もうカツアゲは怖くない――中年男性が“四半世紀ぶりのゲーセン”で思い出した少年時代

“四半世紀ぶりのゲーセン”で思い出した少年時代

 小中高を福岡県は北九州市の片田舎で育った私にとって、ゲーセンはデンジャラスな空間だった。最寄りのゲーセンに遊びに行けば、3分の1の可能性でカツアゲ目的の御方とエンカウント。壊れるほど愛しても3分の1も伝わらないというのに、金銭目的の暴行は3分の1で発生していたのである。しまいには、あまりに事件が発生するので店自体が潰れてしまった。遠くのゲーセンに行くことも考えたが、その店はゲーセンというより御ヤンキーのみなさまの社交場的な空間で……。御ヤンチャな同級生が「明日さぁ、後輩の◯◯を“その店”で、みんなに紹介しようと思うんだよ」と言っていて、「そんな『マイ・フェア・レディ』みたいなシステムなんだ?」と感心したものである。

 そんな過酷な状況でも、私は少ない小遣いをカツアゲのリスクに曝しながら、ゲーセンに行った。なぜそこまでして行ったのかは、よく分からない。ゲーセンが持つ引力に引かれたとしか言いようがないだろう。しかし、ここでもう一つの悲劇が起きる。私は致命的に格ゲーの才能がなかったのだ。ストーリーモードで負け、乱入されてボコボコに負けた(なぜか『マーヴル・スーパーヒーローズ VS. ストリートファイター』だけはクリアできた。憲磨呂で)。金もないし、才能もないし、怖いし、つーか潰れたし……いつしかゲーセンに行くことはなくなった。

 あれから数十年が経ち、そろそろ私は38歳になる。誰がどう見ても、いい大人、いわゆる中年男性である。ありがたいことに仕事もアレコレあって、それなりに充実した日々を送っている。ただ悩みもあって、ゲームを遊ぶ時間が確保できない。家庭用ゲーム機のソフトはプレイ時間がドンドン伸びているし、ソシャゲはサービス終了までエンディングがない。下手にハマれば、仕事が回らなくなってしまう(いい歳にはなったが、ゲームを1時間でやめられるほど人間は仕上がらなかった)。それに仕事だけではない、睡眠時間の確保もある。大人は自由時間が圧倒的に少ない。生活のために、残念だけどゲームに割く時間はないのだ。もう『ポケモンスリープ』しか遊べない。少年時代のようにゲーム機の前で遊びまくることはないのか……そう思っていたある日、ふと気が付いた。

「そうだ、今こそゲーセンに行こう!」

 ゲーセンは基本的にワンコインである。プレイ時間は短ければ数分、長くても数十分に収まるだろう。なによりいまのゲーセンは治安が悪くないと聞く。大人になったので、仮にカツアゲされても被害届を出せばいいと分かった(弱い方が悪いのは、当時のあの街だけのルールである)。そんなわけでおよそ四半世紀ぶりに近所のゲーセンに遊びに行った。

 ゲーセンに入ってすぐに目に入ったのは、言わずと知れた大ヒットシリーズの最新作で、絶賛稼働中の『ストリートファイター6』である。ひとまずこれを触ってみることにした。操るのはジュリである。テコンドーの達人で、人相が悪い女性キャラである。二次創作で見かけるたびに気になっていた。俺の性癖For MeなドSキャラだ。この人をちゃんと知ろうという気持ちで100円を放り込むが……まず難易度を選べることに驚く。ひとまずeasyを選び、さらにオンライン対戦などは極力しないように設定、そして始めると……なんとビックリ。初見でエンディングまで行けた。こちとら昇竜拳どころか波動拳すら出せなかった格ゲー下手くそ野郎で、しかも数十年ぶりの格ゲーなのに、である。聞けば『スト6』は初心者に優しくがモットーだそうで、そういう意味では完璧な仕上がりだ。さすが天下のカプコン様やでぇとイイ気持ちでゲーセンを出ようとした、まさにそのとき……私はアレを見つけてしまったのである。

「ああ、『ストリートファイター3』やないの。懐かしい」

 子どもの頃に遊んでいたタイトルである。久々に遊んでみるかとコインを投入し、当時、雰囲気だけで好きになったダンディでジェントルな「ダッドリー」というボクシングキャラを選択、始めてみると……メキメキと昔の記憶が蘇ってきた。そして大切なことに気が付く。「そうだ! 俺はこのゲームのラスボスの、ふんどし一丁の、キカイダーみたいな人に勝っていない……!」たしかラストステージまで行ったのである。するといきなりキカイダーみたいな体が真ん中で赤と青に分かれている、ほぼ全裸の人にボロカスに負けて終わった。それで気持ちが折れて、間が悪いことに店も潰れて、ゲーセンに行かなくなったのだ。「そうだ、このゲームが俺の引退作だったんだ……」そんなふうに感傷に浸っていると、いきなりゲーセン内にいる他プレイヤーが乱入してきた。きっとガチャガチャやってるわりに、全然マトモにキャラを動かせていない俺を見るに見かねたのだろう。介錯と言わんばかりにボコボコにされてゲームオーバー。当たり前だ。こちとら通常技すらマトモに出せないのだから。しかし、ここで私は大切なことを思い出した。

 ……そうだ、そうだった。あのキカイダーみたいな人を倒したかったのだ。乱入されても負けないくらい、上手くなりたかったのだ。だけどカツアゲは怖いし、そもそもお小遣いも少なかったから、練習ができなかったのだ。しかし、いまは違う。俺はもう大人である。ソフトを買って、家で練習することだってできる。

 かくして私の中に火が灯った。『ストリートファイター3』を強くなりたい。乱入されても勝って、最後まで行って、あのふんどしキカイダーを倒す……! そのためには家で特訓をするしかない! 勇んで私は家に帰った。「仕事をしている場合じゃねぇ! ゲームを買って練習だ!」。その時どこか遠くで、いつからか私を縛っていた「生活のために、残念だけどゲームに割く時間はないのだ」という大前提が崩壊する音がした。(つづく

 次回、「ふんどしキカイダーの本名発覚×俺はパンチとキック以外を出せるのか?」。

©CAPCOM

ポケモンは「争う」ためではなく、人と「生きる」ためにあるんだ――27年越しに『Pokémon Sleep』で学んだこと

27年前に『ポケットモンスター』に寝食を忘れて熱中し、ポケモン大会で実践的な戦略を駆使した経験を持つ筆者が、『Pokémon S…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる