渋谷慶一郎と古市憲寿が語り合う、AIやアンドロイドによって変わった“人間同士の関係性”

渋谷慶一郎×古市憲寿が語る“AIと人間”

「音楽や建築って言葉がない分、世界中どこでもユニバーサルに伝わる」

古市:買い物といえば、この前、香港から深センに行ったんですけど、新幹線にパスポートで乗るんですよ。改札に読み取り機があって、そこにパスポートをかざす。チケットは発券さえ必要ないと言われました。AlipayとかWeChat Payを使う時も全部パスポート登録が必須。文字通り、全部管理されているんです。

渋谷:追い続けられてる。日本はその辺すごく遅いよね。

古市:日本はよくも悪くも政府主導の監視社会ではないですよね。その分、行政サービスが不便で仕方ないんですけど。僕が気になるのは、「世間」や「空気」が主導して、言論や表現の自由がどんどん消えていることです。実は自由というのは、1970年代から80年代ぐらいがピークで、人権やコンプライアンスが叫ばれてから後退しているともいえる。どうしてもクリエイティブというのは、人を傷つけかねないのに、それさえもダメと言われる。評論だけではなく、小説や漫画などフィクションの世界でさえも、どんどん規制は厳しくなっていますよね。

渋谷:だから言葉で解釈できるものはどんどん大変になってくる。だから今、僕がやっているような言語が中心じゃない音楽はチャンスだなと思ってて。

古市:それは去年ドバイに行って感じました。音楽や建築って言葉がない分、世界中どこでもフラットな顔をして入っていけますよね。思想があったとしても明示できないから中国にも中東にも入っていける。ドバイでは立派なホールでオーケストラを聞いてきました。言葉がないって強いですね。

渋谷:そうだと思う。言葉で表現できないものって、今まで「アブストラクトなもの」とされていたけど、言葉によらない喚起されたり共有される感情が世界的な情報の均一化によって抽象的ではなくなっている感じはあるかな。

古市:まさに言葉の物語として、日本国憲法について書きたいと思っているんです。結局この国って言葉を信じてないじゃないですか。その最たるものが、憲法だと思うんです。どう読んでも、普通の日本語してはダメだろういうことが、どうとでも解釈される。新型コロナウィルスが流行した時の私権制限の手順に関しても、法律ではなく、雰囲気で乗り切りました。

渋谷:言葉を信じてない感じはすごくある。もっと言うと論理を信じてない。空気の共有とかで全てが進んでいく感じ。

古市:それはフランスとは違いますか?

渋谷:全然違うと思う。特に僕はフランス語ではなく、英語でフランス人と喋っているから強力に論理とユーモアしかない。

「自由は憧れの対象でもあり、妬みの対象でもある」

古市:渋谷さんはポップスだけでなく、オーケストラを含めて様々な分野で評価されていることが、自由でいられるのかもしれないですね。

渋谷:それはあるかもしれないけど、一つのジャンルにだけいるっていうのは住人契約みたいなもので、良いものからダメなものまで全てと付き合わないといけない。それは辛いでしょ。音楽に限らず、それこそ建築とかアートとか色んなジャンルにいれば、その中で気が合う人と面白いことだけやってられる。あと自由に見せているのもある。「自由に生きてる」というのを見せることは大事だと思ってる。多くの人が自由に生きられないから。

古市:自由は憧れの対象でもあり、妬みの対象でもある。

渋谷:だから妬まれたりとか、炎上されることを喜びとして生きるべきで(笑)。炎上すると「クソ」とか「こんな奴の音楽なんて二度と聴かない」とか言われたりするけどさ、そういう人はもともと聴いてないから、どうでもいいという。

古市:別に通りすがりの人に好かれる人はないですもんね。ネット上の知らない人に好かれる必要はありませんし。別に好かれたところで何をくれるわけでもないし。「いいね」くらい?

渋谷:嫌われる快感はあるでしょ?

古市:いやいや快感はないです(笑)。ただバズってしまうと別にいい意見も悪い意見ももう追えなくなるから、もう無になっていくんです。どうでもいいなって感じ。気にしてもしょうがない。

渋谷:僕は今起きていることをヒントに作品のコンセプトを考えたりはするけど、自分のファンや固定客を維持するためにみたいな頭の使い方は進化的じゃないから全然しない。ただ、このやり方は圧倒的に向き不向きがあるから、影響受けて似たような感じでやろうとする人もいるのも面白いなと思う。他方で再生数のことだけ気にしてる人も多いけど、メジャーでやっていたら何千万回でも収益は大したことないわけだから、自己進化的にやり続けてそれに価値を与える方法を探した方が人生としては有益だと思う。

古市:再生回数だけが莫大でも記憶に残らなかったら意味がない。俳優も同じ。心に残る役とか転機になる役は、必ずしも大ヒット映画に出ることではない。

渋谷:知らない人もいるかもしれないけど、YouTubeの再生回数って買えるわけ。お金を払って再生数を上げて、キャンペーンがバズってるように見せる手法は普通にあるから。だから論理は信じても数を信じてはいけない。そんなに聴かれなくても影響力がある音楽もあって、このアンドロイドオペラのアルバムも聞き流したり出来るようなものじゃないけど、実際にこれを聴いて大きな話が来たりということは既に起きている。針に糸を通すような話だけど、音楽して生きていくというリアリティは僕にとってはそっちにあるかな。

アンドロイド・オペラが10年かけてたどり着いた“世界の終わりのその後”の音楽 渋谷慶一郎『MIRROR』凱旋公演レポ

渋谷慶一郎が6月18日、東京・恵比寿ガーデンホールで『Android Opera TOKYO - MIRROR/Super An…

■発売情報
『ATAK027 ANDROID OPERA MIRROR』
配信:https://linkco.re/67huCCrD
CD・ATAK WEBSHOP:https://atak.stores.jp/

シングル『Midnight Swan (Android Opera ver.)』
配信限定:https://linkco.re/EtybCDss

コンサート『MIRROR Ghost』(会場:パリ・グランパレ)
URL:https://www.grandpalais.fr/fr/evenement/concert-mirror-ghost-keiichiro-shibuya

公式ウェブサイト:https://atak.jp/
 

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