目指すのは「オタク向けmixi」「平成のインターネット」……? ユーザー爆増の純日本産SNS『Misskey』開発・運営インタビュー

『Misskey』開発・運営インタビュー

 この1年、『X(旧・Twitter)』に大きな変化が起きている。イーロン・マスクによるTwitter社の劇的な買収劇にはじまり、サードパーティアプリの停止、APIの有料化、名称変更、大量のユーザーアカウントを停止する“凍結祭り”など、これまで恩恵を享受してきたユーザーにとってネガティブな出来事も多く、こうした事件が起きるたびに「ポスト・ツイッター」について議論がなされてきた。

 個人的にもXに変わるテキストSNSの動向は注視しており、Meta社が公開したテキストSNS『Threads』のレビューや、『Mastodon』に代表される分散型SNSを取り巻く状況についても都度レポートしている。今回は分散型SNS、『Misskey』の開発を行うsyuilo氏と同サービス最大のインスタンス(ユーザーが所属するサーバー)である「Misskey.io」を運営する「村上さん」氏にインタビューを行う機会を得た。

 『Misskey』は純日本産のSNSであり、個人開発でスタートしたユニークなサービスだ。以前も記事で概要を取り上げたが、今回実際に開発・運営に携わる両名に話を伺うことで、同SNSの特長や運営の理念、特有の文化やその面白さについて深く知ることのできる貴重な機会となった。(白石倖介)

syuilo

syuilo

ソフトウェアエンジニア・クリエイター。1997年生まれ。2012年ごろからインターネット上で活動を始める。2014年にはマイクロブログサービス『Misskey』を発表し、現在もプロジェクトリーダーとして精力的に開発を続けている。他にも、モーショングラフィックス・3DCG、写真、作曲などクリエイターとしての活動は多岐にわたる。

村上さん

村上さん

Misskey.ioのインフラ担当。趣味で始めたSNS運営が大きくなり過ぎてしまい引くに引けなくなってしまったので毎月多額のお金を支払ってMisskey.ioを運営している。

個人開発のSNS「Misskey」誕生の経緯

Misskey Hub

ーーsyuiloさんが「Misskey」の開発を始めたのは2014年とのことですが、開発の経緯をお教えください。

syuilo:10年以上前から趣味で「Twitterと連携したプロフィールサービス」などいくつかのWebサービスを開発しており、その中の一つが2014年から開発を始めた「Misskey」です。もともと自分の作ったものを人に使ってもらうのが好きでWindowsのデスクトップアプリなども作っていたのですが、MisskeyのようなWebサービスはURLさえブラウザに打ち込んでもらえば使ってもらえるところに手軽さがあり、次第にWebサービスの開発がメインになりました。

 Misskeyはもともと「掲示板」サービスだったのですが、自分がフォローした人の投稿が流れる「タイムライン」の機能を実装したところそれが人気になり、掲示板というよりはマイクロブログ的な方向性で発展していくことになりました。

ーーMisskeyは2018年ごろにマイクロブログのプロトコル(共通規格)「ActivityPub」に対応し、いわゆる「分散型SNS」の要件を満たすことになります。今のように「ポスト・ツイッター」を求められているような状況ではありませんでしたが、このタイミングで「ActivityPub」に対応した理由はありますか。

syuilo:Misskeyは早い段階からオープンソースソフトウェアとして開発しており、分散型になる以前から複数のサーバーが存在していました。当時これらのサーバーは相互通信ができず、各々完全に独立したコミュニティを持っていて、当時から「それぞれのサーバー間でコミュニケーションを行う仕組みがあったら面白いね」という構想はあったのですが、実装には至っていませんでした。

 その後2016年に「Mastodon」が登場し、同時期に分散型SNSを実現するための仕様であるActivityPubも出てきます。初めて知ったとき、「Misskeyに必要なのはまさにこれだ」と直感し、ActivityPubの実装に至ります。

 そして2018年ごろ、ActivityPubに対応して分散型になったことでFediverseでもMisskeyが話題になり、ユーザー数が増えていきました。

ーー2018年にはMisskeyの公式インスタンスの運営に村上さんが参加されていますね。

syuilo:2018年8月頃、当時の公式インスタンスである「Misskey.xyz」がDDoS攻撃を受けてしまい、借りていたレンタルサーバーではインスタンスの運営を続けられなくなってしまったんです。そのタイミングで共通の知人を介して村上さんと出会い、運営を引き継ぎました。

村上さん:レンタルサーバーが使えなくなってしまったので、僕の個人サーバーに「Misskey.xyz」のデータを移管することにしたんです。結果としてはデータベースやドメインの移行作業も合わせて行うことになり、ユーザー投稿などのデータは引き継がないで、新たなインスタンスとして「Misskey.io(以下、io)」の運営をスタートしました。それが2019年の4月15日ですね。

※編注:Misskeyでは、ユーザーがインスタンス(ユーザーが所属するサーバー)を選んでそこにアカウントを作り、コミュニケーションを取ることができる。分散型SNSであるため、ほかのインスタンスにいるユーザーとも相互にやり取りができるほか、ユーザーがインスタンス自体を新たに構築することもできる。

 2018年当時syuilo氏が運営していたインスタンス「Misskey.xyz」は当時「公式インスタンス」を名乗っていたが、オープンソースの概念と相反することや他のインスタンスへの配慮から、後継インスタンスである「Misskey.io」は現在「公式」を名乗っていない。ただし、「Misskey.io」は「世界最大のMisskeyインスタンス」であり、「Misskey」というサービスの開発と「Misskey.io」というインスタンスの運営は相互協力関係にある。

参考:
syuilo氏のノート(投稿)https://misskey.io/notes/9bd9z2yics
村上さんのノート(投稿)https://misskey.io/notes/99kpfiw8ku

syuilo:こうした経緯で「Misskeyというサービスの開発:syuilo」「Misskey.ioというインスタンスの運営:村上さん」という体制が生まれて現在まで続いています。私は開発に専念できるようになりましたし、もしインスタンスの運営が私のままだったらここまでMisskeyやioを大きくすることはできなかったと思います。

7000人から30万人へと急増したユーザー数

「Misskey.io」トップページ(2023年9月時点)

ーー村上さんがioの運営に参加するうえで実現したかったことや、Misskeyを通じてやりたかったことはありますか。

村上さん:こうしたサービスはユーザー数の増加に応じてインフラの最適化が求められるわけですが、私はそういう最適化がすごく好きな人間なんです。ある環境にどれだけのアクセスが生まれて、インフラはそれにどれだけ耐えられるのか?という負荷テストが好きで、そうした環境を作って実際に運営できるというのは魅力的でした。

ーーインスタンスの運営における「最適化」とは、どのような作業なのでしょうか。

村上さん:Misskeyの仕組みやフロントの見た目というのは僕が参加した2018年から大きく変わっていませんが、ユーザーは増え続けています。特に今年はXの騒動によって急増しており、現在ioには38万人(2023年9月現在)のユーザーがいます。

 これだけのユーザーがいると、いままでと同じような仕組みで運営を続けたら多分50倍ぐらいのコストがかかってしまう。「1万人の壁」と呼んでいるんですが、オンライン接続ユーザーが1万人いると今までは80~90台ぐらいサーバーがないと接続を捌けなかったんですが、ioの開発チームでさまざまな最適化を行い、今では7台ぐらいで捌けるようになりました。

 サーバーをペットボトルに、ユーザーを水に例えると、今までは大量の2Lのペットボトルに200mLずつ水が入っていたんですが、最適化というのはこれをきちんと満タンまで入るように行う作業です。効率化されていない部分を見つけて、Linuxのパラメータを変更したり、ソフトウェアのチューニングをしたり、キャッシュを作ったり、様々な方法でサーバーの性能限界までユーザーを受け付けられるように日々整備を続けています。

ーーXの仕様変更に伴うioのユーザー急増についてですが、その推移を教えてください。

村上さん:去年の11月ごろにTwitter社の買収が話題になり、それ以前のioの登録者というのは7000人ぐらいで、コミュニティの規模感を例えるなら「Discord」のちょっとしたサーバーぐらいの感じだったんですが、買収の話題が盛り上がったときからじわじわと登録者が増え、年が明けた1月ごろには1万人を超えました。それに伴って電気代が上がってしまい、サーバーも僕の家のサーバーからクラウドに切り替えたんです。そこから3月になるとX社の大量解雇が話題になって、もっと多くの人たちが流れてきた。ユーザー数が一気に10万人ぐらいになったんです。

「Misskey.xyz」運用時に使われていた、村上さんの自宅サーバー(2018年頃)

ーー7000人のユーザーが4ヶ月で10万人になるというのは驚きです。まったく規模感が変わってしまいましたね。

村上さん:まず困ったのはサーバーのスペックです。これは前述の最適化によって対処することになりますが、次に困ったのはコンテンツ・モデレーションでした。これはスパムアカウントや悪質なBotをBANしたり、他社に対する攻撃を阻止したり、ルールに基づいて有害な投稿やユーザーを検閲・管理する業務です。

 ユーザーはその後も増え、直近だと7月は増加率が高い月でした。7月1日に20万人、7月2日で23万人、7月3日で24万人と、1日1万人ずつ増えていくような状況で、8月現在(インタビュー実施時)の登録者は33万人となっています。(編注:2023年9月現在、ユーザー数は38万人に到達)

「Misskey.io」のユーザー数推移

ーー増加したユーザーというのは、どういった方が多いですか。

村上さん:Misskeyやioのユーザーというのは、もともとわりと技術者の方が多かったんです。こういったSNSの実装や、ActivityPub・Fediverseに興味を持っている方々ですね。それに対して今回増えたユーザーの傾向としては、イラストレーターの方がものすごい勢いで増えました。理由としてはXのイラスト規制がすごい厳しくなり、BAN率がとても高くなってしまった。別にそこまで際どいイラストでなくとも、たとえば水着のキャラクターイラストとかでもいまのXではガンガンBANされてしまうんです。あとはVTuberの方ですね。加えてそういった活動をされている方のファンの方にも、「Xから、行き場がないから来ました」という方が結構います。

ーーユーザーの急増についてはどう思っていますか。

村上さん:ポジティブに捉えています。元々やりたかったサーバー監視と最適化をするうえで、こんないい環境はありません。昔は自分たちでわざと負荷をかけてテストしていたんです。大量に投票を作ってユーザーにたくさんリアクションをしてもらったりとかしていたんですが、今は普通に自分が投稿するだけで、ものすごいリアクションを頂いて、それを見ながら検査ができるので、実験現場としてとても充実しています。

 あとは、元々重かった挙動がどんどん軽くなって、ユーザーも喜んでくれるというのがやりがいになります。

ユーザーの“推し活”が運営を支える、新時代のSNS

syuilo氏、村上さん

ーー急増したユーザーに対して、かかるコストも比例して増えるものでしょうか。

syuilo:そうですね、ユーザー数が急増するなか、マネタイズをどう行っていくのかは喫緊の課題です。これはioの運営サイド・Misskeyの開発サイドどちらにも言えることで、前者に対しては現在、Misskeyにユーザーの利便性を極端に損なわない範囲でマネタイズを行いやすくする機能の実装を進めています。後者に関しては、運営者に比べて開発者はマネタイズの方法が限られるのでなかなか解決が難しいと感じています。現在はユーザーからの支援により成り立っていますが、やはりそれだけでは限界があります。

 同じくOSSであるMastodonは多くのスポンサーがいて法人化もしているので、Misskeyもそのようになれれば他の開発者に対して経済面で支援したりができるので、なにか良い方法を模索していきたいです。

村上さん:ioに関して言うと、現在(2023年8月)、サーバー費が月に200万円ぐらいかかっていて、これは最適化によって将来的には月50万円ほどまで下がる見込みなんですが、この捻出については僕のポケットマネーに加えて、主にユーザーからの支援で成り立っている状況です。ioは今まで急激なユーザー増減を経験してきたので設計がとてもスケーラブルで、ユーザーの数に応じてサーバー数も増減する仕組みになっているんですが、現在はユーザー数に対してサーバー費の1.5倍~2倍の支援を頂いている状態なので、コストをカットすれば運営自体は維持できる見通しです。

ーーこうしたサービスのマネタイズとして広告を募集することはポピュラーかと思います。

村上さん:現状広告の仕組みはありますが、タイムラインを読み込んだときに1度だけしか出てこないんです。なので仕組みとして目にする回数がかなり低いんですね。広告収益はサーバー費の10分の1もなく、収入源としては期待していません。それにXから移行してきたユーザーの気持ちを考えると、過度に広告を増やすこともユーザーにとってメリットだとは思えません。利益優先のプラットフォームからioに“逃げてきた”ユーザーも多く、そういった人からすると「お金を払ってもいいから広告を消してくれ」っていう気持ちがあると思うんです。そういう人たちがMisskeyやioの運営思想に好感を持ってくれて、支援して頂いているのかなと思います。

ーーioにおける現在のユーザーの年齢層や男女比などは計測していますか?

村上さん:データを取っていないんですが、タイムラインを見ている限りでは年齢層は20代~30代の後半ぐらいのユーザーが多いと思います。男女比でいうと、イラストレーターやVTuberの方には女性も結構いる印象ですが、そうした方々のファン層は男性が圧倒的に多いですね。全体としては女性3割、男性7割ぐらいでしょうか。

 あと、これはMisskey、というよりFediverseの理念として「トラッキングをしない」っていうのは運営をするうえで意識しています。ioも今後、バグの検出や人気機能を調べるような目的でトラッキングツールを導入する可能性はありますが、そこでユーザーの傾向を収集したり、ましてやそれを売る、というようなことをするつもりはありません。「SNSのマネタイズ」というと、「広告の掲載」と「ユーザーデータの販売」がまっさきに浮かびますが、そこを目指しているわけではなく、むしろそれがなくても運営できる主体を目指しており、ユーザーの皆様にもそれを支持していただいていると思います。

ーー過度な広告もユーザートラッキングもせず、その運営自体にファンがいて、支援によって成り立っているということですよね。かなりユニークな運営スタイルだと思います。

村上さん:個人的には、日本特有のスタイルだと思います。日本はスーパーチャットの率が世界一なんですが、人の活動を応援したい、その人に活動を続けてほしい、というモチベーションで他人を支援することにすごくポジティブな国なんですよね。そういう仕組みとioで起きていることはとても近くて、自分が支援したことによってMisskeyやioが成長する姿を見ることを楽しんでくれている側面があると思います。

ーー“推し活”のようなスタイルですね。

村上さん:まさにそうです。自分の話をすると、村上さんというキャラが自分のアバターのように支持されている状況があり、「村上さんを応援しよう」というようなモチベーションで支援を頂いていることを感じます。タイムラインに村上さんのイラストが大量に流れてくるのを見ると、やはり「運営のキャラクター化」と「それを応援したい、推したい」というファンの方の気持ちが相互に作用したことで、支援をいただけている。VTuberの文化に近いです。自分としてはなんか不思議な気持ちで、自分はただサーバーを強化して遊びたかっただけなのに、どんどんファンが増えてしまって、ちょっと戸惑いもあります。

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