ポケモンは「争う」ためではなく、人と「生きる」ためにあるんだ――27年越しに『Pokémon Sleep』で学んだこと
わたくしは37歳、男である。あれは忘れもしない1996年のこと。私は『ポケットモンスター 緑』にハマりまくって1996年を過ごした。とにかくハマった。寝食を忘れて遊び、珍しく対戦もしまくった(基本ソロで遊ぶのが好きなのだが、ポケモンだけは違った)。ついには小学校5年生で、地元・北九州の子どもポケモン大会に参加して、勝つために手段を選ばない戦略で決勝まで行った。当時の私にとってポケモンは、集め、鍛え、戦わせるための道具であった。初手で手持ちのマルマインを自爆させて相手のポケモンを倒したときは、会場で悲鳴やブーイングを受けたが、当時『こちら葛飾区亀有公園前派出所』で覚えたばかりの言葉「勝てば官軍負ければ賊軍」を振りかざし、ひたすら勝利のみを求め続けた。しかし決勝で奇跡的な逆転負けを喫し、大歓声の中で私は敗れ去った(ちなみに決勝の相手は、私の弟を準決勝で破っていた。悲しむ弟を私は「弱い」と切り捨てた。ごめんね)。
あの夏の日から、27年……。私は世の中に対して斜に構える少年から、世の中で転がり続ける中年になりました。働くのがつらい。しかし働かないと生活できない。そして生活のために働いていると、マトモにゲームを遊ぶ時間がありません。もっと頑張って時間を捻出すれば、ゲームも遊べるのでしょうが……。いかんせんメンタルを折ってリハビリ中でもあるので、睡眠時間は削りたくありません。寝る間も惜しんでゲームをしていたのは遠い昔……と悩んでいたら、なんと寝ながら遊べるゲームが現れました。その名も『Pokémon Sleep』、奇しくも27年前、寝る間も惜しんで遊んだゲームの派生タイトルであります。
カワイイポケモンたちと一緒に寝て、一緒に起きる。それだけでいい。
『Pokémon Sleep』はスマホで遊べるアプリであります。「カビゴン」という、のんびりした、よく食べよく眠るポケモンを育てるのが主な目的です。で、カビゴンのために朝・昼・晩に出すメシのために、おなじみのポケモンたちで組んだ「おてつだいチーム」に食材とデザートの果物を集めさせるわけですな。そしてメシを食うほどにカビゴンはでっかくなり、でっかくなったカビゴンが寝て起きると、カビゴンの睡眠パワーに引き寄せられて、まだ見ぬポケモンがカビゴンの周りで眠っていると。そんでもって、そのポケモンを捕まえて、新たな「おてつだいチーム」に加える……という、カビゴン育てゲーであります。ただし、カビゴンを育てる「おてつだいチーム」の体力は、『Pokémon Sleep』の名のとおり、プレイヤーが寝ないと回復しません。スマホの集音機能でプレイヤーの睡眠状態を観察するわけです。睡眠の質もチェックしてくれるので、ゲームであると同時に、睡眠管理アプリとしての側面もあるわけですな。
で、「これなら寝ながらできるやないの」と私はリリースからプレイしているわけですが……これがおもしろい。ちゃんと『ポケモン』なんです。子どものころに熱中した『ポケモン』の要素がちゃんとある。『ポケモン』の中心となる要素と言えば、やはりコレクション欲を満たす部分だと思うんですが、このアプリにはそれがちゃんとあるのです。朝に起きて、カビゴンの周りで初めて見るポケモンが寝ているとテンションが上がります。で、捕まえられないと「ドちくしょう! 次は必ず捕まるけ、覚悟しとけちゃ!」と、悔しく、気合いが入るわけです。「ああ、この感じは懐かしいなぁ」と、あの日、『ポケモン』を151匹集めようと頑張った子ども心を思い出しました。「そうそう、ケンタロスを捕まえたくてサファリゾーンを彷徨い続けたなぁ……」。そんな童心に帰れる部分がありつつ、子どものころと決定的に違う楽しみ方もできます。それは……ものすごく当たり前のことを言いますが、ポケモンがカワイイんですね。
このゲームには「ポケモンたちの寝顔を集める」というコレクション要素があります。で、スヤスヤ眠るポケモンたちが、ことごとくカワイイ。いつも怒っているオコリザルというポケモンがいて、寝ているときも頭に血管が浮き、踏ん張って、怒っているのですが……それでもカワイイ。丸まって寝ているニャースもカワイイし、『範馬刃牙』の塩漬け古代人ピクルばりに堂々と寝ているピチューもカワイイ。とにかくポケモンがカワイイ。で、このポケモンがカワイイという点が、なかなかの曲者。ゲームを攻略するという意味では「おてつだいチーム」を強化していく方が絶対にイイのです。少年時代の私なら、確実に効率第一のチームを組んで、鍛えて、即進化させる。そういうアプローチをとっていたはずです。しかし……それができないのです。だってカワイイのですから。好きなポケモンたちを、ただグッスリと寝かせてあげたい。好きなポケモンと寝起きを共にしたい。リリースしてから遊び続けて約半年、すっかりポケモンを愛でるモードで遊んでいます。私は日中に仕事を頑張って、ポケモンたちが寝不足でつらくならないように、きちんと睡眠時間を確保する。そして決まった時間に一緒に寝て、一緒に起きる。ただそれだけで、十分楽しいのです。
これは映画の『名探偵ピカチュウ』(2019年)を見たときも思ったのですが、やはりポケモンはカワイイのです。そして『Pokémon Sleep』で一緒に生活するようになって、ポケモンはただカワイイだけじゃなくて、「友」だと思うようになりました。だから少年のころの自分に言いたい。「ポケモンは友だちなんだよ。戦いに勝つための道具扱いしてはいけないよ。起きたくないようなつらい朝に、起きる喜びをくれるんだよ」と。でも、実際に言ったところで言うことは聞かないでしょう。いつの時代も、子どもは大人に従わないもの。そして健康と平和の重要性を理解できるのは、大人になってから、もっと言えば大人の特権なのですから。ある意味で『Pokémon Sleep』は、大人にこそ遊んでほしいゲームだと思います。皆々様、規則正しい生活を送り、ちゃんと寝ましょう。
ところで話は全然変わりますが、ポケモンとエンカウントするのが起き抜けの瞬間なのが上手いと思いました。「捕まえる」or「見逃す」の判断を、少し寝ぼけているタイミングで行うので、反射的に高性能のアイテムに課金してしまうこともしばしば。この辺、ゲームの設計として、したたかだなぁと思いました。