“記号化された暴力”には懸念も、高品質なアップグレード 『The Last of Us Part II Remastered』先行レビュー

あのキャラクターで戦いを何度でも楽しめる。ローグライクな新モード「NO RETURN」

 前述の通り、「未公開ステージ」についてはメイキング・コンテンツとしての側面が強いため、恐らく『Remastered』の追加コンテンツのなかで最もプレイヤーに新鮮な印象を与えるのは、メインコンテンツに加えて新たなモードとして登場する「NO RETURN」だろう。『The Last of Us Part II』の戦闘システムをベースにしたローグライク・サバイバルモードとして開発された本モードでは、コンティニュー不可という緊張感のなかで、プレイするごとに新たな表情を見せるさまざまな戦いに身を投じることになる。要するに、本作の戦闘を気軽に何度でも楽しみ、その気になれば高みを目指してやり込むこともできるというカジュアルさとリプレイ性に重きを置いたコンテンツだ。

 基本的なゲームの構造としては、一回のゲームプレイ(「ラン」と呼ばれる)のなかで、次のステージ(場所、チャレンジ内容、後述する「MOD」などが異なる)を複数のルートから選択し、いくつかのステージを経て、最後に待ち受けるボスステージを突破すればクリアというものだ。ステージの合間には拠点に戻る時間が与えられ、ランで獲得した報酬を元に武器の強化やアイテムの購入などをすることができる。ただし、もし途中で死亡してしまった場合は、その時点でランは終了。報酬や強化内容はすべてリセットされ、次のランに引き継がれることはない。ボスステージは最初の時点では「ゲームセンターのブローター」のみとなっているが、ランをクリアするごとにさまざまなボスが解除されていく。また、ランごとにスコアが集計されているため、より高いスコアを目指してやり込むことも可能だ。

 「NO RETURN」の最大の魅力は、なんといっても本編に登場するさまざまなキャラクターを使って、本作ならではの限られたリソースを駆使してシビアな戦いに挑む奥深い戦闘をカジュアルに楽しめるという点だろう(一回のランは20分~30分程度で終わるし、途中で中断することもできる)。本モードの開始時点では主人公であるエリーとアビーしか選択することができないが、ランを重ねていくごとにほかのキャラクターが徐々にアンロックされていき、最終的にはディーナ、ジェシー、トミー、ジョエル、レブ、ヤーラ、メル、マニーを加えた計10名が使用可能になる。それも、ただキャラクターが異なるだけではなく、それぞれの個性に応じた独自のプレイスタイルが用意されている(個人的には本編で特に印象的だったレブを使えるのがうれしかった)。さらに、キャラクターごとに個別のスキン(本編内の各場面に応じたものから、プライド・フラッグをモチーフにしたもの、『DEATH STRANDING』や『Hotline Miami』とコラボしたものまである)も用意されており、ゲーム内ポイントで購入したり、特定のチャレンジをクリアすることによって、さまざまな服装に着せ替えて楽しむこともできる。

 こうしたローグライク系モードでは飽きずに繰り返し楽しむことができる工夫が重要となるが、「NO RETURN」ではドロップする武器のランダム性に加えて、「MOD」と「ギャンビット」でさらにゲームプレイに変化をもたらしている。MODは各ステージにランダムに適用される特殊効果のようなもので、「近接攻撃でキルすると体力が回復する」といったプレイヤーに有利なものから、「ステージを濃霧が覆う」といった不利なもの、果ては「敵が透明化する」といった高難易度のものまで幅広く用意されている(もちろん、ただマイナスに働くだけではなく、適用されるMODに応じて獲得できる報酬が変わる)。一方のギャンビットはステージごとに用意された小規模なチャレンジのようなもので、「一度もダメージを受けずにウェーブを一掃する」、「ヘッドショットキルを3回決める」といった条件をステージ内でクリアすると、追加の報酬が得られるようになっている。これらの要素は各ステージごとにランダムに適用され、ルート選択時にそれぞれの内容を見比べて検討することができる。そのため、何度プレイしてもまったく異なるランが生成され、飽きることなく新たな戦いに挑めるというわけだ。

 前述の通り、「NO RETURN」は「本作の戦闘を気軽に何度でも楽しみ、その気になれば高みを目指してやり込むこともできるというカジュアルさとリプレイ性に重きを置いたコンテンツ」であり、実際に何度もランをプレイした感想としては、その目的は概ね達成できているように感じられる。ステルスやカバーアクション、さまざまな道具を組み合わせながら、時には戦略的に、時には大胆にシビアな戦いに挑む『The Last of Us』の戦闘システムは、現存するシューター作品の中でも特にユニークかつ奥深いものであり、それをこうして気軽に何度も楽しめるのはありがたい。たった一発の弾丸しかない状態で複数のクリッカーを相手にする絶望感と、それを突破したときの達成感は、代えようのない体験である。

 とはいえ、気になる部分も少なくはない。本モードをローグライクとして捉えたときに、個人的に最も残念に感じた点としては永続強化要素が存在しないことだ。ローグライクというジャンルでは高難易度な作品自体は珍しくないものの、『Hades』や『Dead Cells』など、永続強化要素(体力の最大値を上昇するなど)を用意することでプレイを重ねるごとに難易度が徐々に緩和され、最終的にはちょうど良いバランスになっていくことが多いのに対して、「NO RETURN」は完全にプレイヤー自身のスキルに依存している。難易度選択が用意されているとはいえ(難しいほどスコアが高くなる)、本編において何度もクリッカーに食いちぎられながら必死の思いでゲームをクリアした筆者の場合、難易度をVERY EASYにしてもボスを前にゲームオーバーになってしまうことが少なくなかった。もちろんこれは自分のスキルが低いせいなのだが、後述する要因も相まって、「もっと上手くなろう」というモチベーションが湧きづらかったのも正直なところである。

 もう一つの大きなマイナス点は、本モードにおいて本編のストーリーを補完する要素が(筆者が確認した限りでは)一切存在しないということだ。ここでの出来事は物語上の時系列から完全に切り離されており、プレイを通してそれぞれのキャラクターの物語が深掘りされることもない。だからこそ完全に戦闘のみに集中できるし、物語を知るためにわざわざプレイする必要がないという割り切った姿勢についても理解はできるのだが、本作の物語や世界観に最も大きな魅力を感じている身としては、なにか少しでもそうした要素があれば、もっとモチベーションを持って臨めたのにと思ってしまう。

 もちろん、「NO RETURN」自体の品質自体は間違いなく高く、追加コンテンツの目玉として扱うには十分な内容だ。だが、『The Last of Us』という言葉が与える期待度の高さや、同じSIE作品で昨年12月に『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の無料アップデートとして配信されたばかりの『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク:ヴァルハラ』がローグライクとしても、ストーリーテリングの面においても驚異的な完成度を誇っていたことを踏まえると、本モードがそうしたハードルを超えているとはどうしても言い難いのが個人的な感想である。

 だが、実は個人的にそれ以上に引っかかりを感じているのが、この「NO RETURN」というモードの存在そのものである。これはあくまで筆者自身の解釈ではあるのだが、『The Last of Us Part II』はビデオゲームにおける記号化された暴力(NPCを実体のない存在として殺すこと)に対するアンチテーゼのような作品であると考えている。それは、敵を倒すと近くにいた仲間がその名前を叫ぶといった演出であったり、アビーというキャラクターの物語を丁寧に描いた作品自体の構造であったり、(「未公開ステージ」でも表現されていた)暴力の連鎖の果てを示す物語の展開など、さまざまな要素から感じ取ることができるものだ。だからこそ、『Part II』におけるキルの手触りは重く、シューターの爽快感と同時にじっとりとした、恐らく正当化されるべきではない後ろめたさを感じさせるものになっている。一方で、「NO RETURN」は言わば「戦闘を楽しむ」ことに特化したモードであり、まさに記号化された暴力に満ちている。考えすぎと言われればそれまでなのだが、何度もランをプレイするなかで、ゲームとしての面白さは確かに感じつつも、「果たしてこれで良いのだろうか」という懸念が払拭されることは、残念ながらなかった。

最後に

 振り返ってみるとネガティブな印象が目立っているように感じられるかもしれないが、『The Last of Us Part II Remastered』は間違いなく高品質の作品であり、全体的に順当なアップグレードが施された仕上がりとなっている。「未公開ステージ」を筆頭にメイキング関連のコンテンツが特に充実していることから、本編がどのような考えや想いの元に開発されたのかを知りたいという人にとっては、その需要をしっかりと満たしてくれることだろう。一方で、2024年時点でもPS4版の品質はやはり圧倒的であり、本編を拡充する要素がないことを踏まえると、まだ本作に触れていないという方は必ずしもこのエディションを最初から購入する必要は無いかもしれない(現時点ではPS4版の方が安価で購入できる)。

 いまのところは『Part II』以降のNaughty Dogの動きについては「複数のシングルプレイ作品を開発している」以上の情報がない状態が続いており、直近の作品として期待されていたマルチプレイ版『The Last of Us』についても開発中止が発表されたばかりだ。いまはとりあえず、来年放送予定のドラマ版シーズン2に向けての予習・復習として、あるいは発売から数年が経ったいま、あらためて本作を振り返るきっかけの一つとして『The Last of Us Part II Remastered』に触れてみるのが良いのかもしれない。

 また、本作のリリースに際して、前作と同様に『The Last of Us Part II』の開発ドキュメンタリー作品「Grounded II: Making The Last of Us Part II」の公開が予定されている。トレーラーでは、発売当時の大きな話題となった過酷な開発状況やリーク、そして凄まじいバックラッシュについても触れられており、このドキュメンタリーによってついに当時の内部の状況が明らかになることが予想される。あの壮絶な日々については、本編の衝撃と同じくらいにいまでも鮮明に覚えているが、その両方に対して再び向き合うときが来たのだ。もしかしたら、それこそが『The Last of Us Part II Remastered』という作品がリリースされることの、最も大きな意義なのかもしれない。

© Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog, LLC.

ドラマ版『The Last of Us』が描く、もう一つの「私たちのさいご」

※:本稿では極力核心的な説明は避けているものの、ゲーム版及びドラマ版『The Last of Us』のネタバレとなりうる説明…

関連記事