RAW現像をいったんやめ、『Nikon FM2』で基本に帰ってスナップを撮る
15年ぶりにフィルムの一眼レフを買った。機種は高校生の頃に憧れた『Nikon FM2』だ。フィルムカメラの懐かしい機構について解説しながら、いま改めてフィルムで写真を撮ることについて考える。
一昨年、仲の良い友人がフィルムカメラで写真を撮りだした。『OLYMPUS Pen F』(フィルムのやつだ)にマウントアダプターをつけたり、リバーサルフィルムを試してみたりと、いろいろ楽しんでいるようだった。昨年、それに触発されてまたひとり、友人が一眼レフを買い、フォトウォークに行こうという話になった。手元にあったソ連製のコンパクトカメラを持って同行したが、その帰り、いてもたってもいられなくなってしまいオークションサイトを開いた結果、昨年末に『FM2』が届いた。
『FM2』はニコンが1982年から2001年まで製造していた一眼レフカメラだ。現在も根強い人気があり、近年ニコンが販売しているクラシックスタイルのミラーレス一眼『Nikon Z f』『Nikon Z fC』は『FM2』をモチーフにデザインされている。
https://www.jp.nikon.com/company/news/2023/0920_zf_01.html
https://www.jp.nikon.com/company/news/2023/0207_zfc_03.html
『FM2』の特徴をいくつか見ていこう。詳細なスペックの解説は避けるが、まずこのカメラはいわゆる「機械式フルマニュアル」の一眼レフである。機械式、というのはカメラの動作機構に電力を必要としないことを示しており、簡単に言えば電池が入っていなくても写真が撮れるということである。そもそも、カメラというのは電池がなくても写真が撮れる機械なのだ。FM2にはボタン電池を入れる場所があるが、このボタン電池は露出計(被写体の明るさを測定する計器)を作動させるためのもので、たとえこの電池が切れても露出計が動かなくなるだけで、シャッターを押してフィルムを感光させる機能には何の影響もない。
「フルマニュアル」というのは「絞り優先」「シャッタースピード優先」「オート」「夜景」といった「撮影に関する数値の変更を自動化してくれる機構」が存在しないということ。カメラで写真を撮る際にはシャッタースピード・絞り(F値)という2つの数値(デジタルカメラの場合、ここにISO感度設定が加わる)をコントロールし、「適当な明るさ」を設定してシャッターを切るわけだが、この作業を補助してくれる「おまかせオート」的な機能がまるでないということだ。露出計を見て写りを予想しながら絞りとシャッタースピードを変え、シャッターをチャージして、シャッターを切る。それ以外にできることは特にない。ピントももちろんマニュアルで、オートフォーカスは効かない。
平成一桁生まれの30代である私が初めて一眼レフを買ったのは高校生の頃だ。当時フィルムカメラはすでに黄昏にあったが、基礎から勉強したいと思いフルマニュアルの一眼レフを買おうと決めた。『FM2』が欲しかったものの、価格に尻込みしてNikon安めの機種である『FM10』を買ったのだった(たしか、フィルムカメラということで投げ売りに近い値段で売られていた)。
フルマニュアルの一眼レフというのは、基本的にはどんなカメラでも同じフィルム・同じレンズを使って同じ条件で撮影したら同じ写真が撮れるものだ。だから『FM10』も写りは良かったし、撮影に不自由することはあまりなかった(ファインダーはかなり暗かったが、それぐらいだ)。FM10では友達のバンドを撮影したり、スナップを撮ったりしていた。モノクロもよく撮った。その後デジタル一眼レフを買い、ライターとして仕事を始めるときにはミラーレス一眼を買った。これは今でも使っている。
ところで、ライターという仕事には写真を撮るシーンが多い。展示会やリリースイベントなどに行くときは必ずカメラを持っていくし、製品レビューなどで「ブツ撮り」をすることもある。写真家やカメラマンではないが、人に見られる写真を撮るシーンの多い仕事だと思う。
そんなわけで仕事で撮影することはたびたびあるものの、いつしか趣味で写真を撮ることは減っていた。それがいま、思わぬ形でかつて憧れたカメラを手にすることになった。フィルムを買うのも久々だ(1本2000円してひっくり返った)。一緒に購入したレンズは『Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZF』。コシナが2006年に発売した、数少ない「ニコンFマウントで使えるツァイスレンズ」である。
コシナのWebサイトを見ると「標準レンズの頂点に立つと言っても過言ではないマスターピース」と記載されている。憧れのカメラに"マスターピース"を装着、いいわけできない最高の装備が整ってしまったので、あとはいい写真を撮るだけだ(それが一番難しい)。