『プロセカ』5周年アニバーサリーソング「ペンタトニック」制作秘話  3DMVで描く26人のパフォーマンス

『プロセカ』「ペンタトニック」制作秘話

 スマートフォン向けリズム&アドベンチャーゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下:プロセカ)の5周年アニバーサリーソング「ペンタトニック」の3DMVが話題だ。原曲はボカロPのsyudouとバルーンが手がけ、Leo/needの星乃一歌、MORE MORE JUMP!の花里みのり、Vivid BAD SQUADの小豆沢こはね、ワンダーランズ×ショウタイムの天馬司、25時、ナイトコードで。の宵崎奏と初音ミクが歌唱を担当した。一方で映像には、5ユニットに初音ミクら6人のバーチャル・シンガーを含む“全キャラクター”が登場する。これまでのアニバーサリーソングにはなかったスケール感で作られた3DMVとなっている。

 今回はその制作の裏側を、ゲームの開発をはじめ、制作進行を務めた株式会社セガの新井啓史氏、MVの考案やディレクションを手がけたマーザ・アニメーションプラネット株式会社の花田義浩氏、そして、アニメーション制作中心に担当した株式会社ディッジの勝山祐弥氏に聞いた。また、振り付け・モーションアクター業務については、当楽曲の振付を作成したTACCHI氏と株式会社ソリッド・キューブの担当ディレクターにもメールで回答をいただいている。

――まずは大まかに制作の流れを教えてください。

花田:まず、セガさんからご依頼の際に提供される楽曲データとご要望をもとに、こちら側でMVのプロットを練って、セガさんに提出します。

 実際の制作に入るのはここからです。アクターさんにどんな動きをしていただくかを考えて、そのうえで収録されたモーションをベースに、3Dでカメラレイアウトを作っていく。いわゆる、3Dの骨格を作る前半工程になります。

 モーションキャプチャーのデータをディッジさんにお渡しした段階で、アニメーション制作や背景制作が始まっていき、各パートから上がってきたデータをディッジさんがUnityに組み込みます。そこでようやく、一つのMVとして合体させる流れですね。

――セガからマーザに対して、どのようなリクエストがあったのですか?

新井:基本的にアニバーサリーソングは、一歌、みのり、こはね、司、奏と、バーチャル・シンガーのミクさんの6人で作っているんですけど、5つの音から成る音階を意味する曲名と曲を聴いた瞬間に、今回はプロセカの5ユニットをミクさんたちが包み込む形で一つになる映像を作りたいと感じたんです。

 具体的には、5周年という節目のタイミングで、プロセカにいる全ての子たちに登場してほしいという思いがありました。アニバーサリーソングの3DMV制作では、ユーザーさんに新しい体験や驚きを感じていただくことを第一に考えているので。今回だけは、特別に自分の方からマーザさんに「26人全員を登場させたいです」と無茶をお願いしていて。

花田:実は、ご依頼をいただく半年前ぐらいに、セガさんからどこかのタイミングで「全員を出そうと考えている」と聞いていたんです。当時からちゃんとシステム的に動くかの検証もしていたので、今回のお話が来た時には、僕たちとしてはすごく楽でしたね。

――「ペンタトニック」の3DMVですが、1分43秒のわずかな時間で全員を描ききったところから、制作チームの情熱がしっかりと伝わってきました。

花田:ありがとうございます。ショート尺なので、どうやって全員の印象を残すか。そういう課題はありました。用意した島でユニットがわちゃわちゃしているスタイルにしたんですけど、最後に合流する歌唱メンバー以外のメンバーが目立ちにくくなってしまうのが難点で。

 みんなを平等に記憶に残したかったので、例えば全員をフラッシュでポンポンと紡いでいくシーンを入れたり、最後の〈12345〉と続くパートをメイン以外のキャラクターに担当してもらったりして、より印象に残るように調整していきました。

――歌唱パートの割り振りは、どのように決まっていったのでしょうか。

新井:歌い分けは、通常はセガの楽曲チームが主体となって決めて、クリプトン(クリプトン・フューチャー・メディア株式会社)さんやカラパレ(株式会社Colorful Palette)さんとすり合わせた上で最終的に決まっていく流れなんです。

 今回は、歌い分けの段階から楽曲チームに「26人全員を出したい」と事前にお伝えしていて。メインで歌うのは5人とミクさんですけど、他の子たちもちゃんと存在感を出せるように、5人のソロパートを少し長めに録ってもらうことで、各ユニットのセカイパートをしっかり見せられる歌い分けに調整してもらいました。結果として、映像に比較的落とし込みやすかったんじゃないかなと思います。

花田:本当に作りやすかったです。正直、短時間でいろんなキャラクターがミックスされてきたら、成り立たなかったなと思うので(笑)。

――サビ直前の音符のエフェクトがとても華やかでしたが、あの表現はどう生まれたのですか?

花田:最初、僕は中央の島と周囲のユニットステージがすべて地続きになっている構造を想定していたんです。でも、尺的に走る余裕はないし、ステージ規模的に難しい。これは現実的じゃないな、と。そこで、どうやって歌っている5人をセンターに送るかを新井さんと相談していく中で、“別軸の世界へワープする”という発想にシフトしていきました。

 そのうえで、3Dや2Dのアーティストさんたちと、メインステージへ移るシーンをどう見せるかを模索していたんですが、ワープ感のあるエフェクトで派手に見せたいという思いがありました。ちょうどその頃、曲名や作品に込められた思いといった情報が揃い始めて、スタッフのひとりが音符のモチーフを描いてくれて。その一案が一気に広がっていって、五線譜の5とも重なり、あの音符演出が生まれたんです。

新井:最初にマーザさんから、ユニットごとに用意した五線譜のような輪が、最後にメインステージで重なって一つになるという演出のアイデアを伺ったとき、すごく良いなと思ったんです。音符も最初は単色なんですけど、曲が進むにつれて色が加わって混ざっていく。

――それぞれの想いが積み重なっていく感じが、まさにプロセカの空気感そのものだと感じます。

新井:プロセカは、個のユニットで成り立っているわけではなくて、全てのキャラクターがいてプロセカなんですよね。5周年はプロセカに関わるみんなのおかげで迎えられた節目だと伝えたかったです。

花田:それから、もともと1〜2ヶ月前くらいから、セガさんと「もう少しカメラを自由にしてみようか」「もっと動きを出してみようか」と話していたので、全員が登場する今回は絶好のタイミングだなと。思い切って暴れました。

――26人のキャラクターを動かすとなると、モーションキャプチャーのリハーサルも大変でしたよね。

花田:まさに、そのとおりで。あれだけの量のモーションを撮ったのは、「ペンタトニック」が初めてでした。

新井:この曲はダンスパートから、各ユニットの子たちの動きや、〈12345〉の動きまでを、各キャラクター分撮る必要があったので、いつもの日数では収まらなくて。2日間かけて収録しました。

勝山:ID管理も大変でしたね……。

――〈12345〉のポーズを取らせるアイデアは、どなたの着想だったのでしょう?

花田:僕です。実際に、数字を立てるポーズをしているイラストや画像をリサーチしても、世の中にあまりなかったんですよね。2でも、雰囲気に合った2、今風の2みたいに、2だけでもいろんな表現がありますし。

新井:(東雲)絵名だったらカメラに向かって可愛いポーズをとるし、(青柳)冬弥だったらそんなにファンサしないイメージが浮かぶ。そういうキャラクターのイメージを踏まえて撮っていくので、そのあたりは撮影時にだいぶ詰めた記憶があります。

――アニメーション制作段階で、キャラクターごとの表情づけはどう行っていったのか教えてください。

勝山:普段はキャラクターごとに担当者を分けて、個性を理解してもらいながら調整していくんですけど、26人分を分担すると意思統一が難しくなってしまう。そこで今回は初めて、全てのキャラクターの表情を一人の担当者にまとめてお願いしたんです。

花田:アニメーション制作をしていく中で、一人が全員分を担当するのはなかなか大変なことですよね。一人の手で仕上げても、最終的に合体させたときにバラつきが出てしまうことも多いですし。

勝山:ですから、今回は一番、下地となる情報量が多かったんですね。普段は、過去のMVのキャラクターたちの表情を元に制作していたんですけど、今回は3DMVでは表現できないことがあるという前提のもとで、Live2Dやメンバーイラストの表情まで全部集めました。

花田:もはや、総力戦ですね。

勝山:ユーザーさんが見られる範囲の全てを網羅したフォルダが出来上がっている状態です(笑)。

花田:いやー、恐ろしい(笑)。

――新しいアプローチもありつつ、さまざまなトライアンドエラーと想いの積み重ねが、「ペンタトニック」の3DMVにつながったんですね。

花田:そうですね。最初の草案をまとめるときは、いろんな文化、作品、現代アートなど、心にビビッと来る素材が見つかるまで広く探し回りました。

 自分がイメージしているものを、さらに広げてくれるキーは、どこかに落ちているんです。64×64の小さな画像でも、それが自分の中のイメージと結びついた瞬間、一気に化学反応が起きて世界が広がる。その瞬間を探すために、普段から1日中ウェブを眺めていることも多いですね。

新井:普段からいろんなものを見るようにするのは、僕らだけではなくて、3D制作者全般に言えることだと思うんです。自分も、アニメ、他社ゲームの3D映像、映画、VTuberのライブや企画映像、現実のバンドやアイドルのMVなど、とにかく目に入るものはすべて見ます。

――アニメーションの最終チェック後は、特に大きなトラブルもなく進みましたか?

勝山:仕上げたアニメーションにマーザさんからフィードバックをいただき、それを反映したうえで、セガさんやカラパレさんのご意見も加えて最終的にまとめていくんです。収録の現場でしっかり詰めていただいているので、セガさん、カラパレさんからの調整は、それほど多くはない印象で。とてもスムーズに進んでいる気がします。

花田:表情まわりでは、「このカットはこういう表情の流れでいきたいです」と細かく設計を出していますし。MV全体の流れの中で、「どのキャラクターがどんな表情をして、その時に身長や位置関係からこの数値にしてください」という細かい指示も全部お渡ししています。そういった積み重ねの成果かなと思います。

 そこに加えて、データの整合性やキャラクター差し替えなどの処理も必要で、全キャラクターが破綻なく見えるよう表情を僕たちの意図を汲んだうえで再構築してくださるのがディッジさん。まさに職人技ですよね。

勝山:難しいのが、このキャラクターならこの数値が一番映えるのに、別のキャラクターに切り替えた途端、「あれ、違う方向にいったぞ?」となってしまうことがあるところです(笑)。

新井:なるほど(笑)。お二人がおっしゃる通り、キャラクター周りは本当に言うことが少ないですね。

 「ペンタトニック」は、今後の3DMVにもつながる転機になりました。特にレオニ(Leo/need)の「スター」がわかりやすい例で。練習風景の中で楽器を持たずに、みんなでカメラに向かってポーズを取るシーンを作れるようになったのは、「ペンタトニック」で得られた機能があったからこそだと思います。

――すでに、次の6周年に向けた動きも始まっているのでしょうか。

新井:当然、6周年で何をやるかも、その先の7周年でどんなサプライズを用意するのかも考えています。向こう2〜3年は、ずっと先を見て考え続けなければいけないので、正直かなり苦しいですが、そういう用意をしておかないと、ユーザーさんに毎年新しい体験や驚きをお届けできない。だから、ここは頑張るところかなと思って、ずっと考えていて。まとまったら、あとは制作チームの皆さんに、無茶振りして作っていただく……そんな流れです。

花田:これからもたくさん無茶言ってくださいね(笑)。

――今回の3DMV制作で、一番大事にしたことは何でしょうか?

花田: 全員野球ですね。全員が登場するからこそ、とにかく全員を大切にしたいという思いがありました。ユーザーの皆さんそれぞれに推しがいるなかで、全員が出ているのに、自分の好きなキャラクターがほとんど映らなかったという悲しい思いだけは、絶対にしてほしくなくて。みんなが登場して、みんなが楽しくなれる。そういうお祭り気分が伝わる作品になればいいなと思っていました。

新井:僕個人として、一番こだわったポイントは、歌唱メンバー以外の子たちが〈12345〉で登場していくときの順番ですね。ユーザーさんの中には、誰と誰が仲が良いというイメージが、ストーリー上でも日頃の掛け合いでも自然とできていますし、この子とこの子は続いていてほしいという期待もあると思うんです。でも、周年MVだからこそ、ユニットの垣根を超えた特別なつながりも入れたかったんです。例えば、絵名の次には、兄弟である彰人が続いてほしいみたいに。そういう並びになっていると、見ている方も嬉しいと思うんですよ。だからこそ、現在のプロセカでキャラクター同士のつながりがどうなっているのかは、かなり綿密に考慮しました。

 実際、YouTube上でも「ここ仲良し組だ!」「屋上組が続いてる!」みたいなコメントを見かけて。気づいてくださる方がいると、やっぱり嬉しいですし、やってよかったなと思います。

花田:僕は、ゲームの新機能のリリース後にユーザーさんが衣装を変えたり、キャラクターを変えたりして楽しんでいるのを見ると、「こういう風になるのか」と新しく気づかされることも多いですね。

――やはり、ユーザーさんの推しへの愛情こそが、制作チームを動かすエネルギーになっているところもあるというか。

勝山:そうですね。プロセカは、ユーザーの皆さんがキャラクターを本当に好きでいてくれる作品なので、キャラクターに対する違和感だけは出さないように、常々心がけています。ユーザーさんの反応を受けて、これからも制作をブラッシュアップしていこうと思っています。

<振り付け担当のTACCHI氏&株式会社ソリッド・キューブ担当ディレクターメールインタビュー>

ーーキャラクターの振り付けを決める際に意識されたことはどのようなことでしょうか?

「あまり複雑な動きにはせずに、キャッチーな振り付けを意識しました」

ーーユニットごとの前半パートと、サビの本格ライブパートで、振り付けの見せ方をどう切り替えたのか教えてください。

「前半パートではそれぞれのユニットの関係性などを意識しつつ、個々のキャラクターもしっかり活きるよう心がけました。サビでは皆で同じ振り付けを踊ることで一体感が出るように意識しました」

ーー〈12345〉のシーンで、1キャラクターあたりの登場時間が短い中、一瞬でキャラクター性を伝えるために特に意識したポイントはありますか?

「キャラクターによってしっかりとポーズとして見せたり、動きの余韻などを見せる事を意識したりとキャラクター性が十分に感じられる事を心がけました」

ーーキャラクターの表現を掴むために、どのような資料や情報を参考にしましたか?

「今回の楽曲タイトルが「ペンタトニック」とのことで音楽的に「ペンタトニックスケールというものがどういったものなのか」を、Leo/needの演奏モーションを担当する音楽知識の深いアクターさんから共有していただく、などを行いました。楽曲内に「ドレミファソラシド」が分かりやすく使われている箇所があったため、音に合わせつつも「ファ」と「シ」の部分で動きを止めるという形で五角形を描く振付を組み込みました。該当箇所はバーチャルライブでご覧頂けます」

ーー今回の制作で大変だったものの、次回以降のクリエイティブにつながる手応えを感じた表現はありますか?

「全員が出演するということで振付の作成は時間との勝負になった部分がありましたが、無事に乗り越える事ができて今後の表現の幅が広がったように感じました。今後も3DMVに貢献出来るのがとても楽しみです!」

『プロセカ』傷ついた人々を救う2ユニットの物語とともに 25時、ナイトコードで。×バーチャル・シンガー「コネクトライブ Dreamscape」

「コネクトライブ 25時、ナイトコードで。×バーチャル・シンガー Dreamscape」の模様を、夜公演の内容を中心にレポートす…

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