AIで“写ルンです”っぽい写真を作る? 「ムラを模倣すること」の可能性を考える
プロンプトに入力した文章に基づく画像を生成できるAI「Stable Diffusion」。さまざまな画像の生成に用いられている同AIだが、SNSではフィルムカメラ風の質感の画像を生成できると賑わっている。
Stable Diffsionは画像を生成するAIで、特にフォトリアルな画像の生成能力が高い。発表当時からさまざまな活用が話題になってきた技術であるが、多くの画像が流布するにつれ、AIが作る画像特有の陰影や苦手な描写についても広く知られるようになった。
そんな最中にX(旧Twitter)で広まったのが、「Stable Diffusionで『写ルンです』風の画像を生成する」という試みだ。フィルムカメラで撮影した雰囲気が強く現れており、人の目でぱっと見た限りではAIによる生成画像だと断定することは難しい。センサーで撮影するデジタルの写真と比べると、フィルムの写真は光の諧調が一定ではなく、色の転びやグレイン(粒子によるざらつきやノイズ)を持っている。こうしたムラが画像に付与されることで、AIの生成画像特有のトーンがマスクされており、驚くほどに違和感が少ないのだ。
"写ルンです" 感、StableDiffusionで出せるかなと思っていろいろ試したら予想以上にそれっぽくなってしまい、もはや怖い...
これ初見でAI画像だと思わんだろ...#StableDiffusion #AIImage #写ルンです pic.twitter.com/V3zMuz9eeP
— まつさこ (@wappaboy) January 17, 2024
ところで写真の色、というのは撮影後にかなり自由に編集できるもので、特に昨今はシネマ風、フィルム風の色味を再現するルックなどが人気を集める。フィルムカメラはデジタルカメラに取って代わられ、一般の用途におけるフィルムの市場は2000年代後半には壊滅、多くのフィルムが廃盤となったが、いまだに「フィルム風」の人気は根強い。
ただ、フィルムに現れるムラというのはランダムなもので、単にデジタルの写真にフィルターやプリセットを適応してもフィルムのランダム性を獲得することは難しい。このランダム性に着目した技術としては富士フイルムの開発したセンサー「X-Trans CMOS」があり、これは通常規則的に並んでいるセンサのカラーフィルター配列に対してあえて周期性の低い配列を採用することでフィルム的なランダム性の実現と、モアレ・偽色の低減を図っている。
今日考えたいのは、このムラを再現するのにAIが有効なのではないか? ということだ。AIを写真の編集に活用すること自体はすでに多くのソフトで行われており、たとえばiPhoneのカメラには「コンピュテーショナルフォトグラフィー」という技術が盛り込まれている。iPhoneは撮影した画像に補正をかけて出力しており、ここでもAIは活用されているようで、ことiPhoneの撮影においてわれわれは撮影した瞬間からAIの恩恵に預かっているということだ。
実際にiPhoneで撮影した画像を見ていると、数秒で写真が編集されるのを目の当たりにできる。レンズの補正やフレアの消失が自動的に行われるので、これはデジタル写真における「現像」の工程の一部をiPhoneが行っていると言っていい。またAdobeの写真管理編集ソフト「Photoshop Lightroom」には空や被写体を検出する機能や、ポートレート写真を読み込むと唇の色や瞳の明るさなどを自動的に調整してくれる機能がある。AIによるノイズ除去機能も驚異的な性能を誇る。
また、両者に共通して「写真の撮影後にピントの位置や幅を変える機能」が搭載されている。これは写真の中の距離情報を測定し、その距離に応じたボケをAIによって与える機能で、こうした技術はいずれもAIを写真に活用するアプローチとして非常に有効なものだといえる。
これらのアプローチを踏まえた上でフィルムカメラの「ムラ」をAIで再現することの有効性を考えると、特に前述の「光の量や明るさに応じた色の階調のムラ」「色の転び」「ISO感度に応じた粒子感・ノイズの再現」などにおける活用が浮かぶ。
また、「特定のフィルムの色味を再現する」ということも可能だろう。すでに絶版となった数々のフィルムがあるなかで、AIによってこれらのフィルムの色調を再現できるとなれば期待が高まる。
こうした再現はすでに編集ソフトによってトーンカーブを制御したり、ノイズをあとから付与したりといった方法で試みられていることではあるが、AIによってフィルムのランダムな振る舞い自体を再現できるのであれば魅力的だ。加えて考えられるのはフィルムカメラ特有の「事故」も再現できるということだ。たとえば「感光による光漏れ」「ゴミの映り込み」「フィルムの歪み」なども付与できるだろう。
すでに実現している「ボケ感の後処理」とこうしたフィルムシミュレーションを組み合わせると、撮影した写真に対してレンズやフィルムを後から指定して処理するような仕組みも実現できそうだ。
iPhoneで撮影した写真を「『ベルビア100+ Carl Zeiss Tessar T* 45mm F2.8』で撮影した風にして」なんてAIに伝えれば、次の瞬間には美しいボケで鮮やかな写真を簡単に生成できる……そんな時代が来るのかもしれない。
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