新型『iPad Pro』の性能は“破壊的” プロギタリストと試した『Logic Pro』の新機能は「とにかく速い」
Logic ProはMacに提供されているDAWアプリケーションで、音楽を制作・録音・編集できる様々な機能が揃っている。昨年5月、AppleはLogicのiPadバージョンを発表し、先日のスペシャルイベントでは「iPad用Logic Pro」の大規模なアップデートを発表した。
「Session Playes」は楽器を自動演奏する機能であり、従来「Drummer」として存在したドラム用自動演奏の機能がベースとキーボードのパートでも使えるようになった。様々な楽器に演奏者の微細なニュアンスを加えて演奏でき、コード進行などを指定するとそのニュアンスを含んだままコードをプレイできる。使ってみると従来の「Drummer」の使いやすさはそのままに、リズム・トラックとコードをスムースに制作できた。ピアノのペダルや鍵盤のノイズをも再現するのには驚く。
そして今回筆者が最も注目したのが「Stem Splitter」である。単一のオーディオファイルを読み込んで「Stem Splitter」を起動すると、Logic Proがその音源を解析し、「ボーカル」「ベース」「ドラム」「その他」のステムを作成してくれるという機能だ。
こうしたステムの作成機能自体は従来より他社製プラグインなどを導入することで実現できたが、これをLogic Proの純正機能として使えることはどの程度便利なのか? そしてニューラルエンジンによる処理の速度とその恩恵はどの程度なのか?これらの疑問を解消するため、今回プロ・ギタリストが運営するパフォーマンススタジオ「Studio KiKi」の協力を得て検証を行った。
1960年代のロック、1980年代のポップス、2000年代のJ-POP、中学生のバンド練習録音など、さまざまな音源を「Stem Splitter」に通し、Studio KiKiのスピーカーを通して聴きながらその効果を検証した。いずれの楽曲も3〜4分程度の曲だったが、「Stem Splitter」による処理は1曲あたり6〜7秒程度で完了した。
Studio KiKiによればこれは「相当速い」という。機能自体は既存のプラグインによるステムの分割作成機能とほぼ変わらないものの、この速度で実行できることは驚異的だと語る。また、分割精度も高いということだ。
「特にドラムと音域の低いベースのセパレートはかなり正確でした。ボーカルはこうした処理をするとどうしても”うにゃっ”としてしまうもので、『Stem Splitter』でもそれは避けられないんですが、健闘していると思います。何より簡単・手軽なのがすごい。いちいちプラグインを立ち上げたりせずとも、ファイルを配置して3回ぐらいタップして数秒待ったらもうステムができている。ボーカルのハモリのラインの細かい部分も聴こえるし、この『楽曲をバラす』という体験が単純に楽しいですよね。リスナーとしては面白い反面、ミュージシャンとしては楽曲の隠された部分が明るみになってしまう機能でもあると感じます(Studio KiKi)」
プロミュージシャンがこの「Stem Splitter」を使う場合、どんな用途が思い浮かぶかと尋ねると、特にライブ演奏時のリファレンスを作る際に使えそうだという。
「仕事で他人の楽曲を演奏するとき、パラデータをもらえることというのは少なくて。既存の発売している楽曲を聴きながら、譜面には書かれていないようなプレイも耳で確認してコピーすることがほとんどなんです。そういった練習の際に『Stem Splitter』で楽曲をセパレートすれば、確認が楽になると感じました。またこれは『iPad用Logic Pro』自体の話なんですが、セッションミュージシャンの間ではiPadは譜面を読むために"必須"と言っていいほどみんな持っているデバイスなので、そういうプレイヤーの人たちが手元のデバイスでこの規模のDAWを動かせるというのも安心感があると思います。リファレンスがいつでも開けるツールとして優秀です」
いかがだろうか。「Studio KiKi」での検証は私にとっても衝撃的で、こんなに簡単に楽曲がセパレートされていくのを間近に見て、ニューラルエンジンの恩恵を感じる体験となった。
iPad Proの性能は非常に高く、ほとんどの一般的な用途においては同時に発表されたiPad Airを導入すれば十分満足できるだろう(先に公開したiPad Airのレビューも合わせて参考にしてほしい)。公道を走るのにF1カーを用意する必要はないからだ。ただ、イラストレーションや音楽、動画の世界でiPadの導入を検討しているユーザにはこの破壊的な進化を遂げたiPad Proをぜひ一度触って体験してほしい。特に13inchモデルのディスプレイの美しさは圧巻だ。
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