「eスポーツ×地方創生」はどこに向かうのか “集客ツール”としての幻想からギブ&テイクの関係へ

「eスポーツ×地方創生」ギブ&テイクの関係へ

 「eスポーツで地域を良くしよう」「eスポーツで地域を盛り上げよう」

 eスポーツがブーム的な盛り上がりを見せた時期の「eスポーツ×地方創生」には「eスポーツに過度な期待をする」という側面があったが、データ面からも徐々に「eスポーツは“魔法の集客ツール”ではない」ということが明らかになってきた。これからの地方自治体は、どのようなスタンスでeスポーツを地方創生に取り入れるべきなのだろうか。

 本記事では、eスポーツ施策で注目される群馬県の事例を整理しながら、eスポーツ×地方創生の成功の条件を紐解いていく。

群馬県の「eスポーツ施策」とは

 群馬県は、2020年にeスポーツ専門部署「eスポーツ・クリエイティブ推進課」を設置した。「ひとづくり」「まちづくり」「しごとづくり」の3つを柱として、「U19eスポーツ選手権」や「GUNMA League」などの競技大会や地域密着型イベントを開催し、地域の活性化を目指している。

 くわえて、群馬県には行政だけでなく、eスポーツに力を入れている社団法人もある。一般社団法人群馬県eスポーツ連合(gespo)だ。

 gespoは、eスポーツを競技としてだけでなく、地域社会や経済に影響を与えるツールとして位置づけ、eスポーツの「年齢、性別、障がいの有無を問わず誰でも参加できる」という特性を活かし、幅広い世代を対象にした施策を実施している。

 今回は、「eスポーツ×地方創生」の勝ち組とされている群馬県の施策から、eスポーツ×地方創生を成功に導くための知識を得ていきたい。

eスポーツ×地方創生の3つの課題

 多くの地方自治体は、「eスポーツ×地方創生」を推進するうえで“3つの課題”に直面する。

 各課題について、群馬県がどのように対処してきたのか見ていこう。

1:インフラの整備が不十分

 eスポーツイベントを成功させるには、高速で安定したインターネット環境や、観客を迎え入れるための会場設備が欠かせない。これらのインフラ整備が不十分だと、配信トラブルや参加者の不満につながりかねないからだ。

 「U19eスポーツ選手権2024」では、複数のテクノロジー企業の協賛を得て、最新の配信システムや高性能ネットワークを導入することで、この課題をクリアしている。

 実際、当日は配信トラブルもなく、大会の進行はスムーズに行われた。オンライン配信のラグも少なく、オンラインで観戦する視聴者にも快適な体験が提供されていた。

2:専門知識を持った人材の不足

 専門知識を持った人材は、eスポーツのイベント運営において必須である。

 群馬県eスポーツ・クリエイティブ推進課はeスポーツに詳しい人材を有しているものの、イベント運営や集客のプロがいるケースのほうが稀である。

 もちろん、そのすべてを自治体内でまかなう必要はない。むしろ、地域外の人材や企業との連携を通じて運営を補完する仕組みを整えるほうが、地域活性化という視点では正しいだろう。

 「U19eスポーツ選手権2024」でも、株式会社日本HP(OMEN)が選手用のゲーミングPCを提供する等、多くの企業が協賛・協力しており、大会開催にあたって大きな問題は見受けられなかった。

 出演陣のキャスティングにも抜かりはない。MCや実況解説陣には平岩康佑氏、Revol氏、yue氏など、著名なeスポーツキャスターが揃い、スムーズな進行には文句のつけようがなかった。

3:地域住民の理解を得られない

 上記2つの課題をクリアしてきた群馬県ではあるが、3つ目については現在進行形で対応中だ。

 2024年3月に開催された「ぐんまeスポーツフェスタ」は県内外から3400名を集客した。県の主要ハブである高崎駅から離れた立地での開催というハンデを背負っていたことを考えると、地域住民への訴求もある程度成功したと見ることもできる。

 一方、「U19eスポーツ選手権2024」の会場は、大盛況ではなかった。またイベントの特性上、出場選手のほとんどが県外出身者であり、必然的に観客の多くが選手の関係者、すなわち県外からの来場者だった。

 会場にいた群馬県在住のeスポーツ好き外国人に「群馬県がeスポーツに力を入れていることについてどう思うか」と聞いたところ、「そもそも力を入れていること自体を知らなかった」という答えが返ってきた。

 2020年から数々のeスポーツ施策を講じてきた群馬県でも、この現状。一筋縄ではいかないのがわかる。

 地方自治体が「eスポーツ×地方創生」で住民を巻き込んでいくためには、WebやSNSで盛り上げるよりも、駅前や商店街での地道なビラ配りなど、地元住民の参加を促す取り組みを継続することこそ効果的なのかもしれない。

 ちなみに、先のeスポーツ好き外国人来場者は、職場にあったイベントフライヤーを見て来場したのだとか。

地方自治体には「集客」以外の「目的」がある?

 群馬県のイベントのすべてが集客に成功しているわけではないとはいえ、「結局、群馬県も成功していない」と結論付けるのは早計である。

 一般的に、地方創生イベントの成功基準は「どれだけ集客できたか」を基準にしがちである。今回の取材をする前の、筆者もそうだった。

 ただ、関係者への取材を通して筆者は「地方自治体は必ずしも集客を優先課題に置いていないのでは」と考えるようになった。

 地方自治体にとって、イベントでの「集客」は「地域の活性化」「地域の魅力向上」「人口流出を防ぐ」などの数ある目的のひとつに過ぎず、それらの目的を達成するための過程を地域内で共有することのほうが優先度が高い。つまり、目的=成功の条件は「地域の団結」になっているように見受けられた。

 現状、多くの地方自治体がイベントの「集客」に苦労しているが、それは同時に、課題に向けて地域が団結する機会があるということでもある。

 「結果的に集客が上手くいかなくても、その過程で地域が元気になればそれでいい」というのは極論かもしれないが、少なくとも「集客できていないなら成功ではない」というのはあまりにも短絡的過ぎるのではないだろうか。

これから必要とされる「地方がeスポーツに何を与えるか」の視点

 eスポーツは若年層や首都圏を中心に文化が醸成されつつある、将来性のある次世代コンテンツであることは間違いない。一方、「eスポーツに集客力がある」という幻想が失われつつあるのも事実である。

 従来の「eスポーツ×地方創生」には、「eスポーツで地域を良くしよう」「eスポーツで地域を盛り上げよう」という動機があったかもしれないが、これからは「eスポーツが地方に何を与えるか」ではなく「地方がeスポーツに何を与えるか」という、テイク(奪う)からギブ(与える)へのスタンスの転換が必要だろう。

 群馬県が「eスポーツ×地方創生」のモデルケースとして注目されているのは、「eスポーツ×地方創生」の最先端を走っていることだけが理由ではなく、イベント開催などによってeスポーツの可能性を広げることで、国内eスポーツの発展に寄与しているからにほかならない。

 いまでこそ「◯◯県をeスポーツの聖地に!」と掲げる地方自治体は増えてきたが、群馬県は「eスポーツって何なの?」「ゲームは体に悪い」と後ろ指を刺される時代からeスポーツを地域活動に取り入れてきた。いわばeスポーツ界の功労者でもある。

 同じような気概や胆力で臨めることが、今後の「eスポーツ×地方創生」における最低条件となるだろう。

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