「eスポーツで社会復帰」の事例を取材して感じた、“不登校=悪”という認識の古さ

eスポーツの事例から考える“不登校=悪”の認識

 令和になって不登校が増えているという。不登校の集計データについては「過去とは統計の取り方が変わった」「学校側が隠ぺいせずに報告するようになった」などさまざまな見解があるものの、データ上は「令和の不登校は増えている」という結果がある。

 一方、筆者がeスポーツの取材を続けていくなかで、保護者から「子どもがeスポーツをきっかけに学校に行くようになった」という話をちらほらと聞くことがあった。そこで今回、「eスポーツが子どもの不登校解消に役立っている」という仮説に基づき、「eスポーツの甲子園」と位置づけられる『STAGE:0』の会場で保護者を取材した。

令和の不登校事情 小中学生の不登校は30年間増加

 まずは不登校事情について整理をしておこう。

 小中学生の不登校児童生徒数は過去30年間にわたって増加傾向にあり、特に中学校で急増している。2023年度には約30万人の不登校が確認され、前年度から22.1%の増加となった。

 小中学生だけでなく、高校生の不登校者数もここ数年で急増している。令和2年度には約43,000人だった不登校者数が、令和4年度には約60,000人に達した。高校生の不登校が6万人を超える水準となったのは、18年ぶりだ。

復帰率は20%強 きっかけは「抑うつ」「学業不振」

 不登校生徒の割合は小学校の1.78%、中学校は6.85%であり、復帰率は小学校で29.5%、中学校は21.7%。つまり不登校から学校に復帰する児童生徒の割合は、20%~30%ということになる。

 不登校の主なきっかけは、「不安・抑うつの訴え」「学業不振」「いじめ被害」。特に気になるのは「学業不振」が不登校のきっかけになっていることだ。「いじめ被害」であれば転校など対処法があるが、「学業不振」は一度陥るとたしかに復帰が難しそうである。

不登校から社会復帰した事例

 背景を踏まえたうえで、実際に「不登校の子ども」を持った保護者の声を聞いてみよう。

1:家族内のコミュニケーションが増えた

 1つ目の事例は、中学1年生から不登校気味だった男子学生が、eスポーツをきっかけに学校への復帰を果たしたケースだ。

 復帰のきっかけは、eスポーツ学科のある高校への体験入学。その後、学校に通うようになっただけでなく、友達と外に出かけるようにもなり、家族との会話も増えたとのこと。

2:新たな仲間を得て学校復帰を果たす

 2つ目の事例は、同じく中学時代に不登校だった男子学生のケース。中学時代に、人間関係が原因で不登校になったものの、eスポーツを通じて新たな仲間を見つけたことで、学校への復帰も果たしたそうだ。

 『STAGE:0』の大会の場で、笑顔で活躍する息子の姿を見て、母親はインタビュー中に涙を流していた。今回も家族で旅行中だったが、それを中断して、子どもの試合を観戦するために遠路はるばる駆けつけていた。

eスポーツが「家族を繋ぐツール」に

 保護者への取材を経て、家族とのコミュニケーションが希薄になりがちな思春期において、eスポーツは家族との対話をもたらすツールになっていると感じた。

 かつては「ゲームに熱中しすぎて不登校になった」「ゲームが家族内の分断を生む」という言説もあったが、時代を経て、ゲームが「家族を繋ぐツール」になりつつある。

 また、不登校の要因には、人間関係のトラブルや学校での孤立があるが、それらは教育現場では対処が難しい。学校内での人間関係のトラブルを(「さほど大した問題ではない」と)相対化するためには、学校の外部にコミュニティを持つのが手っ取り早い。

 その点において、eスポーツは「学校とは無関係な人間関係の場」が得られやすいため、不登校の解消という点で有効なのではないだろうか。

eスポーツで得られるのは「手段」としてのコミュニケーション

 ここからは筆者の主観であるが、取材をしていくなかで「学校のコミュニケーション」と「eスポーツでのコミュニケーション」は、その“性質”が異なるような気がしてきた。

 eスポーツでは、試合に勝つという「目的」を満たすための「手段」としてコミュニケーションが発生する。

 一方、学校で発生するコミュニケーションは、休み時間、登下校、修学旅行など、目的が設定されているわけではなく、(人格形成という名目で)コミュニケーションそのものが「目的」になっている側面がある。

 しかし、よく考えてみると、実社会で必要とされるのは、(仕事を円滑に進める、親族関係を円満に送る、などの)「目的」が設定されたうえでの「手段」としてのコミュニケーションだ。

 学校生活でのコミュニケーションのすべてが「目的を伴わない」わけではないが、少なくとも「コミュニケーションのためのコミュニケーションが求められる環境」よりも、「明確な目的が設定されたeスポーツ活動」のほうが、実社会で必要とされるコミュニケーション能力が養われるのではないだろうか。

取材後記:不登校が前向きな選択肢になる時代

 今回の取材を通して、筆者は「不登校は必ずしも悪ではない」と考えはじめている。

 世間の考え方に目を向けてみると、不登校の増加について「『子どもを強引に学校に行かせると取り返しのつかないことになる』という認識が学校側と家庭に広がったからだ」とポジティブに捉える考え方もある。

 また、不登校になった学生が「他の環境」で自分の好きなことを見つけて大成していくケースもある。

 もちろん、それは「木を見て森を見ず」ではあるのだが、多様な生き方が許容されるようになってきた現代において、「選択肢は広がってきた」とはいえるだろう。不登校は、人生の数ある「選択」の1つなのではないだろうか。

 いま思えば、今回の記事には「不登校=悪」という前提があった。そのため「eスポーツによる社会復帰」という切り口になったが、もしかしたらその考え方自体が古いのかもしれない。

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