ドラマ版『The Last of Us』が描く、もう一つの「私たちのさいご」
※:本稿では極力核心的な説明は避けているものの、ゲーム版及びドラマ版『The Last of Us』のネタバレとなりうる説明が含まれます
現在、U-NEXTで配信中のドラマ版『The Last of Us』がとても面白い。
『The Last of Us』は元々2013年にPlaystation 3向けに発売されたゲームで、全世界で200以上の部門で賞に選ばれた名作だ。ドラマ版『The Last of Us』はそれを原作として映像化した作品だが、海外の映画評論サイト「Rotten Tomatoes」ではAVERAGE TOMATOMETERが96%、AVERAGE AUDIENCE SCOREが93%と、原作ゲームのファン以外からも多大な評価を受け、早くもシーズン2の制作が確定するなど、既に2023年のドラマのなかでも破格の注目を集めているのだ。
〈出典:https://www.rottentomatoes.com/tv/the_last_of_us〉
The journey continues. #TheLastOfUs will return for another season on @HBOMax. pic.twitter.com/FQNG6vhk1d
— The Last of Us (@TheLastofUsHBO) January 27, 2023
いったいなぜ、ドラマ版『The Last of Us』はここまで評価されているのか?ゲームとドラマ、全く異なる媒体をどのようにアレンジしたのか? 原作ゲームを発売日からプレイし、さらにドラマや映画も愛好する筆者が、原作からの変化を軸に、この作品が「現在の何を論じようと試みているのか」について考えたい。
そもそも原作ゲーム版『The Last of Us』は何が評価されていたのか
『The Last of Us』の設定や世界観は、ドラマ版も原作も大きく変わらない。なのでまず、原作ゲームの世界観から説明しよう。
舞台は2013年のアメリカ。主人公であるジョエルは娘のサラと二人暮らしをしながら、平穏な生活を送っていた。しかし、突如として人間に寄生し、凶暴化させる菌が拡散、アメリカ社会はパニックに陥り、そのさなかにサラは死亡、ジョエルは悲しみに暮れる。そして娘の死から20年後、崩壊したアメリカで生きるジョエルは、仕事仲間のテスと共に、ある仕事を引き受ける。それは菌への抗体を持つのではないかと思われる少女、エリーの護衛だった。ジョエルはエリーと共に、5000㎞以上に及ぶアメリカ横断の旅に出る。
このように、本作がベースとする世界観は「ゾンビ・アポカリプス」であり、それ自体、ゲームにおいても『バイオハザード』シリーズなどで頻繁に描かれた、平凡なテーマである。それにも関わらず、なぜ本作は全世界でここまで評価されたのか。それは「ゾンビもの」という平凡極まるテーマを、この上なく真剣に、丁寧に向き合いながら、ゲームならではの表現方法で活かしたからだ。
例えば、本作の冒頭部分だけでも、その非凡さは垣間見える。冒頭、プレイヤーはサラを操作し、自分の寝室から父親のもとへ向かうだけのシーンから物語が始まるのだが、ここの演出がすばらしい。洗面所に立ち寄ると、原因不明の感染症が拡がったことを訴える新聞が置いてあるし、外からは家の外を走る何台ものパトカーの音が聞こえ、さらに窓から見える謎の爆発が不安を煽る。このようなゲームにしか表現できない間接的な物語(環境ストーリーテリングとも呼ぶ)により、プレイヤーは操作をしながら物語を「読解」できるのである。
また本作には「戦闘」シーンも用意されているが、ここでは登場する「敵のAIに注目したい。本作で戦う相手は主に理性のない「感染者」と理性のある「人間」だ。その中でも「感染者」のAIは非常に機械的で、行動は画一的であり、かつ視覚・聴覚が劣っている者も多く、回避しやすい。一方「人間」のAIは現代でも驚くほど賢く、お互い連携しながら死角をカバーし合ったり、また仲間が倒れたときには心配しながら駆け寄るなど、実に「人間らしさ」が強調されている。これにより、「感染者」と「人間」がしっかり対比されている上に、限りある資源を巡って人間同士が殺しあう物語上の悲劇がうまく強調されている。
同時にカットシーンについても言及したい。本作はゲームプレイの間に挿入されるカットシーンも極めて洗練されており、演技、演出、脚本、どれをとっても申し分ない。例えば、物語の序盤でジョエルは隣人が感染したのを見て射殺する。それを見て動揺するサラに対し、ジョエルが自身もまた混乱が抑えきれないなか、それでも娘を落ち着かせたいと目線で訴える。このシーンは、人の親であれば多くが「自分もこうした態度を取るだろう」と納得する鬼気迫る演技で、とても全てがゲームのCGとは思えないクオリティなのである。
このように2013年の『The Last of Us』は、表面的には平凡な「ゾンビ・アポカリプス」をテーマとしながらも、物語を間接的に伝えるゲームならではの語り口、そしてAIを活用して感染者と人間を対比させた戦闘シーン、さらにカットシーンにおいても全編CGとは思えないような演技と演出により、文字通り「映画のようなゲーム(Cinematic Games)」として世界的な評価を確立した。