考察飛び交う『Project:;COLD』なぜ話題に? VTuber&ARGの視点から考える

『Project:;COLD』なぜ話題に?

 現在進行形で起きている事件をネットで目撃し、真相を暴く。そんな都市伝説のような企画がSNSで話題を集めている。企画の名前は『Project:;COLD』。インターネットをフルに使って展開される、まったく新しい次世代の謎解き&ミステリー作品だ。考察好きやVTuberファンを中心に多くの関心を集め、参加者たちは今この瞬間も物語の真相へ近づくために謎解きを続けている。(参考:都まんじゅうの全貌は“現実と仮想が交錯する不可逆性SNSミステリー”だった 『Project:;COLD』がスタート

 『Project:;COLD』が発表されたのは12月1日。しかし名前が明かされる以前からすでにこの企画はバーチャルキャラクターによるバンドプロジェクト『都まんじゅう』として始動しており、ファンたちはその謎に注目していた。このような謎解きは気付かずに素通りされてしまえばそれまでだし、大々的に謎解きだと喧伝すれば興が醒めてしまう。一体どのようなさじ加減で、『Project:;COLD』は現在のような活発に謎解きを行うファンを多く獲得するに至ったのか。この記事ではプロジェクト名が発表される以前の情報の出し方や動画の演出から、特に『Project:;COLD』に注目したVTuberファンたちがその謎解きに引き込まれていった理由を整理していきたい。

 まず取り上げたいのは参加しているクリエイター陣。『Project:;COLD』のキャラクターデザインを手掛けるのはイラストレーターの望月けい、映像監督は川サキケンジだ。望月は自身でVTuberのキャラクターデザインを担当しているほか、にじさんじを中心に公式イラストやファンイラストを描くなど多くのVTuberファンから支持を集めている。一方の川サキは神椿スタジオ所属の花譜や理芽などの映像制作に携わっている。

 『Project:;COLD』はこのようなクリエイター陣が関わる企画として11月1日に発表され、同日「みやまんチャンネル」への動画投稿が始まった。そのため企画名や全貌が明かされる以前から、『都まんじゅう』はクリエイターたちを追いかけるコアなVTuberファンからの興味を引くこととなった。また、公開された動画もVTuberの初投稿動画としてはお馴染みの「自己紹介するアバターの映像にテロップがついたもの」だった(突然MVや「弾いてみた」を投稿するのではなく、一般的なYouTuberの形式に倣うVTuberの作法に沿っている)。

【初配信】初めまして!佐久間ヒカリ、高校三年生です!バンド始めます!【自己紹介】

 この初投稿動画にも、いくつかの特徴がある。まず、登場した佐久間ヒカリはVTuberともYouTuberとも名乗らず「私や友だちのことを知ってもらいたくてYouTubeチャンネルを作っちゃいました」というだけだ。だから見る側の判断も「3Dモデルが自己紹介しているのだから、きっとVTuberなのだろう」というところに留まる。川サキによる映像は花譜などでも見受けられた彩度の低い落ち着いた実写映像、それを背景に画面を動くのは望月のデザインを反映したシャープな印象を与える3Dモデルだ。対して、効果音や彼女の声色は明るく、その上に踊るテロップやサムネイルの装飾もビビッドな配色にポップなフォントとなっている。特に映像とテロップとのチグハグな印象は強烈で、視聴した者は違和感を覚えざるを得ない。

 さらに、動画から得られる情報も「真に迫っている」。画面に登場した彼女が実写をバックに語る第一声はこうだ。「私、佐久間ヒカリって言います。神奈川県平塚市に住んでいる、高校3年生です!」彼女はたとえば「バーチャル〇〇に住む」であるとか「魔界出身の~」のような曖昧なことや突拍子もないことは言わない。以上から喚起される感情は「設定はともかくデザインや声色、リアクションを楽しもう」という姿勢ではなく「どこまでが現実で、これは一体何なのか確かめてやろう」という好奇心だ。

 その直後、画面にはノイズが走る。これは別の動画と合わせることで「彼女たちを死なせるな」と解読できる暗号となっている。このノイズの演出はいかにも「これが何かを解き明かしてみろ」と言わんばかりのあからさまなものだ。しかし、動画にはノイズ以外にも上記のような違和感や好奇心を湧き起こす仕掛けが配置されており、つい自然とその謎に誘導され、引き込まれていく設計になっている。そのため多くの人が推理に参加し、SNSは謎解きに関する投稿があふれることとなった(公式からは参加者に融解班という名称が付けられている)。

 このような謎や設定を仄めかす動画は、名取さななども投稿してきた。また、その謎や設定に視聴者がコメントやチャットで関与することで物語を進行するストーリーテリングには、薬袋カルテやにじさんじの出雲霞のような前例がある。

 特に似たような形式としては鳩羽つぐの名前が挙げられる。鳩羽つぐのものとして初めて投稿された動画は次のようなものだ。まず白い背景に少女の3Dモデルがアップで映される。この構図からは特にキズナアイの自己紹介動画の印象が強く喚起される。ところが、身だしなみをチェックするように体を揺らしたあと、少女は「鳩羽つぐです、西荻窪に住んでいます」と実在の地名を挙げて挨拶する。直後、カメラが引いていくことで白い仮想空間を思わせたのは撮影用の白い幕であり、彼女は薄暗い仮設スタジオのような場所にいるのだと明らかになる。

鳩羽つぐです

 以上のように鳩羽つぐの動画は『Project:;COLD』と同じようにVTuberの形式に沿って始まり、そこから徐々に明らかになるズレが謎めいて好奇心を掻き立てはする。しかしそこでは『Project:;COLD』のノイズのような解き明かすべき「謎」それ自体や手がかりとなる「鍵」が明示されない。そのため、「鳩羽つぐを誘拐した犯人からの投稿」というものを筆頭に多種多様な憶測・都市伝説がSNSでまことしやかに流通するようになった。『Project:;COLD』はこのようなVTuberの動画投稿のスタイルを踏襲し、視聴者に解決すべき謎を提示することで「物語に介入できる参加型ミステリー」へと繋げる初動を見事に達成したと言える。

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