ベンツとテスラ、名門ブランドと新興ブランド・ふたつの対照的なEVを乗り尽くす

今やEVモデルの開発はどのメーカーも避けて通れないものになっている。コンセプトカーは別として100年以上内燃機関を搭載したクルマ作りをしてきたドイツの名門メルセデス・ベンツ。そして2003年創業で今やEVメーカーの代名詞的存在となったアメリカのテスラ。歴史のある自動車メーカーが作ったEVと新進気鋭メーカーのそれぞれの車両『メルセデス・ベンツ EQS 450+』『テスラ モデル3』に乗ってきたので紹介しよう。
老舗ブランドが手掛けた本気のEV
動力が内燃機関からモーターへと選択肢が増えてくるなどクルマ作りが変革期を迎えようとしている。それは老舗ブランドでも例外はなく、世界中の多くのメーカーがEVをリリースするようになった。今回、日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会でステアリングを握ったEQSもその一つ。


高級車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツの電気自動車(以下EV)を「EQシリーズ」と呼び、その後に続くアルファベットが内燃機関車に相当するクラスになる。つまり試乗車の『EQS 450+』は電気自動車モデルのSクラスだ。
EQSのデビューは2021年。Sクラスを基準としたクルマ作りと言われるメルセデスにあってブランド初のEV用プラットフォームを採用。ワン・ボウと呼ばれる「弓」をイメージしたクルマのシルエットには一家言あり、コンセプトカーのような近未来的なスタイリングの実現のほか空気抵抗や居住空間にも貢献する。
2024年にはマイナーチェンジ(以下MC)を受け、内外装のデザインが刷新されたほかデジタルコンテンツやバッテリー容量も強化。後輪駆動に変化はないがモーターの出力も333PSから360PSへとアップされ、満充電あたりの航続距離も759kmに。スリーポインテッドスターのボンネットマスコットも復活している。
以上が予備知識で実際に乗ってみると、そこはさすがメルセデスと膝を叩きたくなるクルマだった。空気抵抗を考慮された格納式のドアノブを引いて運転席へ。そこは助手席までスクリーンが広がる「MBUXハイパースクリーン」が目の前に。車内の幅目一杯使ったような141cmのディスプレイパネルは圧巻。なおMCでこのスクリーンは全モデルに標準装備化された。余談だがこのディスプレイは画面の「焼き付き」を抑えるため見てもわからないように反時計回りに回転させている。

このパネルは助手席側での操作も可能でWi-Fi環境下にあればアプリなどで動画や音楽はもちろんのこと、天気やブラウザでインターネットを楽しむことも可能。

「快適」以外の言葉がない走り
走り出すとそこはメルセデスの哲学がそのままEVにも移植されている。トルクの立ち上がりが急激なモーターであろうと、レスポンスをあえて過激に高めない制御だ。これはブランド共通のやや重めのアクセルペダルと相まって、より滑らかな加速が可能。滑らかな加速は同乗者の頭の揺れを抑え、快適な移動体になる。それでいて自分の意に沿った微妙な加減速もできるのがメルセデス流。
試乗車は新設定の「エクスクルーシブパッケージ」がオプション装着されていて最大38度までのリクライニングなど至れり尽くせりの室内空間に。加えてMBUXリアエンターテイメントは右後席は動画、左後席は音楽と個々で楽しむことができるほか自分のスマホと接続し、メルセデス純正のヘッドホンでオンライン会議といった使い方も可能。

乗り味はタウンスピードでは硬めと言われるメルセデスはもはや一部のモデルだけで「S」を名乗る以上、どのような速度域でも快適。段差を通過しても揺れは優しく瞬時に収束する。重量物であるバッテリーを床下に配しているので余計に安定感も高い。切り返しの続くコーナーでもそれは同じだ。

追い越しをかける時はEVらしくトルクフルな加速を味わえるが急激な加速はしない。あくまでもジェントルな所作で速度を乗せていく。もしEVらしいトルクフルな加速を望むならばメルセデスAMGの『EQS53』が控えている。
またEVの電費面では加減速による充電ができない高速巡航でも大きく電費が落ちなかった。これは前述のボディシルエットが貢献しているはず。実はEQSの空気抵抗係数、Cd値は0.20と市販車では世界最高値。

一般的にこの数値が低いほど空気抵抗が少ない目安になっている。この驚異的に低い空気抵抗が高速巡航での電費悪化を防いでいるのも事実だろう。最善か無かの哲学で知られるブランドらしいクルマだった。
テスラ歴代最速モデル爆誕
次に試乗したのはEVの代名詞的存在となったイーロン・マスク率いるアメリカのテスラから2024年に発売開始となった『モデル3パフォーマンス(以下M3P)』。


モデル3のデビューは2016年だが逐次アップデートされ、2023年にはエクステリアにも手が入る大幅なMCとなった。意匠を変更したボディは空気抵抗係数0.219を達成した。今回のM3Pは最高出力460PS、最大トルク723Nmと歴代モデル最強を謳う。特に0-100km/hの加速性能は従来モデルに対して0.2秒速い3.1秒とされ最高速は262km/hと発表され、満充電時の航続距離は約610km。
新ジャンルの室内空間?
テスラといえば「ガジェットのようなクルマ」としても知られ、最新のモデルはさらに磨きがかかった。室内に入るとシンプルさに驚くはず。シート、ステアリング、センターのディスプレイと基本的なアイテムはあるけれど、ウィンカーやワイパーレバーといった昭和世代にはお馴染みのアイテムが見当たらない。見当たらないのではなく存在しないのだ。それはシフトレバーまでと徹底したもの。また空調の吹き出し口も巧みにデザインされている。


またスターターボタンもないので、システムのスタートはカードキーを持ってシートに座りブレーキを踏むだけ。もちろん自分のスマホにアプリを入れればそれが鍵にもなる。完全昭和世代の筆者、発進するにはDレンジにしなくてはならぬ。しかしそれが見つからない。見つからなければ座って終了になってしまう。
モデル3全体に言えることだが、シフトセレクターはセンターディスプレイにある。ディスプレイの右上をみると確かにクルマの絵があり、それを進みたい方向にスワップするだけ。このディスプレイは音声認識機能を備えており、運転に関するもの以外なら、希望温度をクルマにつぶやけば自動で制御してくれるといった芸当も可能だ。

するとM3Pは滑るように動き出す。内燃機関車のATモデルにあるようなアクセルを踏まなくても微速で進むクリープ現象だがテスラ車はセンターディスプレイでオフにするなど任意に調整ができる。走り出して次に必要なのはウィンカー操作。これはステアリングスイッチとして配される。そこまで慣れればあとは快適な移動体になる。
もはや小型ジェット機に近い加速
M3Pは前後に一つずつモーターを載せたAWD車。M3Pには新型のアダプティブダンピングと呼ばれるサスペンションシステムを搭載しており、コンマ何秒、ミリ単位でのサスペンションだけではなくクルマ自体を制御する。この恩恵は絶大で街乗りから高速、切り返しの続く山道まで快適な印象が強く残った。
自動車専用道への合流ではパフォーマンスのネーミング通りの加速が味わえる。3秒近くアクセルをいっぱいに踏めば体がシートに吸い込まれるような加速を体感できる。余談だが前述の0-100km/h加速3.1秒はスポーツカーの代名詞的存在でもあるポルシェ911ターボとほぼ同等。そんな動力性能を持ちながらも車内は驚異的に静かなこともお伝えしておきたい。2023年の大幅アップデートでは、全席に遮音性の高いアコースティックガラスが採用されている。
ガジェット系自動車の最右翼
後席の広さはモデル3に共通する美点の一つだが、アップデートにより後席用のパネルが追加された。この8インチディスプレイは前席同様に空調のコントロールはもちろん、ゲームや「YouTube」など各種エンターテイメントが楽しめるようになっている。


これだけクルマ離れしたクルマは強烈な個性で、クルマに個性を求めるユーザーは要チェックな1台だろう。加えて725万9000円からという価格は国の補助などでさらに下回る。動力性能をとっても抜群のコスパを誇る。
◯参考情報
メルセデス・ベンツEQS 450+
価格 1535万円〜メルセデス・ベンツ
https://www.mercedes-benz.co.jp/モデル3パフォーマンス
価格 724万9000円〜テスラ
https://www.tesla.com/ja_jp























