映画『ベイビーわるきゅーれ』出演でも話題 俳優とYouTuber“2足のわらじ”で歩む劇団かいばしらが明かす「語り手の役割」

劇団かいばしらが明かす「語り手の役割」

客観的に見る“語り手”の立ち位置

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ーー現在、映画の語り手として活躍するYouTuberの方はたくさんいるかと思いますが、そのなかでもかいばしらさんはどういった位置にいると感じていますか?

かいばしら:みんなにとって、“コンテンツの入り口”になれたらいいなと思っています。僕は業界の専門家のように詳しいことも話せないですし、頭も悪いんですけど、みんなが安心して軽い気持ちで感想を言えるような環境を、率先して作れたらいいなと思っています。感じたままを話しても大丈夫だよ、危険やないで、という場所にできたらいいですね(笑)。

ーー“安心して感想を言える”、というのはどういうことでしょうか?

かいばしら:これはいろんな界隈でも起こっていることなのかもしれないんですけど、何かコンテンツが流行りだすと、そのなかで知識のマウント合戦が起こったり、純粋に作品が好きなだけなのに、新規の人たちを排他的に扱う動きが生まれたりするんです。それで映画の語り手がいなくなる分にはまだいいのですが、映画を見る人自体がいなくなってしまう可能性があるんですよね。映画を見に行って感想を語ろうとしても「どうせ叩かれる」と思ってしまう、というのはよく聞くので……。

ーーかいばしらさん自身も、そう感じたタイミングがあったのでしょうか。

かいばしら:活動を初めて2、3か月ほどのときに、批評を軸にした動画を投稿したことがあるんです。そしたら作品がどうというより、“叩く”ことが目的になってしまっている、炎上のお祭りごとにたくさんの人が集まってきたような雰囲気になってしまって……。そのときに、「批評はやめよう」と決めました。なんとなく僕が求めていた空間とは違ったんです。

 それに、自分の批評要素を強くしてしまうと動画自体もかたいものになってしまうので、それからはより楽しく語ることを1番に考えるようになりました。そうして自分なりに居心地のいい空間を研究していくうちに、語り手のなかでも「僕のポジションって入り口だな」と思うようになりました。それからは自然と、映画を普段あまり見ないような“ライト層”の人たちに届くように語ることを意識するようになったんです。

映画館に足を運んで、「答え合わせ」をしてほしい

ーーいわゆる“ライト層”に映画の楽しさを届けるために、普段どういったことを意識していますか?

かいばしら:俳優を目指していたときから、コメディのような表現が好きだったんです。だからYouTubeでも体を動かして、コミカルに伝える表現方法を取り入れています。あとこれは視聴者の方によく言われるんですけど、説明のときに意識的に擬音をよく使いますね。ドーン! とかゴリゴリとか。

 少し前だと、あらすじを説明するのに人形を使うこともありました。最近はあまり使ってないですけど。動画の見せ方も自分のなかで流行り廃りがあって、立ちながらスタンダップコメディのように話すこともあれば、座って落語みたいに話すこともあって……。作る側の軸はあまりないんですよね。むしろ1本1本違ってもいいんじゃない? と思っています。型にはめるのではなく、変動性を常に持っていたいなと思っています。

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ーーその柔軟性こそが、多くの視聴者に支持されている理由なのかもしれませんね。動画作りについてもお伺いしたいのですが、YouTubeにおいては「サムネイル」なども重要な要素だとは思います。見せ方については、どう考えていますか?

かいばしら:これはすごく難しくて、いまだに模索中です……。コンテンツを語るのであれば、正直自分の顔や存在はなくても成立するんです。なんなら、逆にノイズになるという人もいると思うので。

 それでも僕は、顔を出す意味はあると感じてて。YouTubeのシステム的に顔が出ていた方が見てくれる確率が高いというデータに従っているところもあるんですけど。それだけじゃなくて、生身の拙さとか、型に収まりきっていない。完全に作られていない感じって、人間にしか出せないんじゃないか、とも思っています。いまの技術を使えば1ミリの狂いもない正確なものが、誰でも作れるんですけど、人間である限り不安定なときもあるし、周りに流される脆さとか、そういうものに価値があるんじゃないかなと。だから寝癖のまま出たりもしていますし……(笑)。

ーー……それはただの寝癖ですね(笑)。

かいばしら:すいません、めちゃくちゃ言い訳でした(笑)。でも、その人間らしく語っているところも楽しんで欲しいですね。ただ、そもそも僕は人様のコンテンツを語らせてもらっている身分なので、大前提として僕が1番前に出るのは絶対に違うと思っています。

ーーあくまで作品が最優先ではあるけど、語り手の人間味も合わせて楽しんでくれたらと。

かいばしら:はい。とはいえ、“僕”という生身の部分に、皆さんがどれだけ価値を感じていただけるか分かりませんが。でも面白いのが、「なんか今日調子悪かったな……」と言う動画に対して「今日のリズムいい」と言うコメントが来たり、「うまく話せた!」という動画は「早口すぎる」と反応が来たりもします。そういった予想外の反響があるのも面白いですね。

ーー普段、動画は台本を用意して撮影しているのでしょうか?

かいばしら:いえ、ほぼアドリブで話しています。登場人物や監督の方の名前だけメモしてカメラの前に置いて、あとはその場で語っています。ただ撮影する前に、「今回話すのは新作だ」「今回は旧作でシリーズものだから、深く語った方がいいな」ということは頭に入れていますね。

ーーほぼ即興で語っているとは驚きです。作品によってどこまで語るのかも、難しいところですよね。

かいばしら:内容をどこまで明かすのか、という問題ですよね。以前、ファスト映画が問題になっていたと思うのですが、あのとき問題だったのは映画の内容を1から10まで話して、大部分を本編の映像や切り抜きを使って構成しているところだったんです。作品を丸々別のプラットフォームに転載して、人様の作品を利用するのは著作権の侵害です。ただ難しいところで、物語の結末を個人の口で話してしまう分には法的規制はないんですよ。

 とはいえ、たとえば新作映画のオチを言ってしまったら、これから見に行こうとしている視聴者の方はがっかりしてしまいますよね。ただ、なかにはネタバレを聞いてから映画を見にいく派だよ、という人もいます。これはどちらがいいというわけでもないんです。でも発信する側としては、その両方に合わせることはできません。だから僕の線引きとしては、新作を紹介するときは、なるべくネタバレをしないようにしています。物語としてそこまで重要ではない部分だけ語ったり、際どいところはぼやかしながら話したりしています。

 逆に昔の名作や、オチがもう有名な作品は話すこともあります。でも僕の動画は台本がないので、どの部分をどれだけ語るかは、そのときの気分で大いに変わるんですけどね。動画でもクレジットをつけて画像を引用させてもらうこともあるのですが、それもできるならしないほうがいいと思っています。語っている僕の生身の部分でどれだけ興味を持ってもらえるかが、人様のコンテンツを語るうえでの最大限の敬意だと思うんです。

ーーなるほど。そういった面でも、語り手の存在を動画に出すことに意味があるんですね。

かいばしら:そうですね。それに僕の話を聞いて、実際に映画では僕の言っていたことがどうなっているのかに興味を持って欲しいんです。それで「あいつあんな明るく話してたけど、本当はめっちゃ怖いじゃん!」とか、僕の話と、作品の“温度差”を感じてくれたらいいですね。答え合わせをしに、実際に映画館に足を運んでくれたらもう最高です。

ーーそれぞれの感想の違いも、映画の楽しみ方のひとつですよね。

かいばしら:感じ方が違った方が楽しいと思いますし、自分と違うと「あ、そういう視点で見るんだ〜」という発見もあります。

ーー逆につまらないと思った作品は、どのように取り上げるのでしょうか?

かいばしら:動画で語っているのは、基本的に好きな作品がほとんどなんです。でも、“つまらないけど好き”な映画もそのなかに含まれています。自分は好みじゃなかったけど、誰かには刺さるんじゃないかとか、合わなかったけど話題になっているからみんな聞きたいんじゃないかとか。そもそも僕の動画のスタンスはレビューや批評ではないので、「みんなどうですかー!」という気持ちで話始めると、自分にハマっていない作品も意外と愛を持って伝えられることが多いです。

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 でも難しいですよね。まず面白い動画にすることが第1だと思っているので、嫌いなものを語るときにその絶対条件をクリアさせるためにどうしたらいいのかは、悩み中です。それは今後僕が頑張って腕を上げなきゃいけないところだと思います。眉間にしわ寄せて批評するのは誰でもできるし、それでは動画も面白くはならないので、もっと僕なりのアプローチがないかなと探っています。

 僕は基本的に楽しく伝えたいので、コメディや漫談のように語っていることが多いんです。本当は映画の見どころを余すことなく伝えるのが語り手として正しい道筋だとは思うんですけど、「ちょっとくらい不真面目でもいいんじゃないかな」とも思うんです。ただこれが正解かはわからないので、僕も発信のしかたは日々勉強中ですね。

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