映画『バジーノイズ』は、なぜここまで音楽機材を“リアル”にしたのか 制作チームに聞く

映画『バジーノイズ』、なぜ音楽機材がリアル?

 5月3日より全国で上映されている映画『バジーノイズ』。同作はむつき潤による漫画を実写化したもので、JO1の川西拓実と桜田ひよりが主演を務めている。

 同作はドラマ『silent』を手がけた風間太樹監督によるものということもあって注目を集めているが、もうひとつ、音楽関係者のなかでは「機材がリアル」ということが話題になっている。

 そこでリアルサウンドテックでは、同映画の制作陣にインタビューを行い、ここまで機材にこだわった理由や、効果的に鳴らされている音楽演出、演奏シーンなどの裏側、川西をはじめとしたキャスト陣の音楽への向き合い方などについて聞いた。

 まず、清澄の使用機材については、どのように決まっていったのか。音楽監修を担当したライトトラックスの菊地智敦氏に聞くと、原作者のむつき潤氏からの特定のリクエストはなかったが、原作では楽器やメーカーこそ書かれていないものの、登場人物が使っている機材がかなりリアルであるという前提のもと「監督、制作プロデューサーチームと、実際の楽器、機材で原作を再現するにはどういうものが必要なのかというミーティングを重ね、現実的なところに落とし込んでいった」という。

 そのうえで制作プロデューサーがいくつかの会社に協力の交渉をしたりレンタル可能なものをあたったりして、「最終的に映画で使用したラインナップ」になったそうで、これは「清澄に限らず、陸や岬の使用楽器、機材についても同様」とのことだ。

 また、フィールドレコーディングや野外でモバイルセットを使って録音・制作する場面や、セッション・ライブシーンなど、さまざまなセッティングを使う場面も多かったが、ここについては「いま、若者がDTMを始めるとしたらどうするか」とリアリティを考えていった結果、モバイルセットという設定になったようだ。

 ライブ・演奏シーンについては、Music Concept Designを担当したYaffleのアドバイスのもと、監督が演出を行ったそうだ。映画内ではDAWとして『Ableton Live』を使用しているが、これについても清澄の楽曲をほとんど手がけたYaffleが使用しているDAWが『Ableton Live』だったからだという。「監督の意向でPCの画面も実際の楽曲に合わせたい」ということで、映画の中でも『Ableton Live』を使用しているのだが、これもYaffleから『Ableton Live』の制作セッションを受け取っているのだとか。撮影現場で再生できる画面が映っているシーンについては「すべて実際の楽曲が再生できる画面になっており、撮影時にも映っているインターフェイスから出た音に合わせて演技をしてもらっている」という。なるほど、“音楽”を感じられるシーンが多いのは、そういう背景があったからなのかもしれない。

 映画の後半で、清澄はメジャーレーベルに務めるプロデューサー・沖(テイ龍進)に連れられ、豪華な制作機材が並ぶスタジオで制作を行っていく。このスタジオの機材については、 最初の機材たちとの対比や、売れっ子作家の制作環境を意識して作ったのだろうか。

 
 菊池氏いわく「最初のアイディアは実際の作曲家さんのスタジオをお借りできないかというもの」だったようだが、実際には「撮影で必要なサイズ感や部屋の配置などを考えると現実的ではなく、ゼロから部屋を作るということになりました」とのこと。また、その際には「監督、プロデューサー、美術の担当の方と雑誌などのプライベートスタジオ特集などの記事を参考にして、ゼロベースからとはいえできるだけ不自然なものにならないようにと考えていきました」と、様々なリファレンスを元に“プロミュージシャンのスタジオ”を作り上げていったという。実際に菊池氏が作曲家のプライベートスタジオやレコードレーベルのプリプロスタジオなどに行く機会も多いため、その経験を反映しているほか、「僕が実際に使っている機材もかなり持ち込んでいます」と、彼自身の機材もあるようだ。

 また、清澄の使用機材は最初の一人の部屋、陸とのライブ、制作部屋、最後のライブなどで徐々に進化しているようで、これは「制作プロデューサーがNative Instrumentsさん、YAMAHAさん、Focalさんなどご協力いただいたメーカーさんと連携を取って用意してくれた」ということらしい。

 また、主演を務めた清澄役の川西拓実(JO1)は、この機材セットに何を感じたのだろうか。菊池氏に聞いてみると「川西さんは元々ご自分でも多少機材を触ることもあったようなので、あまり違和感なく役に入っていけたのではないかと思います」と、アーティストでもある彼の強みを活かした現場だったことがわかる。

 とはいえ、演奏に関してはあまり慣れてはいなかったようで「キーボードやパッドコントローラーの演奏についてはプロのミュージシャンに指導していただきましたが、超多忙の中、短時間で自然な演奏ができるようになっていたと思います。それは、陸役の柳さん、岬役の円井さんについても同様で、プロのミュージシャンの指導の元、お二人ともとても頑張ってくれました」と、各キャストがしっかりと努力したうえで演奏シーンを成り立たせていることがわかった。

 最後に、劇中に登場する音楽機材やソフトへのこだわりについて聞いてみると、菊池氏は「監督、制作プロデューサーも、音楽的な部分については本当にこだわって映画を作っていました。映画のあらゆるシーンで、これは不自然ではないかどうか確認してほしいというような相談をしていただきました」と、こまめに音楽家の視点を入れながら作り上げた映画だったことを明かしてくれた。

 また「部屋に置いてあるスピーカー、ヘッドホン、イヤモニ、などの細かい機材や、航太郎の名刺のデザインとか機材ではない小物についても細部まで不自然さがないように心がけていたと思います。制作チーム全体でできるだけ妥協せずに作っていった結果、たくさんの音楽関係の方からもリアリティがあったと言っていただくことができました。本当に嬉しく思っています」と、反響の大きさを噛み締めていた。

 ここまでのインタビューを読んでいただければわかるが、映画『バジーノイズ』は徹底して“リアルな若者の音楽”に向き合った映画だといえるだろう。気になった方は、ぜひ劇場へ足を運び、映画館の音響で彼らが鳴らす音を味わってほしい。

■公開情報
『バジーノイズ』
原作:むつき潤「バジーノイズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督:風間太樹「silent」「チェリまほ」
music concept design: Yaffle
主題歌:「surge」 清澄 by Takumi Kawanishi(JO1) ©︎LAPONE Entertainment
出演:川西拓実(JO1)、桜田ひより、井之脇海、栁俊太郎
円井わん、奥野瑛太、天野はな、駒井 蓮、櫻井海音、馬場園梓/佐津川愛美、テイ龍進
製作:映画『バジーノイズ』製作委員会
制作プロダクション:AOI Pro.
製作幹事・配給:ギャガ

コピーライト:©むつき潤・小学館/「バジーノイズ」製作委員会
公式HP:https://gaga.ne.jp/buzzynoise_movie/ 
X:https://x.com/BuzzynoiseMovie
Instagram:https://www.instagram.com/buzzynoisemovie/
TikTok:https://www.tiktok.com/@buzzynoisemovie

5月3日(金・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる