息を呑む“現代基準”ビジュアルへのアップグレード 再びアーロイの旅路をたどる『Horizon Zero Dawn Remaster』レビュー
『Horizon Zero Dawn Remaster』が10月31日、PlayStation 5とPC向けに発売された。同作は、2017年に発表されたオープンワールド・アクションRPG『Horizon Zero Dawn』を現世代向けにリマスターしたもので、グラフィックの向上に加えて、DualSenseのハプティックフィードバックやアダプティブトリガーへの対応、サウンドミックスの一新(PS5の3Dオーディオにも対応)、アクセシビリティ機能の増強といった、さまざまな変更が加えられている。
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とはいえ、今回のリマスターの目的については、一言で言い表すことができるだろう。それはずばり、『Horizon Forbidden West』基準へのアップグレードだ。
筆者個人として、現代のビデオゲームにおいて、最も素晴らしいグラフィックを誇る作品はなにかと尋ねられたら、その一つとして、間違いなく『Horizon Forbidden West』を挙げるだろう。もちろん、グラフィックの良し悪しの基準はプレイヤーによって異なるだろうが、いわゆる色彩の豊かさや、自然光がもたらす輝き、建造物のテクスチャ、そしてなにより、そうしたひとつひとつのこだわりが生み出す全体のムードが、まるで大自然のドキュメンタリーを見ているかのような感覚を与えてくれるのである。こうした体験を与えてくれる作品は、実はほかではなかなか見つけることができないものだ。
今回のリマスターにおいても、開発元が比較対象として『Horizon Forbidden West』を挙げており、今後、『LEGO ホライゾン アドベンチャー』や実写ドラマ版(制作が芳しくないという噂はあるが)など、「Horizon」フランチャイズをさらに幅広く展開していくにあたって、シリーズの原点となった作品をさらに高い基準へと引き上げようとしたのは、想像に難くない。
とはいえ、近年はリマスター作品のリリースラッシュとも言える状況が続いており、食傷気味になっているのも実情だ。個人的にも、今回のリマスターの初報を耳にしたときには「必要ある?」と思ってしまったのが正直なところである。筆者はすでにPS4版をクリア済みだし、(『アストロボット』のレビューでも触れたように)ちょうど最近PS5でDLC「凍てついた大地」を遊んだばかりだ。だが、実際にリマスターされた『Horizon Zero Dawn』に触れて感じたのは、「たしかにこれはリマスターする意味がある」という、生まれ変わったビジュアルに圧倒される感覚だった。
違いが分かる! まさに現世代機基準のビジュアルに生まれ変わった名作
見出しでこのように書いているのだが、実のところ、今回のリマスター版の最初の印象はあまり良いものではなかった。『Horizon Zero Dawn』の序盤の舞台は雪が降り積もった集落であり、雪原や洞窟など、あえてこういう言い方をすると「映える」場所ではない。人物モデルに関してもリマスターが施されているのだが、こちらについては向上しているような印象こそ感じられるものの、もともとのクオリティが高かったこともあり、パッと見で変わったかどうかを判断するのは難しい。正直、「やっぱりリマスターは必要なかったじゃないか!」と感じてしまったのが実情である。
だが、序盤のクエストをひと通り終えて、集落を離れ、色彩豊かで広大な世界へと足を踏み入れていくと、徐々に今回のリマスターの真価を感じられるようになっていった。全体的な解像感はかなり向上しており、『Horizon Zero Dawn』の大きな魅力でもある、草木や花といった植物類がかなり細やかで彩度豊かに描写されているため、まさに自然に圧倒されるかのような感覚を味わうことができる。さらに、ライティングに関しても太陽の輝きや、細部のコントラストの表現が磨き上げられているために、(特に、朝や夕方は)陽の光に照らされた大地の美しさに思わず息を呑んでしまう。こうした表現の数々が、作品全体における"自然の中にいるという感覚”を大きく高めてくれるのだ(そして、これこそが『Horizon Forbidden West』におけるグラフィックの魅力でもあった)。特に、緑が豊かなマップ東側の地域や、太陽に照らされる岩石に魅了されるメリディアン近辺では、その美しさを存分に堪能することができる。今回のレビューのために通常の『Horizon Zero Dawn』で同様のエリアをプレイして比較検証を行なっていたのだが、通常バージョンは全体的にフラットで解像感が劣っている印象を受け、その違いは明確であるように感じられた(サウンドミックスが新しくなったことも影響しているかもしれない)。
筆者は、普段アクションゲームをプレイする際には基本的にパフォーマンスモードを選択してフレームレート(1080P/60FPS)を優先するタイプだが、『Horizon Forbidden West』は数少ない例外で、4Kターゲット/30FPSのクオリティモードを選ぶことで、よりグラフィックの美しさに浸ることが多かった。今回のリマスター版にも同様のオプションが設けられているのだが、やはりクオリティモードは圧巻で、より一層に画面から豊かな空気感が伝わってくるような感覚を味わうことができるように思う。「リマスターなのに30FPS」と聞くと、普通に考えれば抵抗感を抱くだろうが、これはぜひ実際に試してみてほしい。もちろん、60FPSで安定して楽しむことができるパフォーマンスモードも十分に魅力的だ(今回は4Kターゲット/40FPSのバランスモードも用意されているのだが、個人的には中途半端な印象を受けた)。
「狩り感」をさらに味わえるDualSense対応。アクセシビリティ機能は歓迎しつつも複雑な想いも。
「Horizon」シリーズの魅力といえば、背丈の何倍もあるかのような動物型の機械を、パーツを少しずつ剥がしたり、罠を仕掛けたりしながら倒していくという荒々しい戦闘だが、今回のリマスター版ではDualSenseに対応したことによって、リアルな振動を味わえるハプティックフィードバックや、弓を引くときの手応えを感じられるアダプティブトリガーといった機能をとおして、その「狩り感」をよりリアルに楽しむことができる。個人的には(直近まで通常版をプレイしていたこともあり)トリガーが固くなったことで、従来のように弓矢を連発することが難しくなってしまったことに戸惑いを覚えたものの、慣れていくうちに楽しく遊ぶことができるようになっていった。とはいえ、これは好みの問題かもしれない。
そして、重要なのが『Horizon Forbidden West』でも注目を集めていたアクセシビリティ機能の搭載である。同作では、複数のコントローラーを接続することで、別のプレイヤーが操作をサポートすることができる「Co-Pilot機能」(PS5版のみ)や戦闘の難易度をプレイヤーに合わせて柔軟に調整できる「カスタム難易度設定」などが用意されていたのだが、これらの機能が今回のリマスター版でも使えるようになったのだ。これは単純にうれしいことなのだが、一方で不満がないわけでもない。
今回のリマスター版では『Horizon Forbidden West』に搭載されていたすべてのアクセシビリティ機能が反映されているわけではない。特に、登れる場所を自動的にハイライトしてくれる機能や、部位破壊を行わずとも戦利品を十分に収集できる「簡易収集」といったユニークかつ有用だった機能が存在しないのは、個人的には大きなマイナスであり、ぜひとも実装してほしかったのが正直なところである。また、これは『The Last of Us Part II Remastered』のレビューでも指摘したのだが、こうしたアクセシビリティ機能は、(グラフィックなどとは性質が異なり)「プレイヤーにとってのマイナスを緩和する」ものであるため、有償ではなく、無償でのアップグレードとして提供してくれることを切に願う。
また、気になるロード時間については、通常バージョン(PS5)と比較して半分程度に短縮されているような印象だ。いわゆる「一瞬で終わる」といったものを想像すると肩透かしをくらうかもしれないが、PS5に移行した時点でロード時間はかなり短縮されているため、あくまで付加価値程度に捉えるべきだろう。
総評すると、今回のリマスター版の目的は『Horizon Forbidden West』基準に合わせることにあり、ひと通りのプレイをとおして、それ自体はたしかに達成しているという印象を受けた。個人的には想像以上にリマスターの恩恵を感じることができたため、良い意味で期待を裏切られる結果となったのはたしかである。とはいえ、大前提として『Horizon Zero Dawn』は現在の基準で見ても十分に優れたグラフィックを誇るゲームであることは間違いなく、「それで十分」と思えるのであれば、無理にオススメする必要はないだろう(従来のバージョンを持っている場合は、1,000円でアップグレードすることができる)。
だが、このリマスターは既存のプレイヤーにとっても良い機会なのではないかと考えている。今回は既存のデータを使ったニューゲームプラスで遊んでいたのだが、グラフィックの向上はもちろん、あらためてアーロイの旅路を辿ること、それ自体が興味深い体験だった。それもまた、リマスター版の価値のひとつなのではないだろうか。この世界の実態を知ったうえで、再びノラ族の異端児として育つところから物語を始めるのは、想像以上に楽しいものである。
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