歌広場淳、ありけんとのガチ“10先”を終えて――徹底的な対策を経て見出した「新たな自分」

歌広場淳、ありけんとのガチ“10先”を終えて

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、4月16日に格闘ゲーマー/ストリーマーのハイタニが主催する『ストリートファイター6(以下、スト6)』の対戦企画『ハイタニ道場』にて、ストリーマーのありけんとくり広げた熱戦の模様を振り返る。

 「これまでの格闘ゲーマー人生のなかで、特定の相手への対策をここまで突き詰めたのは初めての経験だった」と語った歌広場。ストリーマー界屈指の実力を誇る、ありけんとの“10先”をとおして出会えた “新たな自分”とは。約1ヵ月間の準備期間でしたためた対策メモとともにお届けする。

歌広場淳のフルコンボでGO!!!
第1回:歌広場淳の中で変化した“格ゲーへの向き合い方”と、救われた「逃げんなよ」の言葉
第2回:歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談 時代が求める「理想のプロゲーマー像」とは?
第3回:歌広場淳が考えるオフラインイベントの魅力 格ゲーの“裾野拡大”に「貢献できるのは光栄」
第4回:歌広場淳×こく兄“おじリーガー”対談 「優しさ」と「恩返し」がつなぐ、格ゲーマーたちの輪

いまや“10先”には“因縁”がなくても盛り上がる時代に?

 まずは今回の経緯ですが、3月の中旬くらいにハイタニ(※1)さんから僕に連絡をいただきまして。ハイタニさんは、『スト6』にて有名ストリーマーさんたちのコーチングを多数担当してきて、いまやそうした弟子たち――“ハイタニ一門”を束ねる存在になっているんですね。

※1……長年にわたりさまざまな格闘ゲームで実績を残してきたトッププレイヤー。過去にはプロゲーマーとしても活躍し、現在はストリーマーへと転向するも、2023年に開催された世界最大規模の大会「EVO」の『スト6』部門では多数のプロプレイヤーを押しのけ5位入賞を果たした。

 そんなハイタニさんが最近、『ハイタニ道場』と題して“ハイタニ一門”の面々が有名プレイヤーと“10先”(※2)をくり広げるという挑戦企画を始めて、“ハイタニ一門”であるストリーマーのありけんさんの対戦相手として僕にお声掛けくださったんです。

※2……10試合先取制の対戦方式。格闘ゲーム界隈では長期戦の部類にあたり、特定のプレイヤー同士で「どちらが強いか」を白黒つけることに適したルールとしてしばしば用いられてきた。

 僕としてはハイタニさんから直接指名いただいたこともそうですし、人気ストリーマーでありながら『スト6』の実力者でもある、ありけんさんと戦えるなんてありがたい機会だなと思って、ふたつ返事でお受けしました。

 ただ、お返事をした後にふと不安になったんです。僕は古の格闘ゲームおじさんなので、「10先=因縁のふたりが戦うガチンコバトル」みたいなイメージがどうしても強いんですね。その点、ありけんさんと僕は今回の『ハイタニ道場』が初対面になるので、「僕が対戦相手で、企画として盛り上がるのかな……?」と。

 もちろん、ありけんさんと戦えるのはすごく楽しみだったし、ハイタニさんの企画なので盛り上がるのは確実だし、実際のところ配信も大盛り上がりだったので杞憂だったんですが。

 そんなわけで、今回の件を通して僕のなかの古い“10先”のイメージをいい意味で覆されましたね。いまって、なんのしがらみもない実力者2名が“10先”をやることでも、スポーツ観戦のような感覚でみなさん楽しんでくれるんです。時代も変わったな、と思いました。

 また、こちらも「なにがなんでも負けたくない!」という気持ちを高めるために、ありけんさんの使うダルシムというキャラクターの対策を進めることに加えて、ありけんさんのことを知っていく必要が生まれて。そこも新鮮でおもしろかったです。

 もっとも“10先”をすることが決まってからほどなくして、ありけんさんとは3月24日に開催された『RAGE STREET FIGHTER』というイベントでご一緒できまして。ありけんさんは選手として、僕はストリーマーの蛇足さんのセコンドとして参加したのですが、そこで蛇足さんがありけんさんに負けてしまったので、“弟子を倒した相手に師匠自ら仇討ち”というストーリーが生まれることになったんですよね。

極限状態で出せるのは「自分がふだん食べてきたモノ」のみ

 『ハイタニ道場』のような、お互いのプライドを掛けたガチンコ勝負というと、僕は以前『おじリーグ5』にて似たようなヒリつきを経験させてもらっているわけですけど、そちらは総勢9名による総当たり戦だったので、特定の1名を倒すためにこれだけの対策を練ったのは初めての経験でした。

【PV】おじリーグ5 ー 5月7日18:00開戦【#おじリーグ】

 今回は、ありけんさん戦に向けて僕が作成した対策メモを大公開(記事末尾に掲載)しますので、そちらを見てもらえれば僕がどれほど必死にダルシム(ありけんの使用キャラクター)対策を突き詰めたのかが、わかる方にはわかってもらえるはずです。

 僕は作家の村上龍さんが好きなんです。村上さんは、著書の後書きに、その本を書くにあたって参考にした文献リストを山ほど羅列するのがつねなんですね。大変な作業でしたけど、村上さんの例を励みにがんばりました。

 じつはダルシムというキャラクターの対策メモに加えて、ありけんさんのよく使ってくる連携やクセなどの対処法をまとめた“ありけん対策メモ”も存在するのですが、両方合わせると笑えるくらいの文量になってしまうので、ここでは割愛します。

 それで、この対策メモを公開して僕が何を言いたかったのかというと……これだけ対策を詰めておきながら、本番ではこのメモに書いてあることの10分の1も実践できなかったってことなんです(笑)。

 時間をかけて一生懸命がんばったんですけど、“10先”のような極限状況下の試合では「自分がふだん食べてきたモノ」しか出せないんだなということを痛感しましたね。直前になって強力なブロードソードとかバトルアックスとかを装備していったところで、結局本番では練度の低い武器は役に立たず、慣れ親しんだ拳での殴り合いになっちゃうんだなと。

 そもそも僕が今回のありけんさん戦でもっともダメージを取れた行動、有効に機能していた行動も、このメモのどこにも書いていない行動でしたし。

 一応詳しく言うと、ダルシムの空中浮遊技であるヨガフロートに対して、ケン側がドライブラッシュ→しゃがみ強パンチ→強迅雷脚などで追撃するというもので。前々から漠然と「有効だろうな」と思いつつもそこまで意識していなかった行動が、とっさの場面で出たどころか、メインウェポンになったわけです。

 思えばゴールデンボンバーとしてバラエティ番組に出演させていただくときとかも、「パッと話を振られた際に面白いことが言えたほうがいいだろうな」と話すネタを考えておいたりするんですけど、それが本番で役に立った記憶が全然ないんですよね。

 戦場に赴くのだから武器や防具を整えておくのは当たり前のことだとして、それが使いものになるかどうかはまた別の話だなと。ポジティブに捉えれば、事前準備を怠らなかったからこそ、「その武器が適切ではなかった」と後になって気付くことができたってことでもあるんですけれども。

徹底分析で見えてきた、ありけんダルシムのスタイル

 “10先”に無事勝てたうれしさもあって、僕は対戦終了後に「ありけんさん、『RUST』やりすぎだよ!」なんて失礼なことも言ってしまったのですが、実際そんなことはなくて。ご自身でもおっしゃっていたとおり「ありけん史上最強のありけん」の状態まで仕上げてきていたのには驚かされましたし、さすがだなと思いました。

 ありけんさんのような専業ストリーマーさんは、日々の生活のためにリスナーさんから求められるゲームをやっていく必要もあると思います。今回は本番の直前に、『VCR RUST』というストリーマー活動で最重要レベルと言っても過言ではないような一大イベントが始まっていたわけですから。

 ちなみに、ありけんさんが使用しているダルシムというキャラクターは、『スト6』のなかでも動きのバリエーションが比較的豊かで、使い手によって全然違う戦いかたをしてくるという印象を個人的に持っていて。だからとにかく、ありけんさんの対戦リプレイを見て徹底的に研究しました。

 そうした研究成果のひとつが、今回の10先に向けて用意した“ありけん対策メモ”の中でも特に攻略の糸口となった「ありけん行動選択回数」です。漠然と対戦動画を見ていても効率が悪いなと感じたので、ありけんさんの状況別の行動選択頻度をカウントしてまとめてみたんです。

 詳細は伏せますが、ありけんさんは基本的にローリスクにのらりくらり立ち回りつつ、相手が焦れたところに攻撃を差し込んでいくタイプのプレイヤーだということが、研究するなかで次第にわかってきました。

 いろいろな対策が浮かび上がってきて、結局は使わずじまいになってしまったものもありましたが、むしろ「自分にはまだ秘策があるんだ!」と思えたので、精神衛生上重要な役割を果たしてくれたと思います。これが対戦中の僕の心の拠りどころだったんですよ。

キャラ(人)対策には“表”と“裏”がある

 ちなみに、ありけんさん対策メモには「ありけん手クセまとめ」という項目もありまして(笑)。ありけんさんがやりがちな行動への対処法をリスト化したものなのですが、こちらも本番では各1回ずつくらいしか活用していないんです。

 ……というのも、僕は「対策には表と裏がある」と考えているんですね。「表の対策」というのは、たとえば今回の10先で僕が披露した“ダルシムのしゃがみ中パンチ→ヨガファイア”連携にケンの強昇竜拳で割り込むとか、ダルシムがドリルキックを使ってきそうな中間距離で垂直ジャンプを置いておくとか。

 ただ、こうした「表の対策」は相手にバレた時点でお役御免になります。つまり「あなたの連携に僕はこういう対策を用意したので、それやめてね?」と、相手の行動を抑制することが真の目的になっているんです。

 対して「裏の対策」とは、ここぞという場面で効力を発揮し、かつ勝敗に直結するような対策です。バレたら終わりという点では「表の対策」と同じなのですが、直接的なリターンや相手に与える衝撃度が大きいだけに、「裏の対策」は相手に見せないで取っておくことが重要となります。

 要するに対策には、相手に対して積極的に見せていくべき「表の対策」と、隠し持っておくことでこそ真価を発揮する「裏の対策」があるんじゃないかという考えかたです。

ありけんが操るダルシムが空中ヨガテレポートを発動したところを、バックジャンプ中キックで撃墜する歌広場淳のケン。試合解説を務めたハイタニも「プロレベルのダルシムにも通用しそうな対策」と舌を巻いた。
ありけんが操るダルシムが空中ヨガテレポートを発動したところを、バックジャンプ中キックで撃墜する歌広場淳のケン。試合解説を務めたハイタニも「プロレベルのダルシムにも通用しそうな対策」と舌を巻いた(出典:ハイタニ道場 ありけんvs歌広場淳10先/Twitch)。

 福本伸行先生が描く漫画『アカギ』では、主人公のアカギが相手のイカサマを逆に利用して自分の用意した秘策を通したり、相手のイカサマを封じて運否天賦の勝負に持ち込んだ末に大逆転勝利したりしますよね。

 対戦相手に開き直られて、アカギよろしく運否天賦の勝負に持ち込まれたら、どちらが勝つかわからない試合になってしまいます。やはり「勝つべくして勝った」試合になるのが理想じゃないですか。そうした試合展開を目指すためにも、見せるべき対策と隠しておく対策を事前に整理しておいたというわけです。

 ほかにも細かい対策を挙げればキリがなくて、例えば“弱攻撃×2→低空ドリル”に対して僕が“強昇竜拳→SA3”で割り込んだのも偶然ではなく対策として用意したものでした。この場面、じつは直接SA3を打つと相手のタイミングによってはロック演出に移行せずダメージが落ちてしまったり、空中ヨガテレポートでスカされたらゲージを無駄に消費してしまったりという問題があって、状況を確認するためにあえて強昇竜拳を挟んでいたんですよ。

「新しい自分に出会えた」――とめどない成長意欲

 ありけんさんとの“10先”を経て、今後もこういったハイカロリーな真剣勝負の機会は積極的に追い求めていきたいなと思いました。可能ならずっとやり続けていたいくらい(笑)。なぜならば、今回のありけんさん戦をとおして“新しい自分と出会えた”から。

 ゴールデンボンバーでライブをするときに、僕はいつも思っているんです。ライブを観に来てくださった方に「あー楽しかった」で終わらない、それ以上の体験を届けられたらいいなって。もちろん「楽しかった」と思ってもらえるだけでなによりなんですが、「これを観る前の私と、観た後の私ではもう別人だな」と思えるくらいのモノをお見せしたいなと。

 僕はありけんさんとの“10先”をとおして、自分はひとりの対戦相手への対策をここまで徹底的に詰めることができるプレイヤーなんだってことがわかったんです。またこのような機会があったら、きっとそのたびにまだ見ぬ新しい自分と出会えると思うし、そうやってもっともっと成長していきたいです。

 それに、ありけんさんと因縁ゼロのところからでも、コイツはここまでの熱量で対戦に臨めるヤツなんだってことも今回で示すことができたと思うので、ぜひお声がけいただけたらうれしいです。

 そういう意味でも爪は研ぎ続けていたいですし、今回の『ハイタニ道場』で僕に注目してくださった方が、つぎはゴールデンボンバーとしての僕を見て「うわ、あのとき引くほどダルシム対策してた人だ!」なんて思ってもらえたら最高ですよね(笑)。

 個人的に、つぎは誰と“10先”をやりたいかといったら真っ先に思い浮かぶのは、たいじさんとCerosさんでしょうか。まさに先日開催された『RAGE STREET FIGHTER』のグランドファイナル(優勝決定戦)で激突したおふたりですね。

 おふたりとも本当に強くて。僕、ランクマッチでCerosさんとたまたま当たったことがあるんですけど、全然勝てなかったですから。ストリーマーのなかで「この人、明らかに強いな」と思うような方はまだまだいらっしゃるので、そういった方が対戦相手を求めていたら即座に応じられるようにしておこうと思います!

“10先”観戦は「ハラハラドキドキの授業参観」

 ありけんさんとの“10先”の模様は僕のTwitchチャンネルでも配信していたのですが、約1時間20分にわたる長期戦だったにもかかわらず、本当に多くの方が最後まで見守ってくださっていてありがたかったです!

 僕の配信では、アンケート機能を使って勝敗予想もやりました。……と言っても“10対1~4で歌広場淳の勝利”か、“10対5~9で歌広場淳の勝利”の2択しか用意しなかったんですが。ちなみに僕のマネージャーは「“10対5~9”のほうに賭けた」と言っていましたね(笑)。

 ありけんさんも、直前の配信では僕より格上のケン使いに勝ち越したりしていましたし。実際、僕も「少しでも歯車が狂えば押し切られかねないな……!」というプレッシャーをつねに感じていました。

「楽しさ4、緊張8」と、試合中の心境を語る歌広場淳。緊迫ぶりがうかがえる迷言。
「楽しさ4、緊張8」と、試合中の心境を語る歌広場淳。緊迫ぶりがうかがえる迷言(出典:ゴールデンボンバーの歌広場淳/Twitch)。

 そうした本番特有の緊張感に加えて、僕がありけんさん対策で苦しんできた過程などを配信でずっと見せ続けてきたこともあって、視聴者のみなさんには、最後にみんなで一緒に授業参観をするような感覚でハラハラドキドキしてもらえたんじゃないかなと思います。

 たぶん今後、『ハイタニ道場』のような長期戦企画はどんどん増えていくと思いますし、そうやって人と人とがつながることで、新たなドラマが無数に紡がれていくんでしょうね。僕もまだまだストリーマーとしては駆け出しの身ながら、今回このような機会をいただけたことを心より感謝しています。

 あらためてになりますが、最後にこの場を借りて……。僕と対戦してくださったありけんさん、対戦相手に指名してくださったハイタニさん、対策に付き合ってくださったITK(イツキ)さんをはじめとするダルシム使いの方々、そして応援してくださったみなさん、本当にありがとうございました!

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