渋谷慶一郎と古市憲寿が語り合う、AIやアンドロイドによって変わった“人間同士の関係性”

渋谷慶一郎×古市憲寿が語る“AIと人間”

 渋谷慶一郎が2月21日に新作『ATAK027 ANDROID OPERA MIRROR』をリリースする。同作は、AIを搭載したヒューマノイドロボットが最も人間中心主義的な芸術様式ともいえるオペラと融合し、オーケストラと共に演奏する舞台作品として、オーストラリア、日本、ドイツ、中東、パリなど世界中で上演された『MIRROR』を録音作品としてアルバム化したもの。オーケストラパートを全てソフトウェアに入れ替え、渋谷のピアノのみを唯一人間の奏でる音として収録するなど大胆な采配を試みた作品に仕上がっている。

 同作の発売を記念して、リアルサウンドテックでは渋谷の友人であり、『MIRROR』のパリ公演を目撃した社会学者の古市憲寿との対談が実現。二人の“自由な”交友関係や、古市の近作『昭和100年』などをベースにしたテクノロジーと創作に関する考え方、AIについての両者の捉え方など、多岐に渡る議論が繰り広げられた。

「テクノロジーだけが進化して、人間が全然追いついてない」

――お二人はもともとお知り合いということですが、どこで出会ったのでしょう?

古市憲寿(以下、古市):誰かの紹介でしたよね。

渋谷慶一郎

渋谷慶一郎(以下、渋谷):そうだね。誰だっけ……?全く思い出せないんだけど、8年前に僕がパリのオペラ座で公演の準備してるときにフラッと遊びにきて、たくさん話したのは覚えているから、結構長く知ってることになるんだな。とにかく我々は特定の組織に属していないし、首を押さえつける人がいないから自由すぎるわけ(笑)。意外とそういう人は少ないから、一緒に夜遊びしてても楽しいなと思う。

古市:お金だったり、事務所に縛られていたりしますからね。渋谷さんとはパリでよく会いますよね。

渋谷:そうそう。パリでご飯を食べたりとか飲んだり。

古市:2023年にパリで開催されたアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』も観ることができました。

――アンドロイドオペラをご覧になって、いかがでした?

古市:伝統的なパリ・シャトレ座とアンドロイドのギャップが面白かったです。オペラなのに近未来的で見た目にもわかりやすかった。渋谷さんの作品ってコンセプチュアルで非常にわかりやすいと同時に、その内側に色々な毒を仕込ませてあるんですよね。シャトレ座でアンドロイドが歌うだけで十分にアートとして成立しているんですが、オルタ3に時事的な内容を歌わせる。そんな異なる要素のぶつかり合いと融合がよかったです。

――コロナ禍以降から大きく時代が変わり、今年は古市さんの著書通り『昭和100年』となります。この数年で、おふたりのテクノロジーに関する距離感は変わりましたか?

渋谷:テクノロジーだけが進化して、人間が全然追いついてないというか、人間が進化しないことが際立ってきたんじゃないかな。

古市:渋谷さんは制作やアンドロイドオペラで生成AIを使っていますよね。ChatGPTも世間で騒がれる前から使っていました。

渋谷:ChatGPTはずっと使ってる。ただ現状だと音楽生成AIは面白いものが作れない。

古市:『Suno AI』など素人でも音楽を作れる生成AIが流行ってますが、どう思います?

渋谷:あれは音楽の作り方として「タグ付け」だから。仮に僕がDJで「月に10曲“ダンスミュージック”を作らなくちゃいけない」とかなら使えると思う。でも今までにない新しい音楽を作るみたいなのには向いてない。

古市:歌詞の生成についてはどうですか?

渋谷:詩とか歌詞はすごく面白いと思う。歌詞に関していうと、まず人間にはAI相手みたいにNGを多く出せないし。作詞家が提出したものを10回以上直し続けたら単に関係性が壊れるから(笑)。とはいえ、ChatGPTはファーストテイクが一番いいことが多くて、そこは人間っぽい。

古市憲寿

古市;確かにAIだと、いくらでもリクエストできますね。無理難題をふっかけても絶対怒らない「いいやつ」(笑)。渋谷さんは自分でも作詞できるはずですが、なぜ歌詞をAIに任せるんですか?

渋谷:僕は基本的には歌詞は書かない。というか音楽で言いたいことは大体言ってる感じがするから、音楽という枠の中で言葉で言いたいことはあまり出てこないんだよね。

 あとは、先ほどの「やり直しできる」のもひとつだけど、世界の状況を全部踏まえた上で、こちらのリクエストに応え続けるなんて、自分も含めて人間には不可能でしょ。AIで膨大に生成して人間は編集するという役割の転換も面白いと思う。

古市:なるほど、人間の役割がなくなったわけではなく、変わってきたんですね。歌詞も渋谷さんの場合はこだわりとしてAIに任せると思うんですが、普通の作詞家は共作でもいいわけですしね。

渋谷:1月に京都で開催されたGoogle Pixelのイベントでサウンドインスタレーション『Abstract Music』を設置、発表したの。部屋の中にマルチチャンネルのスピーカーを設置して、音楽が無限変化する瞑想部屋みたいなのを作ったんだけど。

 その部屋に「Google Pixel」のデザイナーであるアイビー・ロスが選んだキーワード「grounded」、「peaceful」、「rest」、「soothing」「hushed」、「content」というキーワードから3分に1度、色々な詩人を学習したAIがリアルタイムで詩を生成してリーディングされるの。その声がが音楽に混ざって、同時に日英で部屋の壁にプロジェクションされる。いわば詩人のコピーAIなんだけど十分に見入って、聞き入ってしまう。あと、たとえ無人でも3分に一度、新しい詩を生成して朗読するというのを90日続けるというのは人間だと無理だし、ある種シュールですらある。

古市:今の時代だと、労働基準法とか、人権とか、コンプライアンスとか、何かには引っ掛かりそうですね。人間の労働が厳しく制限される時代とAIの発展が同時期に進んでいるというのは興味深い。昔から『バベルの図書館』のようにあらゆる組み合わせを準備しておけば、世界中の本は網羅できてしまうという発想がありましたが、AIによって現実のものとなりつつある。

渋谷:同時にこれは受け手の問題というか人間の限界ですよね。変化し続ける音楽がある部屋にある種の説得力を持った言葉があれば、作り手は人間じゃなくてもいいってことだから。

古市:渋谷さんがオルタ4と一緒に『報道ステーション』に出た時も挑戦的な歌詞がたくさん出て、みんな「ヒヤッとした」と言ってましたけど(笑)。

渋谷:あれは当時、英語で報道されている日本のニュースをGPTに学習させただけなの。あの時点でBBCは日本では報道されてなかったジャニーズ問題を扱ってたから、それを思わせるような歌詞が出てきたりね。アンドロイドが学習した「世界から見た日本」を即興的に歌うという社会実験という気分だった。

古市:だいぶ反響があったんじゃないですか? 『報道ステーション』といえば、老若男女が観るテレビ朝日の看板番組なわけですから。

渋谷:すごくあった。でも、「テレビ局に怒られたんじゃないか」とか言ってる人が多かったんだけど、実際は大喜びだったわけ。終わった後、番組のプロデューサーから「本当にありがとうございます」とか言われちゃったりして(笑)。それを想像で「怒られたはず」とか言ってる人たちは,日頃どれだけ抑圧されてるんだっていう。反対に喜んでる人たちも多かったけどね。

古市:「言えないことを言ってくれて」みたいな?

渋谷:そうそうそう。

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