オカルトはなぜ人を惹きつけるのか 『都市伝説解体センター』の快進撃から考える“不確かさ”が放つ魅力

『都市伝説解体センター』“不確かさ”の魅力

 2月13日、『都市伝説解体センター』が発売を迎えた。

 集英社ゲームズが手掛けるインディーゲームとして、リリース前から一定の注目を集めてきた同タイトル。発売後は、そうした期待を大きく超えていると言っても過言ではない快進撃が続いている。

 なぜオカルトは人を夢中にさせるのか。エンターテインメント/サブカルチャー領域で鉄板ジャンルへと成長しつつあるオカルトの現在地を踏まえながら、その理由と、『都市伝説解体センター』の今後の可能性を考えていく。

都市伝説の数々を解明していくミステリーアドベンチャー『都市伝説解体センター』

『都市伝説解体センター』ローンチトレーラー

 『都市伝説解体センター』は、墓場文庫が開発を、集英社ゲームズが発売を手掛けるミステリーアドベンチャーだ。プレイヤーは、怪異や呪物、異界などの調査・解体を行う民営の専門機関「都市伝説解体センター」の長・福来あざみとなり、国内屈指の能力者である廻屋渉とともに、都市伝説にまつわる依頼の解決を目指していく。

 最大の特徴は、物語が一話区切りの形式で紡がれていく点。「さまざまな情報収集を通じて真実に迫る」という同ジャンルのタイトルとしてはオーソドックスなシステムを持ちながら、このようなストーリーテリングの方法、都市伝説をテーマにした世界観、サイケデリックなピクセルアート風のグラフィックなどによって、『都市伝説解体センター』は無二の個性を放っている。

 Steamに寄せられたユーザーレビューでは、全体の約90%が好評とし、上から2番目のレビューランクである「非常に好評」へと分類されている。SNSでは、発売後から断続的にタイトル名がトレンド入り。現時点では、これ以上ないスタートダッシュを切っている状況がある。

 対応プラットフォームは、PlayStation 5、Nintendo Switch、PC(Steam)で、価格は、パッケージ通常版が税込3,740円、パッケージ限定版が税込6,930円、ダウンロード版が税込1,980円。各プラットフォームのストアでは2月26日までの期間、ダウンロード版が10%オフの税込1,782円で購入できるキャンペーンも実施中だ。

オカルトは鉄板ジャンルとなりつつある

 近年、エンターテインメントやサブカルチャーの領域では、オカルトが鉄板ジャンルへと成長しつつある。こうしたコンテンツはかねてより、テレビやラジオ、映画、芸人のネタなど、さまざまなエンタメ分野で題材とされてきたが、直近では、そのようなトレンドがYouTubeやマンガ、ゲームといった、どちらかといえば、アンダーグラウンドを出自とする分野へと波及。次々と話題の作品が生まれている。

 マンガ界隈においては、幽霊やUFOなどの怪奇現象を題材にした龍幸伸氏による作品『ダンダダン』のヒットも記憶に新しい。同作は2024年10月、待望のTVアニメ化を果たし、こちらも好評を博している。また、ゲームの界隈では、2024年5月発売のGRAVITY GAME ARISEによる推理アドベンチャー『東京サイコデミック 公安調査庁特別事象科学情報分析室 特殊捜査事件簿』もひそかに話題を集めた。往年の人気シリーズ「ファミコン探偵倶楽部」からは2024年8月、27年ぶりとなる最新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』も登場している。各作品ごとにオカルト成分の分量は異なるが、それぞれにそのエッセンスを取り込みながら飛躍を果たしている現状がある。

TVアニメ「ダンダダン」第1弾PV|24年10月放送開始

 『都市伝説解体センター』に集まる注目もまた、こうしたトレンドからの影響を受けた動きであると言える。同タイトルは「都市伝説」というワードを武器に、ミステリーやアドベンチャーのジャンルを愛好するファン以外からも、広くプレイされている状況がある。無論、話題を呼ぶ裏には、手に取りやすいインディータイトルならではの価格と、それに良い意味で不相応なゲームとしてのクオリティの高さの影響もあるのだろう。それでも、近年のオカルトの勢いには目を見張るものがあると言えるのではないか。競合であり、かつ王道でもあるホラーやサスペンスの牙城を切り崩しつつあるのが、オカルトの現在地だ。

発売から10日で広がる可能性。ドラマ、アニメとも好相性か

 なぜオカルトは人を夢中にさせるのか。その理由は、特有の不透明さにこそあると考えている。おそらく同カテゴリを愛好する人の多くは、「科学的根拠のような明確な真実に行き当たること」ではなく、「どれだけ調べを進めても、正しい答えにたどり着くわけではない」という、ある種の不確かさのようなものに惹かれているのではないか。『都市伝説解体センター』で扱う都市伝説、『ダンダダン』で扱う心霊やUFOといったオカルトは、どちらも未解明の事象である。受け手にしてみれば、はっきりとした答えを持たないことが、信じる側から信じない側までの、どこにでも立てる自由につながっている面もある。オカルトのそうした寛容な態度に好奇心や探究心を刺激された結果、気づけば夢中になっている人が多いのだろう。

 こうした構図は、陰謀論がいつの時代も存在することにも似ているのかもしれない。もちろんこの持論に、オカルトやそれに惹かれる人たちのことを貶める意図はない。人は得てして、決まった答えのない物事にほど、心を奪われてしまうものなのだ。

【好評発売中】東京サイコデミック ローンチムービー

 インディータイトルとしては、すでに十分すぎる爪あとを残しつつある『都市伝説解体センター』。今後は、他のジャンルへのメディアミックスの可能性も広がってくる。先にも述べたとおり、もともと同タイトルは、物語が一話区切りの形式で紡がれていく特徴を持っている。こうした性質は、ドラマやアニメなど、放送上の都合で話数ごとに小さなヤマ場を盛り込む必要がある媒体と相性がいい。

 私は2024年12月、人狼系SFアドベンチャー『グノーシア』のTVアニメ化について扱った記事のなかで、同様の推論を立てている。もしこの説が正しいのであれば、『都市伝説解体センター』もまた、両メディアと抜群の相性を発揮するに違いない。

 『都市伝説解体センター』の快進撃はどこまで続くか。業界に残すインパクトが大きければ大きいほど、メディアミックスの可能性も現実味を帯びてくることになる。いちインディータイトルが発売から10日ほどでそのような展望を語られる事自体、極めて異例であるとも言えるだろう。2025年の幕が開けてから約2か月。はやくも今年を表す一作が登場した。

『都市伝説解体センター』レビュー 現代を切り取る鋭さとエンタメとしてのキャッチーさが共存した傑作ADV

ミステリーアドベンチャーゲーム『都市伝説解体センター』の魅力を紹介。いまだからこそプレイするべき傑作タイトルだ。

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