連載「Performing beyond The Verse」(第2回:往来・ぴちきょ×PONYO)
“成功するメタバース”にとって必要なものとは? ヒット施策を手掛けるキーパーソン、往来・ぴちきょ×PONYOが語らう
コミュニティの“熱量”がUGCを成立させ、応援したいコンテンツが誕生する
――「深く刺しにいく」という意味では、PONYOさんが手掛けてきたイベントはまさにそのベクトルが強い印象です。
PONYO:僕が大事にしてるポイントとして「ユーザー主体のコンテンツである」ということがあります。『VRChat』はソーシャルサービスなので、需要に対する供給は一方通行ではなく、需要側からの応援などのアクションがセットになった、双方向的なコミュニケーションが発生します。その結果生まれるのが『VRChat』でのコンテンツなんですよね。
やはり、ユーザーが主体的に取り組むことで生まれるコンテンツが、ソーシャルサービスの形に合うと思うんですよ。逆に、外からネームバリューのあるコンテンツを輸入しても、「企業と客」という関係になってしまって、厳しい評価をされてしまう。「自分はサービスを受けてる側なんだから、もっと優れたサービスであってくれ」という消費者心理が働いてしまう側面があるのではないかと思っていて。賛否両論をひっくるめて成功できるくらいパワーのあるコンテンツだったら話は別ですが、そうしたパワープレーで成功するのって、現実的には難しいと思います。
ぴちきょ:PONYOさんが関わっているものだと、バーチャルファッションショーの『Voyage』が象徴的ですよね。あれも主催のゆいぴさんが、並々ならぬ“執念”ともいえるパワーが突破力になっているイベントだなと思っていて。
一人の甚大なパワーを、PONYOさんをはじめとした周りの人が支えていった結果、とてつもない熱量のイベントとして完成している。UGC(User Generated Content)が主体となる場所において、ある種の「わけのわからない熱量」って必要不可欠なんじゃないかなと。
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PONYO:おっしゃる通り、コミュニティのコンテンツは、誰か一人の熱狂的な思いがカギになると思いますね。そして、そこは「応援」という要素がめちゃくちゃ刺さる場なのだと思います。
実例を交えてお話すると、僕がディレクターとして参加したVR音楽フェス『MyDearest JAM 2024 -OPEN THE GATE-(※)』は、基本的に「『VRChat』の中で音楽活動をしている人」を出演者として選出し、運営・制作チームも『VRChat』でイベント運営に関わる人たちで固めることにこだわりました。
(※VRゲームメーカー・パブリッシャーのMyDearestが『VRChat』にて開催した音楽フェス。「社員が勝手にやった」というコンセプトのもと、同社最新作『Brazen Blaze』のアセットを活用した特設会場にて、『VRChat』音楽シーンにゆかりの深いアーティストが多数出演した)
PONYO:MyDearestさんほどの規模なら、知名度のあるVTuberさんやアーティストを呼ぶこともできたんですが、それだとカロリーが高すぎるし、来場する『VRChat』ユーザーから応援を得られるかがわからない。開催にあたって集めたメンバーの質に対して、イベントとしての盛り上がりが比例しないと、企業として「成功した」という認識に至らない。そして、イベント自体も予算が限られており、なにより「社員が勝手にやった音楽フェス」というコンセプトがありましたから。
そんな条件下で、MyDearestさんの狙いを満たすには、ユーザー主体の色を押し出し、「『MyDearest JAM』はユーザーから生まれた」という構図を作り出すことが、最も大きな効果を出せるだろうと考えました。結果的に、現地会場もすぐ満員になり、YouTubeでの同時配信でも想定以上の盛り上がりが見られ、いい成果を出したイベントになったと思います。少し特殊な事例だとは思いますけどね(笑)。
――MyDearestからのオフィシャルな出演者は一組だけでしたね。しかも、アーティストとは別にアクターはユーザーから選出されている(※)。自分も現地で観覧していましたが、観客とアーティストの距離感はとても近かったように感じました。
(※『MyDearest JAM 2024 -OPEN THE GATE-』出演ユニットのひとつ『Azumos』のこと。MyDearest社員のサウンドチームで結成されたユニットで、歌唱・演奏は彼らで行うが、『VRChat』の会場に立つアバターの操作は、『VRChat』プレイヤーが担当していた)
PONYO:まさに応援コンテンツでしたね。盛り上がるイベントには応援は欠かせないですし、言葉を選ばずにいえば、外からやってきた“ぽっと出の企業”では、現地の人から応援というパワーを引き出すのは難しい。ここをいかに引き出すかというところに、魅力的な施策につながるポイントがあると考えています。
『メタバースヨコスカ』のスカジャンも、「EXTENSION CLOTHING」のアルティメットゆいさんなど、『VRChat』現地の人気クリエイターが関わったことで、話題性を呼んだ部分もありますよね。
ぴちきょ:ディレクターを務めたゆいぴさんのおかげです。ファッションコミュニティに精通しているのはもちろん、クリエイターさんとの横のつながりが強いおかげで、アルティメットゆいさんに制作をお願いできました。
アンバサダー企画も大きかったですね。「このあたりの人たちにリーチすればきっとコミュニティが盛り上がる」という狙いでゆいぴさんが企画してくれて、さらに人選から連絡、公式Xの投稿内容ディレクションまで一貫して担当してくれたおかげで、相当に盛り上がった企画となりました。本職のスカジャン絵師・横地広海知さんがデザインを手掛けたおかげで、クオリティも完璧でしたし、様々な狙いがうまく噛み合った結果、ユーザーの反応を得られたように思います。
――現在もあのスカジャンを使っている人はかなりいますね。本当にユーザーへ深く浸透した感触があります。
ぴちきょ:横須賀市側の担当者である小山田さんもご自身がゲーマーで、これまで自治体とIPのタイアップを推進してきた方だったこともあり、『VRChat』カルチャーへの理解度が高かったことも大きいですね。ここまで挙げた人が、一人でも欠ければ結果が出なかったかなとも、あらためて思います。事業者としては、関わる人がうまく噛み合うような環境づくりを進めていくのも大事だなと感じています。
PONYO:『VRChat』のコミュニティってけっこう特殊な形をしていますよね。現実であれば、流行のピラミッドの最先端には企業がいて、その直下にインフルエンサーがいる。さらに下には、消費者たるユーザーが末広がりにいる。でも『VRChat』の場合は、ユーザーの中でピラミッドがすでに構築されている。現実とは真逆で、企業は既にユーザー間で構築されたピラミッドの下支えをするような形でコンテンツを提供するほうが、現状は成功していますよね。
ぴちきょ:そうですね。現状はそのフェーズだと思います。ですが、次の課題も見えてきたなと思っています。
(後編につづく)
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