映画版「スーパーマリオ」はなぜネガティブな“ジンクス”打破に成功したのか 90分間に詰め込まれた「楽しさ」の発見

映画「マリオ」に詰め込まれた「楽しさ」

 12月31日午後7時より、フジテレビ系列にて映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が地上波初放送される。同作は言わずとしれた任天堂の「マリオ」シリーズを原作としたアニメーション映画であり、任天堂とユニバーサル・ピクチャーズによる共同出資のもと、任天堂とイルミネーション(「怪盗グルー」シリーズ、「ペット」シリーズなど)の共同制作によって、2023年に全世界で公開された。

 映画版「マリオ」が成し遂げた最も大きな快挙といえば、それまで通説のように語られていた「ゲームの映画化は難しい」というジンクスを軽快に打ち破ったことだろう。それは、(『オッペンハイマー』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』を抑えて)2023年における世界興行収入ランキング2位という大ヒットの時点で明らかではあるが、それ以上に「大みそかのゴールデンタイムにテレビ放送するコンテンツ」として大抜擢されたという事実の方が、作品の位置付けを踏まえれば重要かもしれない。(放送局も時代も異なるが)言わば、アニメ「ドラえもん」と同様の扱いを受けているのだから。

 実際、映画版「マリオ」はそうした扱いが実によく似合う作品だ。同作の持つ魅力といえば、なんと言っても「マリオ」というシリーズの持つ「ピュアな楽しさ」を約90分の上映時間の中にぎっしりと詰め込んだことにある。さまざまな障害物が設置されたコースを一気に駆け抜けたり、虹のコース上で激しいカーチェイスをしたり、さまざまなアイテムを使ってネコやタヌキの姿に変身しながら戦ったり、不気味な場所を恐るおそる探索したりと、これまでのゲームで描いてきたさまざまな「楽しさ」が見事に抽出され、見る人を飽きさせないように無駄なくテンポ良く配置されている。マリオやルイージ、ピーチ姫にクッパといったおなじみのキャラクターたちも、アニメというフォーマットに合わせて、もともと持っている個性をさらに誇張する形で表現されており、作品全体におけるポップな存在感をさらに強調している(なかでも、クッパがピーチ姫への想いを情熱的に歌い上げるミュージカル・シーンは屈指の名場面で、公式YouTubeにアップされている動画は1億再生を超えている)。

Bowser - Peaches (Official Music Video) | The Super Mario Bros. Movie

 だからこそ、映画版「マリオ」は、たとえこれまでゲームの「マリオ」を遊んだことがなくても問題なく楽しめる仕上がりとなっている。なぜなら、従来のゲームを原作とした映画作品が“原作のストーリーや世界観”を映画というフォーマットで表現することに注力しているのに対して、本作は原作の“「楽しい」と感じられる要素”を表現することを徹底しているからである。2Dマリオでジャンプやダッシュを駆使してコースを踏破する楽しさは、試行錯誤を重ねて障害物コースに向き合うマリオの姿へと変換され、「マリオカート」で色鮮やかなレインボーロードを(落下の恐怖に怯えながら)疾走する興奮は、まるで『マッドマックス』のような激しいカーチェイスと、誇張の極みとも言える「トゲゾーこうら」の存在感によって表現されている。

 また、ストーリー面においても「配管工の一般人が巨悪から姫を救う」という(よく考えたらだいぶ共感しづらい)定番のプロットから、マリオとルイージの兄弟愛と、自国の危機へと立ち向かうピーチ姫の姿を基軸とした内容へと大胆に変更することによって、原作を知らなくてもなんとなく共感できるようになっている。はっきり言って、本作のストーリーは各シーンをやるために用意された以上の何物でもなく、たとえば『インサイド・ヘッド 2』のように映画内のキャラクターの行動を通してこれまでの人生を振り返ったり、人間という存在そのものをより豊かに感じたりといったディープな体験を味わえる可能性は、ないとは言わないけれども限りなく低い。だが、それは他ならぬゲームの「マリオ」においても同様であり、「最低限のストーリーさえあれば、あとは各シーンが十分に楽しければそれで良い」と割り切っているからこそ、本作は大きな成功を収めたのだろう(批評家の評価がそれほど高くない理由は、主にこの点にある)。初めてゲームに触れる人が「マリオ」を遊んで「楽しい」と感じるように、初めて映画を観る人でも映画版「マリオ」を見て「楽しい」と感じる、それこそが本作の制作における指針であるように思えてならない。

 ここまではライト層向けに書いてきたのだが、映画版「マリオ」はこれまでシリーズに慣れ親しんできた一人のゲーマーとしてもしっかりと楽しめる作品だ。ゲーマー的な目線での見どころといえば、なんと言っても隅々まで詰め込まれた大量のイースターエッグ(小ネタ要素)だろう。『スーパーマリオオデッセイ』や『スーパーマリオ3Dランド』といった近作や「ルイージマンション」、「マリオカート」シリーズのようなスピンオフ、実質上の派生作品にあたる「ドンキーコング」シリーズを含む歴代「マリオ」作品は大前提としたうえで、『光神話・パルテナの鏡』や『パンチアウト!!』、『レッキングクルー』、『スターフォックス』、果てはニンテンドーゲームキューブまで、一つひとつを紹介するだけでも一本の記事ができてしまうくらいに、幅広い作品を参照している。また、「黒歴史」として語られることも多い、1993年の映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』を意外なほどに参照していたり(結果としてまさかの4Kレストア版のスクリーン上映が実施された)、1996年から2023年までマリオの声優を担当していたチャールズ・マーティネー氏がカメオ出演していたりと、「マリオ」やゲームへの愛が深ければ深いほど楽しめる仕上がりとなっている。なにより、ゲームにおける「マリオを動かす楽しさ」が、アニメーション映画ではこのように表現されるのか! という発見の持つ面白さは、きっとゲーマーであればあるほどより強く感じられるものだろう。

 というわけで、これまでゲームを遊んだことがない人にとっても、歴代「マリオ」シリーズを遊び込んできたゲーマーにとっても、映画版「マリオ」は十分に魅力的であり、大みそかにテレビ放送されると聞いても特に違和感を感じないくらいには圧倒的な普遍性を持っている作品だ。本編の最後でも示唆されていたが、作品の大ヒットを受けて無事に続編の制作も決定し、2026年4月の公開を予定している。続編を楽しむためにも、もしまだ見たことがないのであれば、ぜひこの機会に観てみてほしい。

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