広場淳:プレイヤーとしても参加されるんですね! 大切ですよね。いまはもうないかもしれないですけど、格ゲーマーは自分より弱いやつの話を聞かないみたいな風潮が昔はあったので(笑)。

ドライブインパクトを返すコツは「あえて意識を散らすこと」

歌広場淳:今後、世のゲーマーたちに対して「健康のためにここは正したほうがいいと思います!」と周知していきたいことなどはありますか?

REKKA:どうしても長時間座ってゲームをし続けてしまうことがあると思うので、下肢の鬱滞には気をつけてほしいと思います。ずっと座って同じ姿勢を続けることなどにより、下半身、足の血流が悪くなってしまうことですね。いわゆるエコノミークラス症候群というもので、足の血栓が飛んで肺の血管に詰まると心不全などから死亡するリスクもあるので。

 女性向けには着圧ストッキングなどもありますけど、男性はあまり関心がないと思うので、eスポーツ向けの男性用弾性ストッキングとかもあったらいいんじゃないかなと思って、実際にいまメーカーと試作に向けて動き出しているところなんです。

 もっとも、個人で作るにはいろいろと難しい部分もあるので、どこかのeスポーツチームさんと協力して開発できたらいいなと思ったりもしているんですけれど……。

歌広場淳:それこそ真のゲーミンググッズですよね。

 あとこれも気になっていたことなんですけど、メンタル面についてもこれは気をつけるべき、みたいなことはありますか?

REKKA:メンタルに関して言うと、プロゲーマーにおける“バーンアウト問題”はもっと重要視されるべきだと感じます。あ、“バーンアウト”って『スト6』のシステムの話じゃないですよ。いわゆる、“燃え尽き症候群”のことですね。

歌広場淳:ああ、そっちですか(笑)。

REKKA:バーンアウト問題に関する論文を読み漁ったことがあるのですが、一番の原因はパフォーマンスの低下なんだそうです。自身のパフォーマンスの低下にショックを受けて、選手としての活動への意欲も失ってしまう。そういった事態に対しての精神的なサポートなども積極的に行われていく世の中になったらいいなと思います。

歌広場淳:僕らゲーマーにとって、そうやって発信してくださるREKKAさんの存在はめちゃめちゃありがたいなとあらためて感じます。格ゲーマーは自分より弱いやつの話を聞かない問題じゃないですけど、たとえば家族や友人からのアドバイスだと聞く耳を持たない人も、お医者さんに言われたらやってみようかなという気になるかもしれないですから。

REKKA:そうですよね。僕自身ももっと発信の機会を増やしていきたいと思っているのですが、これまではエビデンスを重視して「eスポーツ」というくくりで海外の論文を検索して、それを紹介していたんです。

 ただ、場合によっては野球やサッカーなど、ゲーム以外の分野で有効とされている話もeスポーツに応用可能なんじゃないか、という目線で調べてみることも必要だなと思うようになってきました。eスポーツではまだエビデンスがないわけなんですけど、そればかり言っていても何も進まないので。

歌広場淳:それはあるかもしれないですよね。たとえばアーチェリーの分野でいいとされている集中力を上げる方法があったとして、それを格ゲーに応用したら対空がめちゃくちゃ出るようになった。そして、その代わりに(ドライブ)インパクトがぜんぜん返せなくなっちゃうみたいなこともあるかもしれないけれど、それだってひとつの発見だと思いますし。

REKKA:あ、ちなみにインパクトって、あまりインパクトを意識しすぎないほうがむしろ返せるって知ってますか?

歌広場淳:えっ、どういうこと!? 

REKKA:たとえば、「いま自分めちゃくちゃインパクトを警戒していたのに返せなかった……」ってことがあったりしませんでしたか。

歌広場淳:えっと、そもそも僕は基本的に返せないんです。相手が打ってくるかもしれないとすら思っていないんですよね。よくないなと思うんですけど。

REKKA:そうなんですか。まったく意識していないとさすがに返せないとは思うんですが、実は人間って意識していることに対して反応速度が落ちてしまう性質があるんです。

 たとえばなんですけど、僕がいまからペットボトルをランダムなタイミングで上から落とすので、歌広場さんは下で手を構えておいて、左手一本でキャッチしてみてください。

歌広場淳:はい。わかりました。……あ、取れちゃいました。

REKKA:いや、キャッチできちゃうんですか(笑)。ふつうにやるとこれって結構難しいはずなんですけど、実は構えている左手を意識するよりも、フリーになっている右手を意識していたほうがキャッチしやすいって話があるんですよ。

歌広場淳:へええ、なるほど。それって不思議ですね!

REKKA:僕はこれを知ってから、インパクトを最も警戒すべき場面でも、あえて対空などにも意識配分を割くようにした結果、かなりインパクトを返せるようになったんです。

歌広場淳:すごくおもしろい! そういう人体の仕組みみたいなものは格ゲーをやるうえでも知っていて損はないでしょうし、まだまだいろいろありそうですね。

ゲーマーの健康増進により、安心して競技に打ち込める未来へ

歌広場淳:最後に、REKKAさんがeスポーツドクターとして挑戦してみたいことや、今後の意気込みなどについてお聞きしたいと思います。

REKKA:僕のeスポーツドクターとしての活動や、医療の力が、eスポーツ業界にとって少しでもプラスになったらいいなと思います。

 これまでゲームはどちらかというとネガティブなイメージを持たれがちだったというか。やれゲーム脳だ、ゲーム依存症だなんだともっともらしいワードで悪者にされてきたじゃないですか。でも、ゲームは多くの人を魅了する楽しさがあって、競技シーンには胸が熱くなるようなドラマもあって、そこに多くの人が気付きつつあるというのが現在ですよね。

 だからこそ、僕のようなeスポーツドクターという存在もいっしょに知られていけば、eスポーツに関わりたいと思っている企業さんや、子どもに「eスポーツ選手になりたい」と言われた親御さんなどが、「選手の健康にも配慮が行き届いた業界なんだな」と、より安心できるような未来につながっていくんじゃないかなと思うんです。

 そのためには大手企業とのやり取りも増えることを想定して、信用面から僕個人での活動ではなく、たとえば一般社団法人化するなど、しっかりとしたeスポーツメディカルチームを組織して動いていく必要があるんじゃないかなと思っています。1~2年の話ではなく、10年後、20年後の未来を見据えてがんばっていきたいです。大切なのは格闘ゲームと同じで、諦めずに続けてみることなのかなと。

歌広場淳:そういった素敵な未来が訪れる日のためにも、我々格ゲーマーはもっともっと健康に気を遣っていくべきだと思いました。本日はありがとうございました!

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