連載「Performing beyond The Verse」(第2回:往来・ぴちきょ×PONYO)
“成功するメタバース”にとって必要なものとは? ヒット施策を手掛けるキーパーソン、往来・ぴちきょ×PONYOが語らう
まだKPIを設定できない世界で、何を目指すか
――お二人から見て、メタバースにおける施策・コンテンツが失敗するとしたら、その要因はどこにあると考えますか?
PONYO:先ほども触れましたが、ここでいう「失敗」とは「期待した結果と実態のミスマッチ」だと思っていて。すなわち「KPIの未達」なので、KPIを“正しく設定できない施策”って、全部失敗という扱いになってしまうんですよね。そして、現実的なKPIを設定しようとすると、そもそも予算が出せず、何も始まらない。
少なくとも、『VRChat』は現時点ではマネタイズできるプラットフォームではない。そういう特性も全部理解した上で、ちゃんとKPIが設定できたところだけが成功する、という話だと思います。
ぴちきょ:うちはKPIをそもそも作ったことがないので、そのへんはちょっとわからないですね……「KPIは無理です!」って最初に宣言した上で、「ゴールはどうしましょう?」と逆算して施策を考えるので。『VRChat』でKPIを設定しても達成が難しいじゃないですか。
PONYO:そうなんですよね。でも企業側と目標の話になると、やはり金銭的リスクとリターンの話は切り離せなくて、やはりなにかしら根拠のありそうな数字を出さなきゃな……と思ってしまう人が多いと思います。
ぴちきょ:まだKPIを語るような段階じゃないかな、と個人的には思っていて。KPIに踊らされると、その時点で失敗する可能性が上がっちゃうかなと。
たとえば、先日までサンリオさんが『SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland』を開催していましたよね。『VRChat』プレイヤーからものすごい好評ですし、Xでも数多く投稿が寄せられています。でも、この反響がチケットの販売数につながるかは正直読めない。憶測ですけど、サンリオさんは“そうじゃないところ”に価値を置いているからこそ、このイベントを続けているのではないかなと思うんですよね。
だからこそ、「何に価値を置くか」を、最初にとことん話し合う必要があると思います。社内を説得するために、どういう名目で予算を立てるかは企業によってバラバラだと思いますが、殊に広報活動の一環として考えれば、価値の決め方はそれぞれなので。
たとえば『VRChat』の場合は、大きな数字は取れないかもしれない。一方で、コミュニティのコミットメント力がすごく高く、Xへの投稿も好きな人が多い。なので彼らにリーチできるようなコンテンツを考えましょう、という話からスタートさせています。
――往来が関わっていた案件だと、フューチャーショップの事例(※)が特にその典型例ですよね。以前メディア向けイベントに参加しましたが、代表の星野裕子氏が「KPI度外視で取り組んでいる」と語っていたのがとても印象的でした。
(※:株式会社フューチャーショップによる公式ワールド「FUTURE 20th SQUARE」と、その関連施策。同社の20周年記念事業として実施され、ワールド内にSaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」の利用企業の「露店」を出店し、訪問者の認知を狙いつつ、フォトスポットとしての訴求を図った。以後、同ワールドを舞台にしたフォトコンテストも実施している)
ぴちきょ:星野社長ご自身が『Second Life』の元パワーユーザーで、メタバースを特に熟知されていたのが大きいです。「KPIなんか決められるわけがない」と、社長ご自身も考えていらっしゃいました。
ぴちきょ:他方で、『メタバースヨコスカ』の3Dスカジャンは、弊社が携わった案件でわかりやすい数字が出た事例です。『VRChat』で人気のクリエイターさんに製作いただいた衣装を無料で配布したこともあって、配布先の『BOOTH』では4万着以上ダウンロードされています。
――以前取材させていただいたときは、「『VRChat』ユーザー以外にもダウンロードされている」というお話しをされていましたね。
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ぴちきょ:そうですね。『VRChat』ではなく『cluster』などに持っていった方の存在はもちろんですが、なにより3DCGとしての完成度が高いので、モデリングを勉強中の人が「教材」としてダウンロードしたという話も聞いています。「服として着る」以外の需要が創出されていて、これは企画段階じゃ計算できないKPIだと思うんですよ。
こうした“予想外”をどう作っていくか、がカギかなと思います。とはいえ、計算しきれないのが基本なので、チャレンジングなマインドを持ってくださる企業さんと取り組ませていただくのが前提になりますけどね。
――ある程度は数字以外のところで勝負を仕掛け、その結果として数字もついてきた、という事例でもありますよね。
ぴちきょ:なかなか計算通りにはいかないですけどね。その中でもフューチャーショップさまの施策は、「これは響くのではないか」という施策を丁寧に積み上げた結果、ある程度は狙ったとおりに落とし込めたように思います。出店いただいたショップさまの認知向上だけでなく、現実の商品を買ってくれた方もたくさんいらっしゃいました。
また、どう「狭く、深く刺す」かを、いまは追求していくべきフェーズかなと思います。『メタバースヨコスカ』の「みかさロボ(※)」が好例で、あれはロボットものが好きな制作スタッフによって、ものすごいこだわりと愛がこめられたものが制作されたんです。そのおかげで、ロボット好きな人を中心に大きな反響を得られています。
(※『メタバースヨコスカ』第2弾ワールド「SARUSHIMA WORLD」にて期間限定で公開された、「記念艦三笠を人型に変形させた」という設定の巨大ロボ。70m超の巨大スケールと、横須賀市在住のメカニックデザイナー・宮武一貴氏のデザインが話題を呼んだ)