デスゲーム形式の『ALTÆR CARNIVAL』は必然だった 『Project:;COLD』藤澤仁に聞く“リアルを巻き込むARG”の現在地

藤澤仁に聞く“リアルを巻き込むARG”の現在地

アフターコロナで実現したリアルを巻き込むコンテンツ

――時代の変化として、『case.613』の時期はまさにコロナ禍でしたし、オンラインでいろいろなコンテンツが展開されるという社会背景もありましたが、いまはまたフェーズが変わってきています。以前のインタビューでも『あんたがた』や『cicada3301』のお話を出していただきましたが、コロナ禍以降は“リアルでの動き”という選択肢も復活するのかなと思っていますが、いかがでしょう。

藤澤:痛いところを突きますね(笑)。最近『行き場のなくなったポケットティッシュ』も発表されましたからね。前回のインタビューの時期(2020年)は「外に行こう」とは言いづらい社会背景でしたが、今回は言える。こういうコンテンツをやっていると、『あんたがた』の興奮って忘れがたいものがあるんですよね。ああいうことを自分たちでやりたいとずっと思っていたので、今回は「そこは絶対にやる」と最初から決めていました。

――『行き場のなくなったポケットティッシュ』の話が出たので聞きたいのですが、外伝的な作品として展開された『人の財布』についても触れておきたいです。SNSをはじめ反響が大きかったですが、あれだけバズることは想定していましたか?

藤澤:いやいや、まさかまさかでしたね。

――融解班以外にも広く知られたものになりました。

藤澤:テレビのワイドショーで連日紹介していただけましたからね。僕の仕事を知らないうちの母親が『人の財布』を知っていたくらいで、ARGの「ラビットホール」(ゲームの入り口となる仕掛け)というのは、しっかりハマればこれだけの破壊力があるんだなというのは、僕らも改めて理解しましたね。

――特定IPとのコラボなど、わかりやすい入口があってラビットホールになることが多いと思うのですが、IPとは直接的に関係がないものがラビットホールになるのはすごい現象だなと思います。

藤澤:変な話ですが、『Project:;COLD』よりも「人の財布シリーズ」の方が通りがよかったりするくらいですからね。本当に想定外でした。

――『人の財布』はどんな構想から生まれたものだったんですか?

藤澤:さっきも触れましたが、ストーリーノートにARGの知見のある若い社員がたくさん入ってきてくれたんですが、そのなかに「実は僕、人のものを展示する展示会をやったことがあるんです」という人がいて。「なにそれ?」と聞いたら、「いや、人のものが展示してあるんですよ」って。

――そのままなんですね。

藤澤:「そこからなにか物語が始まるの?」って言ったら、「始まらないです」と。「いやいや、始まろうよ」みたいな話をしていて。そんな雑談の中から生まれていったと記憶しています。

 上手なラビットホールさえ設計できれば、そこから物語を紡いでいくのは僕らの得意とするところですから。そんな感じで生まれたのが『人の財布』でしたね。

 ただ、これは本当に正直な話、そんなに売れるとは思ってなくて。遊んでくれた選ばれし人が「面白い体験をした」と言ってくれればそれで十分と思っていたんですけど、結局僕らが思っていたより100倍以上売れてしまったという。

――「『人の財布』を再入荷します」というニュースが入ってきて、驚きました。

藤澤:シュールギャグですよね(笑)。

 これは誰かに言われたわけでもないんですが、「これだけの大作に携わらせてもらっている責任としてARGをちゃんと普及させなくては」みたいな使命感を僕は勝手に感じていて。そういう活動の一つとして『人の財布』が生まれたんですが、こんなに明快なARGの入口はなかったですよね。

 『人の財布』は謎解きゲーム風ですが、実際にやってもらえれば物語体験だということが分かると思います。人力の部分が多いので普及は困難だったんですが、これは自分たちが目指している方向と合致しているし、やるべきこと、価値のあることだと思えたので、量産化の道を選びました。

 ただ、実はまだ出荷できていない分が多いんです。これから多くの方がこの物語を体験すると思うので、世の中が『人の財布』をどう評価するのか楽しみですね。

――ここまで売れることは想定外だったと思いますが、物語としては遅れて入っても問題ないように作られているんですか?

藤澤:はい。もともと想定していた個数が売れるのに1年くらいかかるだろうと思っていたんですよ。なので、1年後に届いても遊べるようにしておかないといけないと思って、『Project:;COLD』のような共時性は排していたんです。

 こういう共時性のないものを作っていかないと、大勢が楽しめるARGは作れないと思っていて。「花火大会の日は楽しいけど、翌日にはなにもない」みたいな感覚のものばかりじゃなく、「打ち上げ花火的以外のARGを作りたい」と思っていたんです。

――アウトプットが複数あることによって、“打ち上げ花火”にいろいろなものを背負わせなくて済むという面もありますね。

藤澤:そうですね。『Project:;COLD』は僕らにとってフラッグシップでもあるけれども、何年かに1回派手にやる打ち上げ花火大会のような位置づけかなと思っています。

“推されなければいけない”仕組みで取り組んだこと

――あらためて今回の『2.0』で特筆すべきこととして、「RTAS」という仕組みが作られました。

藤澤:「RTAS」、すごくいいんですよ。ずっとウェブ周りを担当してくれている株式会社イロコトさんと作っていったんですが、そこに『Project:;COLD』への思いが強い方がいらっしゃって。僕らが「YouTubeで『自分も貢献した』と思えるような仕組みを作りたい」と伝えたら、システムを考案してくれたんです。

 「RTAS」は、考えるほどいろいろな使い道があると思うんですよね。『Project:;COLD』でのお披露目にはなりましたが、「RTAS」のシステム自体はもっと大勢の方に使ってほしいです。YouTubeを主軸にしているライバーの方も多いですし、使いやすくしたらみんな使ってくれるんじゃないでしょうか。

――藤澤さんはキャラクターへの向き合い方についても、以前お話されていました。これまでのように物語を書く場合と、今回のようにキャラクターや応援するファンの熱量ありきで物語を書く場合とでは、描き方も変わるのではないでしょうか。

藤澤:そこに関しては、僕は体験や物語には強くこだわるのですが、実はキャラに対してはそれほどこだわらないところがあるんです。探偵が被害者に感情移入しないのと同じように、僕は自分が生み出したキャラクターに強く感情移入することはあまりなくて。でも、それがいいと思っているわけではなくて、それは僕の感性の欠如した部分だと思っているので、そういったところを今回、今泉がうまく埋めてくれたと。

今泉:そうなっていたらいいのですが……。ただ、物語の都合上、今回の5人の女の子は、“絶対に推されなければいけない”立場にありました。人気が直接命に関わるかもしれないこともあって、それぞれの子の個性の出しかた、バランスにはかなり気を使ったように思います。

――先ほども触れましたが、「推し活」が題材の一つですからね。今泉さんにお伺いしたいのですが、“推される要素”とはなんなのでしょう?

今泉:今回の少女たちの場合、どの子がどこまで生き残るか誰にもわからないという前提がまずありました。そのうえで、「この子を生き残らせたら、次はもっと違う一面が見れるかも。このゲームを勝ち抜いた先で、また話したい」そう思ってもらえるような要素は盛り込んだつもりです。回を重ねるごとの変化……、早い段階で脱落した子は、そのあたりがお見せできなくて心苦しかったですが。

藤澤:デスゲームは、取り返しがつかないからね。

今泉:あと、前提で言いますと、『Project:;COLD』の登場人物には、「私たちと同じ世界に存在している」という共通した設定があります。なので、少女たちの在り様、考え方が現実離れしすぎないようにはいつも気を付けています。人物を好きになってもらううえで、共感のしやすさ、親しみやすさはやはり大切なことだと思うので。

──なるほど。しかしその一方で、今回の登場人物のファッションは、これまでよりも特徴的になった印象を受けました。

今泉:そうですね。望月けい先生のデザインが最高なのはこれまでどおりですが……。ファッションの傾向がバラバラなのは、今回の少女たちが「各地から集められた、まったく違う属性の子たち」であることを象徴しています。あとは、今回の物語の舞台が、「デスゲーム番組」というエンタメ寄りかつ非現実的なものになった影響も大きいですね。

藤澤:case.613のときは、一度仕上がったデザインをリアリティ側に寄せてもらったりといったチューニングが入っていましたからね。世界の作り方からして、今回と前回は全然違ったと思います。

――今回『ALTÆR CARNIVAL』があり、これから解決編に入っていきますが、次回作ではまたまったく違ったフォーマットを作っていくのでしょうか?

藤澤:前回もそうだったんですが、僕は次の段階をなにも考えていないですね。

今泉:基本、常に今できる最大限のことをしていますしね。シリーズものの宿命として、次回作では「より新しい、面白い体験」を目指すことになるとは思いますが……、どうなるかはまったくの未知です。

――どうなるにせよ、簡単には真似できないものになる確信があります。

藤澤:そうですね。一朝一夕ではできないコンテンツになりつつあると思います。

――コンテンツや発想自体にオリジナリティがありつつも、チームにもオリジナリティがあり、練度のあるチームが作れないと同じことは不可能ですよね。

藤澤:少々恐縮な話ではあるんですが、『Project:;COLD』を見て同じようなことをやろうとして途中でやめてしまったり、やりきれなかったコンテンツがいくつかあったと思うんです。本当に理解の深い仲間がいてこそできることですし、そんなに量産できるものではないということは、現場の中心にいるからこそ感じます。

――今後はさらに“真似しようとも思わないもの”になっていくのでしょうか。

藤澤:それはわからないですが、個人的にはもっとみんなに挑戦してほしいと思っています。ただ、ARGはマネタイズが難しいという宿題があるので、理解のある出資者がいないと実現が難しいというのは苦しいところです。でも、『人の財布』やグッズなどの物販、ココフォリアを使ったリバイバル版のような、ファンから応援がもらえる道筋も見えてきています。収益化ができる世界にやっと片手がかかるところまで来たと思っているので、この辺りがさらに進化すれば、「じゃあやってみようかな」という人も増えていくだろうと思っています。

©Project COLD

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