歌広場淳×こく兄“おじリーガー”対談 「優しさ」と「恩返し」がつなぐ、格ゲーマーたちの輪

歌広場淳×こく兄“おじリーガー”対談

こく兄が語る“売れっ子”の定義、「深夜の雑談配信で視聴者数5000人」

こく兄:……というか、別にみんなもそうじゃない? 『スト6』が発売されたからって、「あいつは変わっちまった」みたいな人っていない気がするんだけど。歌さんもそうじゃないの?

歌広場淳:まあそう言われればそうなんですけど。なんだったら、僕とかいまだに格ゲー村に入れていないような気がするし。

こく兄:えっ、なんで!? だって歌さん『カプエス2』(CAPCOM VS. SNK 2 MILLIONAIRE FIGHTING 2001)とかやってたんでしょ。めちゃめちゃ昔から格ゲーの人じゃん。

歌広場淳:いや、たぶんその辺りは関係ないんでしょうね。まだ村人としては認めてもらえていない感じがするもん。

こく兄:『おじリーグ』にも出てくれているし、あの場でリスクを負って、プライドを懸けて戦う姿も見せているわけだから、それで認められていないわけないと思うんだけどな。

歌広場淳:こく兄がそう言ってくださるのは本当にうれしいんだけど、現状みんなが“格ゲー村”と言われて思い浮かべるものって、おそらくプロゲーマーを中心としたTwitchの格闘ゲーム配信者界隈である可能性が高いと思っているんです。

 そう考えると、僕は個人配信の視聴者数もまだ少ないし、どうしても知ってもらえていない気がして。こく兄なんか、視聴者数が3000人とかいっちゃってるから、もう雲の上の人に見えちゃう(笑)。

こく兄:いやいや、それは『CAPCOM CUP』のガヤ配信(応援配信)のときとかでしょ? ふだんは鳴かず飛ばずだから。

歌広場淳:それじゃあやっぱり、こく兄のなかでは自分はまだ「売れかけ」なんだ。

こく兄:売れかけも売れかけだね。早く売れたいですよ、僕も。

歌広場淳:いや、もう売れっ子でしょ(笑)。まあ、こく兄の感覚もわかるところはあるんですけど。僕らもずっと「売れてない」って言い続けてたし。

こく兄:実際、歌さんがゴールデンボンバーとして「売れたな」って思えたのはいつごろだったの?

歌広場淳:アーティストとして売れたと思えた瞬間って、少なくとも僕はまだないんじゃないかなと思います。このあたりは個人の感覚にもよるところなんでしょうけど……。こく兄は、「ここまで到達できたら売れっ子」みたいな基準ってあったりするんですか?

こく兄:自分のなかでは、明確にあるんだよね。“なんの前触れもなく夜中に雑談配信して、5000人以上の視聴者を集められるヤツ”。これが売れてるかどうかの目安だと思っているから、そもそも3000人呼べたことがあったとしても全然「売れかけ」止まりだと思っちゃう。

歌広場淳:じゃあ、“深夜の雑談配信で視聴者数5000人”を目標に、こく兄はがんばってるわけなんだ。

こく兄:いや、そうなりたいとは思うけど。やっぱり年齢的にもキツイんだよね。もう今年44歳なので。

歌広場淳:年齢なんて関係ないじゃん! ……って言いたいところではあるんだけど、やっぱり関係ある?

こく兄:あると思う。歳とともに体力も落ちるし、どうしても配信に対する熱量が下がっちゃうし、性格的にも丸くなっちゃうというか、落ち着いちゃうから。あとは、ストリーマーに興味がある層が若い人たちなのも大きいと思う。若い人が見るものだから、視聴者との感覚がズレていってしまうのは気になるよね。

 うんこちゃん(加藤純一)も言っていたけど、配信者は35歳までが勝負だね。35を過ぎるともうおじさんになっちゃって、その後は停滞し始めるから。

歌広場淳:マジか……。

10年続いた暗黒時代。再浮上のきっかけは……?

歌広場淳:僕は最近になって本格的に配信を始めたんですが、現状は配信すること自体がおもしろいし、これをどうやったらもっとたくさんの人に見てもらえるのかなと試行錯誤しているところなんですが、こく兄から何かアドバイスをいただけませんか?

こく兄:とにもかくにも、続けることだと思います。計画性を持って、続けること。

歌広場淳:ニコ生(ニコニコ生放送)のころから長年配信活動を続けているこく兄が言うと、やっぱり説得力がありますね。ちなみに、こく兄は下積み時代的な苦しい期間ってどのくらいありました?

こく兄:10年だね。

歌広場淳:えっ、そんなにあったんですか!?

こく兄:あったあった(笑)。ニコ生時代は、ニコ生の風土と相性がよかったせいか、ドカンと売れたんですよ。毎日とんでもない数の人が見に来てくれていて、それで調子に乗っちゃったんだよね。

 だんだんニコ生の公式番組とかにも呼ばれるようになって、名古屋の家と東京を往復するようになったのと引き換えに、どんどん個人配信の回数が減っちゃって。それでも当時は「自分はおもろいから大丈夫だろう」なんて思っていたんだけど、日に日に人が減っていって、そこからはもう何をやっても100~200人がマックス。その状態が10年続いた。

歌広場淳:うっ、聞いているだけで胃が痛くなるような話……。そこからの再ブレイクのきっかけって何だったんですか?

こく兄:ウメハラに拾ってもらったんだよね。ウメハラと一緒に、『ストV』の海外大会の応援配信をやらせてもらうことになって。そこで見てくれた人たちが、「こくって嫌なヤツだと思ってたんだけど意外とおもしろいんだね」って思ってくれたんじゃないかな。

歌広場淳:注目さえ戻ってくればこっちのもの、じゃないけれど。そういうチャンスをものにできたのは、やっぱり10年間の経験とか積み重ねがあったからこそなんだろうなという気がします。

格ゲーマーたちの地道な努力を、インフルエンサーたちがブーストしてくれた

こく兄:それにしても、歌さんが「自分は格ゲー村の住人として認められていない気がする」なんて言い出すとは思わなかった。『スト6』になってからも、いまMR(※4)が1900くらいあるんでしょ? もはやプロ一歩手前くらいの実力じゃん。マジですごいって。もっと自信持ちなよ!

※4……マスターレート。『スト6』のランクマッチにおける上位ランク「MASTER」到達者に付与される、レーティングポイントのこと。

歌広場淳:我ながら、すごいハズなんだけどな……とは思うんだけど。やっぱりMRじゃ伝わりづらい部分があるのかな。

こく兄:きっと視聴者のなかには、ランクマをガッツリやり込んだ経験とかがない人たちも多いと思うし。

歌広場淳:なるほど。こく兄としては、そうやって自分では格ゲーをあまりプレイしないにもかかわらず、わざわざ配信を見に来てくれている人って、どのくらいいると感じます?

こく兄:たぶん、3~4割くらいはその層なんじゃない? それこそたまに3000人とか来てくれる日もあるけど、そういう日はほとんどの人が「格ゲーのことは全然わからないけど、なんとなく見てる」って感じだと思うから。

歌広場淳:その“なんとなく見てる”層って、ふだんはFPSとかの配信を見てる層なんですかね。

こく兄:うーん、選挙で言う浮動票みたいなものなんじゃないかな。特定の界隈をガッツリ見ているわけじゃなくて、「今日は誰を見に行こうかな」とTwitchを開いているみたいな層。

歌広場淳:なーるほど! そういう人もいるんだ!

格ゲー用語の解説をすればするほど流行らない理由が浮かび上がり悲しくなるこくじん

こく兄:なにか裏付けがあるわけじゃないんだけどね(笑)。ただ、これまでは「格ゲーのことは全然わからない」と思っていた人たちも、最近は格ゲーをやってくれるストリーマーとかVTuberの影響で、観戦するうえでの楽しみかたに気付きはじめてくれている気はする。

歌広場淳:うわ。いまのお話、僕にはぶっ刺さりましたよ。こく兄はそういう趣旨で言ったわけではないと思うんですが……言われてみれば、僕って『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、『LoL』)の配信を見ないんです。『LoL』の知識がまったくないので、見ていても内容がよくわからないから見ないんですよね。

 つまり僕にとっての『LoL』と同じような感覚を、多くの人が格ゲーに対して持っていたってことだと思いました。「格ゲーおもしろいから、みんなもっと見てくれたらいいのに」と思ったところで、僕自身わからないゲームは見ないくせに、よく言うよって話だよなぁ。

こく兄:ああ、そうそう。確かにそうなんです。僕も、うんこちゃんやSHAKAの配信はよく見に行くけど、自分がある程度知ってるゲームをやってるときじゃないと見るのはキツイから。

 だからいま、こうして格ゲーを多くの人が見てくれるようになったのは、プロゲーマーを筆頭にした格ゲーマーたちが裾野を広げる活動を地道にやってきたことが、少なからず伝わった結果なんじゃないかって気がしてうれしいよね。

歌広場淳:みんなががんばって「格ゲーとはこういうものだよ」、「ここがおもしろいんだよ」と言いまくった結果、少しずつ格ゲーに対するリテラシー上がっていったってことなんですね。

こく兄:もちろん、そうやって活動してきた格ゲーマーに高名なインフルエンサーたちが絡んでくれて、彼らも楽しそうにやってくれるから、見ている人たちもやっている内容が理解できてきたんだと思うんだけど。

 そのおかげで、インフルエンサー以外の格ゲーマーの配信も見に行きたいと思うようになったから、僕みたいな配信者のところにも格ゲーを自分ではやらない層がたまに来てくれるんだよね。ストリーマーやVTuberがブーストをかけてくれたことは、本当に大きかった。

歌広場淳:いくら浮動票と言っても、まったく興味のない人のところには流れないわけだから。インフルエンサーのみなさんへのコーチングで師匠と弟子の関係になれたり、チームメイトとして一緒に戦ったりという形で、深いお付き合いができたのもありがたいよね。

こく兄:そうそう、友だちになってもらえたから。たとえばSHAKAのファンがSHAKAの配信に行こうとして、そのときに配信中じゃなかったから「じゃあどこに行こうか?」となったときには、やっぱりその人の知り合いとか絡みのある人のところに行きがちだよね。

歌広場淳:ああ、なるほど。友だちの家に遊びに行ったら留守だったから、じゃあ“友だちの友だち”の家に行ってみるかって感覚で、こく兄のところにも遊びに来てくれるようになったわけですね。

大多数の格ゲーマーは「冬の時代」しか知らない?

歌広場淳:『スト6』の発売をきっかけに、「格ゲー業界にもようやく春が訪れたな」という感覚があると思うんですけれども……。

こく兄:春っていうか夏ですね。完全に夏。

歌広場淳:春を通り越して夏か(笑)。格闘ゲームシーンを長いあいだ見守ってきたこく兄にとっては、このアツさも格別だと思うんですけど、「格ゲーは冬の時代が長かった」とよく言われるじゃないですか。こく兄にとっては、いつからいつまでが「冬の時代」だった?

こく兄:どうだろうなぁ。いろいろあったと思うよ。『ストリートファイターII』(1991年稼働)が出て、めちゃくちゃ流行って社会現象にもなって。その後に『バーチャファイター』(1993年稼働)が出て、『鉄拳』(1994年稼働)が出て。『鉄拳2』(1995年稼働)がめっちゃ流行ったのを最後に、そこからはずっと冬だったんじゃない?

歌広場淳:本当に!? そんなに長かったんだ。

こく兄:だって、『ストIII 3rd』(1999年稼働)のころなんて誰も格ゲーに注目していなかったから。対戦相手がいなくて困ってたくらいだよ?

歌広場淳:えっ、こく兄の地元の名古屋ですら、そんな状況だったんですか?

こく兄:そうそう。当時、対戦相手がマジで2~3人しかいなかったから。街中のゲーセンをしらみ潰しに回って、ちょっと強いヤツがいたら声をかけて、「いつもどこでやってるの? 俺はいつも◯◯ってゲーセンでやってるから今度一緒にやろうよ」って誘ってた。そうやって少しずつ輪を広げていったんだよね。

歌広場淳:俺より強いやつに会いに行くどころか、無理矢理にでも探しに行かなきゃならない状況だったと。

こく兄:そうでもしないと自分もつまんないし、いろんな相手やキャラとやりたいからね。全国大会なんかも、当時はものすごく盛り上がっていたように感じたのは間違いないんだけど、それでも最大で6000人くらいしか集まっていなかったわけじゃん。

歌広場淳:確かに『闘劇』の盛り上がりも、あの当時としては本当にすごかったと思うけれど、いまの『CRカップ』とかの盛り上がりと比べたら規模が違うよね。

こく兄:松田さん(※5)たちががんばってくれたからあれだけ盛り上がったし、そのおかげでいまがあるっていうのは僕も歌さんも共通の見解だと思うんだけど……。言ってしまえば大多数の格ゲーマーたちは、「冬の時代」しか知らない可能性すらあるんじゃないかな。

※5……松田泰明氏。ゲームセンター・ゲームニュートンのオーナーであり、『闘劇』をはじめとする多数のゲームイベント運営に携わる。

歌広場淳:そうか……! なんだったらその状態が当たり前になりすぎていて、自分たちが「冬の時代」にいた自覚すらなかった人もいるかもしれないわけだ。

こく兄:格ゲーマーなんてみんなそうじゃない? それでやっと冬が終わったと思ったら、いきなり夏になっちゃったと。ただ、そのなかにも春とか秋とか冬を経験してきた人は残っているから。最初期からプロゲーマーとしてがんばってきた人たちがそうだよね。だからいまは、この夏が終わらないように必死にがんばっているんだと思う。

格ゲー業界とFPS業界の意外な関係性

歌広場淳:ほかの業界――たとえばFPS業界の人と話したときなんかに、盛り上がりの温度差を感じたことってありますか? 「あっちの街は暖かそうだな」みたいな。

こく兄:羨ましいなって思うことはもちろんあったけど、いまはむしろFPS業界の人たちから「格ゲー業界は盛り上がっているよね」と言ってもらえることのほうが多くなったね。「格ゲー業界はいいよなぁ」と口には出さずとも、そういう雰囲気を感じることはあるかも。

歌広場淳:あのFPS業界からも一目置いていただけるどころか、逆にちょっと羨ましいとすら思ってもらえてるってこと!?

こく兄:これは人から聞いた話なんだけど、じつはFPS業界と格ゲー業界って春と冬を交互にくり返しているって見かたもあるらしいんだよね。FPSに春が来たときは格ゲーが冬で、その逆もしかり……みたいな。お互いに影響し合っているというよりは、偶然そうなっちゃったってことなんだと思う。

 『ストリートファイターIV』でウメハラが戻ってきて、プロゲーマーにもなって、にわかに格ゲーが盛り上がった時期があったじゃない。2010年代前半くらいのころ。ちょうどその時期にSHAKAと初めて会う機会があったんだけど、彼から言われたもん。「格ゲーが盛り上がっていて羨ましいです」って。

歌広場淳:そんなことがあったんだ。……っていうか、こく兄ってSHAKAさんと10年近く親交があったんだね。

こく兄:たまたまネット番組で一緒になったんだけど、SHAKAは当時『Alliance of Valiant Arms』(以下、『AVA』)っていうFPSの選手だったのね。ただ、『AVA』では日本にもけっこうな数の有力選手がいるのに、世界と比べたら日本国内では全然盛り上がっていなかったんだって。

 だから、はじめましての挨拶をしたときに、SHAKAは「俺らも格ゲーみたいにFPSを盛り上げていきたいんです」って言っていて。「いやいや、俺らだってまだ全然だから。お互いがんばりたいよね!」みたいな感じで返したと思うんだけど……。

 その後、FPS業界は『PUBG』のヒットでドカンと大きくなっちゃって、俺らの声なんて全然届かない高みに行っちゃったから、今度は格ゲーマーがFPS業界を羨む番になっちゃったんだよね。

歌広場淳:バトロワ系のシューターが流行り始めた時期はすごかったよね。全然ゲーマーっぽく見えないような女の子すらも、ふつうに『PUBG』とか『荒野行動』をプレイしているような時代になったから。

こく兄:そうそう! キャバ嬢とかもみんなやってたわけじゃん。いまだと『Apex Legends』とか、『VALORANT』とか。本当にスゲェなって思った。

歌広場淳:だとしたら、これからは『スト6』もそうなっていくかもしれないよねと。

こく兄:そうなったらうれしいよね。もちろんFPS業界が逆に冬の時代になっていくかといったら、全然そんなことはないと思っていて。たまたま、いまはアップデート待ちだったり新作待ちの時期が重なっただけなんじゃないかな。

 インフルエンサーたちも、FPSに冬の訪れを感じたから格ゲーに目を向けてくれたとかそういうわけじゃなくて、彼らは純粋にいまこの瞬間おもしろいと思ったゲームをやっているだけだから。

歌広場淳:そっか。ゲーマーなら、そのときどきでおもしろいゲームをやるのが当たり前ですもんね。

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