『HUNTER×HUNTER』の格ゲーは評価の分かれる作品に? “ジャンプIPの対戦格闘”に求められるものとは
ブシロードは12月16日、週刊少年ジャンプにて連載中の人気マンガ『HUNTER×HUNTER』の対戦格闘ゲームを制作していると発表した。
同作がゲーム化されるのは、2020年1月30日にサービス開始となったスマートフォン向けタイトル『HUNTER×HUNTER アリーナバトル』以来のこと(2023年3月31日をもってサービス終了)。スマートフォン向け以外に限定すれば、PlayStation Portable向けに2012年9月30日にリリースされた『HUNTER×HUNTER ワンダーアドベンチャー』まで遡る。
本稿では、『HUNTER×HUNTER』から生まれる新たなゲーム作品を、ジャンプIP、対戦格闘という2つの視点から解剖する。同タイトルに求められるのは、どのような要素だろうか。
ジャンプIPと格闘ゲームの好相性
『ジャンプフェスタ2024』の場で突如発表された『HUNTER×HUNTER』の対戦格闘ゲーム化。その知らせに胸を躍らせている原作ファンのなかには「なぜ対戦格闘?」と感じた人もいるかもしれない。しかし、これまでを振り返ると、特に週刊少年ジャンプ発のマンガは、同分野でゲーム化される機会に恵まれてきた。少年マンガの金字塔として時代を超えてなお愛される『ドラゴンボール』、Netflixでのドラマ化が話題を集める『幽遊白書』、アニメ化を入り口にさらに人気を加速させた『ジョジョの奇妙な冒険』といった人気作品が、当時の現行機で対戦格闘ゲームとなってきた。近年では2020年3月に『僕のヒーローアカデミア』から『僕のヒーローアカデミア One's Justice2』が、2021年10月に『鬼滅の刃』から『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』が類似のゲーム性を持つタイトルとして発売されている。「超能力バトル」が題材とされやすい週刊少年ジャンプ発のマンガにあっては、メディアミックスの舞台に昔から同分野が選ばれてきた歴史がある。
他方、それ以外のジャンルでは直近、『ONE PIECE』が据置機向け/パッケージ買い切り型のタイトルとしてアクションやRPGに、『僕のヒーローアカデミア』が据置機向け/基本プレイ無料・アイテム課金型のタイトルとしてバトルロイヤルに、『呪術廻戦』がモバイル向け/基本プレイ無料・アイテム課金型のタイトルとしてRPGになっている。すべてがすでに多くのファンを獲得している人気マンガだけに、作品の世界観を生かしたメディアミックスが可能な場として、対戦格闘以外にもさまざまなジャンルがゲーム化の舞台に選ばれてきた実態もある。
マンガ原作のゲームを悩ませる「キャラゲー」の呪縛
とはいえ、それらのゲーム作品が原作の人気・評価に匹敵する結果を残せているかと言うと、少し事情が違ってくる。(あくまで私の主観ではあるが)良作に分類されるタイトルはいくつか存在するものの、歴史に名を刻むほどのタイトルはあまり見られない現状だ。そこには、メディアミックスであるがゆえ「キャラゲー」の呪縛から逃れにくいという制作背景の影響もあるのだろう。キャラゲーとは、登場人物の魅力ありきで設計されたゲームを指す言葉。「キャラクターの存在のみがストロングポイントとなっており、中身のともなっていないタイトル」を蔑む意味でも使われる。もちろんマンガを原作とするすべての作品がそうした性質を持つとは言わないが、少なくともある程度の数の作品が、原作の人気にあやかる形で話題性と商業的成功を掴んできた点は否めない。
そのようななかにあって気を吐いているのが、2023年11月21日に配信となった『呪術廻戦』発のモバイル向けRPG『呪術廻戦 ファントムパレード』(以下、『ファンパレ』)だ。同タイトルは当初、2022年の提供を予定していたが、クオリティアップのためにリリースを2度も延期。期待するファンのあいだで不安が囁かれるなか、満を持してサービスインへと至った経緯を持つ。しかしながら、そうした懸念に反し、リリース直後から高評価を獲得。2023年12月20日現在、Google Playでは2万人以上のユーザーの評価の平均が星4.6、App Storeではおなじく16万人以上から星4.8と、好スタートと言っていい結果を残している。基本プレイ無料・アイテム課金型というビジネスモデルは、パッケージ買い切り型にくらべ、タイトルに対するユーザーの評価の目が厳しい印象がある。それでいてこれだけの評判を得ているのだから、現時点での完成度の高さは本物と見ていいだろう。
同様の背景から生まれたゲーム作品では2023年9月、『僕のヒーローアカデミア』発のバトルロイヤル『僕のヒーローアカデミア ULTRA RUMBLE』(以下、『ヒロアカUR』)もサービス開始を迎えている。同タイトルもまた、リリース直後は多くのユーザーにプレイされ評判となったが、その後は致命的なバグの存在、それに対する運営の対応の遅さに批判が集まりつつある。『ファンパレ』が今後どのような道をたどるかはまだわからないが、現時点では両者のあいだで少しずつ明暗が分かれつつある現状となっている。
『HUNTER×HUNTER』から生まれる格ゲーに求められる要素は?
対戦格闘ゲームのジャンルは昨今、『ストリートファイター6』の成功などにも牽引され、話題を集めている。2024年1月26日には、同分野で「ストリートファイター」と双璧をなすシリーズ「鉄拳」から、ナンバリング最新作『鉄拳8』が発売予定。そのほかにも「アンダーナイトインヴァース」シリーズの最新作『UNDER NIGHT IN-BIRTH II Sys:Celes』(2024年1月25日)や、「餓狼伝説」シリーズの最新作『餓狼伝説 City of the Wolves』(発売日未定)もリリースを控えている。
レッドオーシャン化する同分野で、『HUNTER×HUNTER』から生まれる格ゲーに求められるのはどのような要素だろうか。それはどのような層をターゲットに設定するかによっても、大きく変わってくるはずだ。いわゆる「キャラゲー」としての立ち位置で良いのであれば、普段ゲームを遊ばない同作のファンでもプレイしやすいライトな仕様でいいが、格闘ゲームのジャンルに爪痕を残すような作品を目指すのであれば、同分野に心血を注いできたコア層が納得するような充実のプレイ感、安定したゲームバランスを持たせる必要がある。
原作のあるタイトルの多くが前者の方向で格闘ゲーム化を果たしてきたが、後者にも『ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ』といった成功例がある。とはいえ、そのような道を歩むとしても、ビギナーの参入ハードルを下げる簡易入力などのシステムは必須となるだろう。
また、ジャンプIPから生まれるゲーム作品という意味では、『ファンパレ』『ヒロアカUR』に続けるか、また、それぞれのタイトルの反省点を生かせるかなどにも注目が集まる。今後も事あるごとに話題をさらっていくのは間違いないだろう。個人的には、いま熱い対戦格闘のジャンルであるだけに、本物志向のタイトルとして同分野をさらに盛り上げていってほしいとも思う。
発売を担当するブシロードは2024年1月6日、TOKYO DOME CITY HALLで行われる『ブシロード新春大発表会2024』にて続報を発表するとしている。