『RTA in Japan』はなぜビッグイベントに成長したのか 根底にある“ゲーム愛”と不変の理念
ゲーム本来、制限のない“身近な娯楽”
――イベントとして大きくなるなかで、運営の立場での苦労はどんなところにありますか?
中村:やはり人の流入ですね。小規模ならともかく、大きな会場でのイベント運営のノウハウが僕たちにそこまであるわけではありません。いろいろ考えてはいるんですが、実際にやってみると全然別物になりますから、臨機応変に対応しなきゃいけないことも出てきます。24時間やり続けるイベントで夜に起き続けるのも大変なことですからね。
あとはもちろん、いまだと6日間の開催ですし、ぶっ続けでやっているとトラブルは絶対にあるんです。初回でも映像が出ないトラブルがあったし、直近でも配信のデータが来ないということが起きたりして、待機時間が長くなってしまったり……。基本的にトラブルを想定して準備はするんですが、実際に起こったトラブルにいかに対処するかをひたすら考えるのは大変です。
それに、機材も増えるんですよ。ゲーム機もいろいろなものがありますし、Nintendo SwitchとPlayStationとXboxの最新機種だけだったらいいんですが、そんなわけもなく。1回1回接続を切り替えて、昔ながらのRCAケーブル(※2)を接続したり、PlayStation 2ならD端子を使うのに接続できなかったり。レトロハードが残っていても、運用するノウハウの有無はどうしても偏りますからね。
※2 映像信号・音声信号を伝送するためのケーブル。過去にゲームハードの接続方法として主流だった。
――単純に拡大するだけでなく、バリエーションが増えることの難しさもあるんですね。
中村:逆に良い意味での変化で言えば、いろいろなところで「RTA」というワードが使われるようになってきましたよね。なんにでも「RTA」って付けるみたいな。使い方の方向性としてちょっとズレていても、悪い意味で使っている人はあまりいませんし、いまのところはありがたいと感じています。あとは単純に人が増えたことによって、さらに興味関心を持つ人が増えています。思い入れのあるゲームが「RTA in Japan」の種目に選ばれて「そんなに早くできるのか。すごい!」と興味を持ってくださる人も多いですね。
たとえば、いまなら大谷翔平選手は誰もやってこなかった二刀流に挑戦して、あれだけ成功したからこそ世間的にも話題になる。僕らも最初はそこまで認知される存在ではなかったし、イベントを重ねることで視聴者がだんだん増えてきましたから。それはやっぱりうれしいですよね。
――中村さんが携わってきたなかで、印象に残っているタイトルやRTAはありますか?
中村:みなさんそれぞれ個性が強いですから、「これ」というのは難しいですね……。ただ、ひとつ伝えたいのは、どのタイトルのどの走者の方も、それだけ好きだから走っているということです。そこまでやり込んでいる人を揶揄したりはしてほしくありません。個人の自由ですから否定するのはおかしいですし、すごかったら「すごいね」となってほしいんです。
どうしても、日本だと否定しがちな方向に行ってしまう印象があって。ネット文化のある意味面白いところで、匿名性があるから、みんないろいろ書きますよね。僕らも『RTA in Japan』を始めたころには「こんなニッチなこと」と言われることもありましたが、気にしても仕方ないですから。僕たちに関して言えば、いかに信念を持ってチャリティーとして続けられるか。いまは基本的にポジティブな形で広まってくれることが多いですし、こうやってプラスの方向に広がってくれるのが理想的だと思っています。
――『RTA in Japan』の魅力のひとつは、まさに走者の方もポジティブにゲームを楽しむ雰囲気にあると感じます。
中村:実際にすごく楽しんでいますよね。そしてどうしても時間の関係上、種目に選べないタイトルや走者の方もいるんですが、だからといって辞めずに続けてほしいと思います。好きでやっているんだから、続けてほしい。そのゲームを好きだからこそ、RTAも続くわけですしね。
――ここから『RTA in Japan』として取り組んでいきたいことやビジョンはどんなものになりますか?
中村:いまのところ、まだ6日間の開催になっていますから、できれば1週間、海外と同じクラスにしたいとは思っています。そうなるとどうしても人的リソースがいりますし、少しでも興味を持ってもらって、手伝ってくれる人たちが増えるといいなとは思いますね。
今回もボランティアが100人以上いるので、僕らのイベントをきっかけにして、自分たちでもイベントを開催してみてほしいです。どういうふうに運営しているかも隠していませんし、ボランティアとして入ってもらえれば「あ、これでいいんだ」と思うかもしれないし、「こんなにやってるの。すごい」と思うかもしれない。それぞれ感じ方はあると思うんですが、イベント運営をするのであれば勉強になると思いますし、もし興味があるならぜひトライしてほしいなと思います。
そのほかに直近で考えているのは、寄付コメントの読み上げです。僕たちは余裕がなくてできていないんですが、GDQなどを見ているとよくメッセージを残しているんですよね。よりコミュニティーイベントとしてしっかり成立させるために、そういったものを拾っていかなきゃいけないと思っています。
――では『RTA in Japan Winter 2023』の注目ポイントを教えてください。
中村:知らない人が見てもわかりやすいのは『テトリス』だと思います。エフェクトもあるなかで早く積まないといけないし、テトリス(4段消し)を狙わなきゃいけない。ほかだと『サガ フロンティア』。開発2部という全員クリアした後の隠し要素を出すまでのタイムを競うRTAをやるんですが、普段はほぼ見ない要素を見ることになります。あとは一時、流行語を生み出した『エルシャダイ』もありますね。『メタルホーク』とか『ワルキューレの伝説』は、アーケードで別の場所から配信してもらいます。
個人的には『スターフォックス』のスコアアタックがめちゃくちゃヤバいと思っています。リトライなしで2600以上を目指すというのですが、この数字は簡単に出せる数字ではないので、プレイスキルが高いと考えています。
実際に僕らからすると、あれだけの応募から選んだ時点でどれもすごいですし、正直「どれがすごい」とは言えないんですよ。イベントは朝昼夜とずっとやっていますし、まずは好きなゲームを見ていただいて、そのうえでほかのゲームを片手間でも見ていただけたらいいですね。そのなかで「面白そう」と思ったゲームを買って、ぜひやってみてください。そうするとだいたい、みんな「むずい!」ってなりますから(笑)。
――最後に、まだ『RTA in Japan』を見たことがない読者の方へのメッセージをお願いします。
中村:1番入りやすいのは、先ほどと同じになってしまうんですが、自分の知っているゲームを見てみるということですね。それで「自分のやってるゲームと違う!」と知ってもらいたいと思います。まだ知らない人からすれば「こんなすごいことやってんの!?」となりますからね。
もし今回のラインナップに好きなゲームがなかったら、過去の『RTA in Japan』のアーカイブを見てもらえればと思います。現代だとゲームをやらずに育った人って相当レアだと思うんです。スマホでもゲームができますし、みんながなにかしらゲームをやっていますから。まずは自分の知っている、やったことのあるタイトルでRTAの世界を知ってもらって、認知してもらいたいですね。
RTAの世界では、やり方を非公開にしている人がほぼいないんですよ。「企業秘密」とか「ここは見せられません」みたいなことがあまりなくて、むしろ「みんなで盛り上がろう」感が強いんです。すごいプレイをする走者のSNSを見たりすると、どこかしらで情報を公開していますから。先ほど話題に出た“ケツワープ”も、やり方自体はそんなに難しくなくて、説明動画もYouTubeにあります。情報はいくらでもあるので、興味を持ってもらって「そんなことできるんだ。じゃあ、自分もやってみよう」となるのが1番理想かなと思います。
自分の好きなゲームで「こんなことできたんだ。あ、自分もできるじゃん」という感覚になると、1番楽しめると思うんです。ゲームには本来「この人じゃないとできない」みたいな制限がないじゃないですか。身近な娯楽であるゲームの、新たな発見になってくれたら1番だと思っています。
『RTA in Japan Winter 2023』イベントページ
https://rtain.jp/rtaij/rta-in-japan-winter-2023/
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