「LINEスタンプ」は各国の文化と価値観を映す鏡だった? キーパーソンに聞く“世界のスタンプ事情”

日本のメッセージングアプリにおいて、不動の地位を築いたのがLINEだ。
現在、MAU(月間利用者数)は9,700万人以上(2024年12月末時点)を誇り、日本の総人口の約8割をカバーするアプリとして、幅広い年代に使われている。
まさに“生活インフラ”と呼べるほど、LINEが日々の生活に欠かせないものになっていると言えるだろう。そんなLINEの成長を大きく牽引したのが「LINEスタンプ」だ。
2014年にユーザーがLINEスタンプを制作・販売できるプラットフォーム「LINE Creators Market(クリエイターズマーケット)」をスタートして以来、10年間で累計2,300万パッケージ以上のLINEクリエイターズスタンプ(クリエイターが創作したLINEスタンプ)が販売されるなど、LINE経済圏の拡大に貢献したのだ。
さらに、日本発の文化として浸透したLINEスタンプは、国を超えて海外にも広がっており、各国でローカライズされたデザインやテーマが取り入れられている。
今回はLINEスタンプにおけるユーザー動向の変遷や、世界各国で利用されるスタンプの地域ごとの志向や好みの違いについて、LINEヤフー株式会社 執行役員 エンターテインメントカンパニー トーク事業統括本部 統括本部長 兼 執行役員の渡辺尚誠氏に話を伺った。
LINEのユーザーに大きく貢献した「スタンプ機能」
ーーまずはLINEのクリエイターズマーケットが誕生した経緯を教えてください。
渡辺:LINEは2011年6月にサービスを開始し、当初は無料通話機能だけでしたが、同年11月にLINEスタンプ機能が誕生しました。世間では無料通話が注目を集めた一方で、実際にユーザーの定着に大きく寄与したのがLINEスタンプだったんです。
とくに印象的だったのは、「LINEスタンプの登場で夫婦の会話が増えた」といったニュースが報じられたことです。スタンプは単なる情報のやり取りを超えて、感情や個性、コンテキストを非言語で伝える手段となり、結果としてコミュニケーションの活性化につながると実感したきっかけにもなりました。
クリエイターズマーケットが生まれた背景には、主に2つの理由があります。
ひとつは、当時スタンプを制作するうえで出版社や海外のライセンサーなどの権利元とアイデアを出し合いながら進めていたのですが、次第に新しい発想が生まれにくくなっていました。限られたメンバーだけで議論していても面白いアイデアは出てこないと感じ、「クリエイティブな部分をユーザーに任せよう」という発想に至ったのです。
もうひとつの理由として、結婚式のプロポーズ用など、個人的な用途で「オリジナルスタンプを作りたい」という問い合わせが多く寄せられていたことでした。ユーザー自身が自由にスタンプを作れる仕組みがあれば、こうした要望にも応えられると考え、クリエイターズマーケットの企画を開始し、2014年5月に正式リリースしました。
ーーLINEスタンプがユーザーに定着するまでに、どのような苦労があったのでしょうか。
渡辺:先ほどの「オリジナルスタンプを作りたい」というユーザーニーズに応えるためにクリエイターズマーケットを始めたわけですが、最初の1年は苦労の連続でした。急ピッチでサービスを立ち上げたため、スタンプの審査体制や配信の仕組みを整えるのに多くの時間を要してしまったんです。
また、単にクリエイターの創作活動の場を作るだけでなく、そこから新たな“スター”が生まれる環境を作らなければ、サービスとしての本当の価値が生まれないと感じていました。
こうしたなか、外部企業とのコラボやPR・マーケティング施策を積極的に行い、試行錯誤を重ねていくなかで、sakumaruさんの「うさまる」のような人気キャラクターが登場したことが大きな転機となりました。
多くの芸能人がLINE公式アカウントを持つなかで、ある方が「うさまる」のキャラクターを積極的に使用したことで一気に注目を集めたんです。
そのほか、小動物をキャラクター化したスタンプで有名なカナヘイさんや、国内外で人気を博している「ちいかわ」の作者であるナガノさんといった実力派のクリエイターも、クリエイターズマーケットでスタンプを販売したことで、サービスの活性化やLINEスタンプの利用拡大につながりました。
微妙なニュアンスや感情を伝える無言スタンプの流行
ーーLINEスタンプの利用ニーズの変化やトレンドについて教えてください。
渡辺:初期の頃は、スタンプに「おはよう」や「ありがとう」、「あけましておめでとう」などの言葉が含まれていましたが、コロナ前後からは、言葉を使わないスタンプが増えてきました。
これらは「何かが伝わって、滲み出てくる」ような感情や状態を伝えるもので、無言の圧力や曖昧な感情など、言葉では伝えきれない微妙なニュアンスを表現するようになってきています。
最近のユーザーインサイトを分析してみると、LINEはSNSと違って重要な連絡手段のため、「既読をつけたくない」とか「スペースを大きく使いたくない」「相手に迷惑をかけたくない」といった潜在的な思いが強くなっていると感じます。
そのため、大きなスタンプで主張するよりも小さい絵文字や2、3年前にリリースされたリアクション機能を使い、相手に配慮した表現が増えてきていますね。