「LINEスタンプ」は各国の文化と価値観を映す鏡だった? キーパーソンに聞く“世界のスタンプ事情”

宗教や文化が影響する海外のスタンプ事情
ーー世界各国で利用されるスタンプの地域ごとの志向や好みの違いは何かありますか?各国ごとに特徴や特色も交えて教えていただきたいです。
渡辺:まず、日本では可愛くてキャラクターや季節、イベントに合わせた限定スタンプなどが多く作成されています。スタンプランキングでも可愛い猫といったファニーなキャラクターが上位にランクインしていますが、これは台湾やタイでも同様の傾向が見られます。

台湾では可愛いキャラクターのほかにも、夜市の食べ物や伝統文化をモチーフにしたスタンプなどもユニークなものになっています。タイに関しては、仏教に関連した「合掌」や「像」などのユーモアのあるスタンプがよく使われています。
その一方で、インドネシアやマレーシアでは、日本のような「可愛いキャラクター」よりも「リアルな人間キャラクター」が好まれる傾向があり、コミカルでユーモアに富んだスタンプが利用されていると感じています。
たとえば、日本のスタンプのキャラクターは2等身が多いですが、インドネシアではマッチョな男性キャラクターが好まれています。この違いには、宗教の影響が大きいのではないかと考えています。
キリスト教とイスラム教では“偶像”に対する考え方が異なるため、LINEスタンプで好まれるキャラクターにも違いが生まれているのかもしれません。とくにインドネシアやマレーシアは多民族国家であり、多様性を反映したスタンプや、断食月などのイスラム教の習慣に合わせたスタンプが生まれているのが特徴的だと言えます。
そのほか、アメリカでは引き続きDCコミックスやマーベルといった、いわゆる“アメコミ”のキャラクターが人気を集めています。一般的に、あまり幼稚な印象を与えるようなスタンプは受け入れられにくい傾向があります。
ーーLINEは、日本、台湾、タイの3か国で圧倒的なシェアを誇っていますが、直近の台湾やタイにおけるスタンプのトレンドはどのようなものがありますか?
渡辺:台湾では高雄市と提携し、「猫爪抓」(Meow Zhua Zhua)といったLINEスタンプのキャラクターを川に浮かべるユニークな活動が行われており、現地のキャラクターがバルーンに浮かぶ様子が話題になりました。とくに「スメリーキャット」というキャラクターが有名で、現地のサービスとのコラボレーションが進むなど、LINEスタンプのキャラクターがIPとして成長している状況です。
タイでは、去年話題になった小さなカバの「ムーデン」やひよこ、牛などのキャラクターが流行っています。これらのスタンプは皮肉やユーモアを交えたデザインが特徴で、タイの女性ユーザーの活発な利用を促進しています。
世界に広がるスタンプ文化。日本のコンテンツ力が普及の後押しに
ーー海外でもスタンプが受け入れられている理由はどこにあると考えていますか?
渡辺:LINEスタンプは日本発の文化として世界中に広がっていますが、各国の文化やライフスタイルに合わせてローカライズされ、現地のユーザーに受け入れられているのは、LINEスタンプの本質が「テキストの情報伝達」ではなく、「感情の刺激」であり、コミュニケーションを楽しく豊かにすることだからです。これこそ、日常的にスタンプが使われる要因のひとつだと考えています。
また、日本のコンテンツの豊富さも、LINEスタンプがグローバルに展開できた大きな理由だと強く実感しています。やはり、日本のアニメや漫画といったコンテンツはいまでも世界ですごく人気があり、LINEスタンプの普及を支えているといっても過言ではありません。
ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。
渡辺:LINEスタンプを通じて、ユーザー同士のコミュニケーションをより楽しく、充実したものにしていくために、クリエイターとファンとのつながりを大事にしていきたいと思っています。
YouTuberやVtuberとは違い、「作品」を作り出すという点では、キャラクターが有名になればなるほど、それが自分のものではなくなる感覚になっていきます。作者自身の名前を前面に出すのではなく、キャラクター自体が独り歩きしていく方が持続可能な経済圏になっていくため、今後もクリエイターズマーケットのさらなる成長を目指していきたいですね。






















