にじさんじ・星川サラが持つ「アイドル力」 人を惹き付けてやまない“輝きの源泉”をたどる
人気の企画「写メコン」「恋愛研究所」で見せる、星川サラの“絶対的肯定力”
快活でテンションが高く人懐っこい、同時に子どもっぽくも見られがちだった星川は、先に記したように努力家な一面でファンを大きく増やすことになった。
そこに加えて、「写メコン」「恋愛研究所」といった企画を立ち上げると、これがじわじわと人気を博し、リスナーから根強い支持を受ける企画配信へと成長することになった。
「写メコン」企画は、各回テーマを設けた写真を専用ハッシュタグとともに投稿し、配信時に星川・他リスナーとともにチェックして盛り上がっていこうというもの。「恋愛研究所」は、男女関わらず恋愛にまつわるお悩み相談・愚痴を投稿し、アドバイスや共感を得ていこうという企画だ。
どちらの企画も、2020年春ごろに最初の配信をしてから回を重ねることで根強い人気を獲得するに至った企画であり、最初からガチガチに練られたものではなかったものの、継続は力なりという言葉を体現した点でも星川らしさを感じられる。
「リスナーの部屋を見る」「私服を見る」といった企画は、配信者がおこなう定番ネタでもあり、リスナー側も配信者にイジられること・ネタになることを期待してゴミにあふれた“汚部屋”やツッコミ待ちのような服装を投稿するといった光景は、よく見られるものだ。
そういった経緯もあり、星川の企画も「リスナーの服装や悩みを集めてバッサリとツッコミながら叩き切る」、なんとなくそういった光景を想像してしまいがちだ。もちろん、星川も時に相談内容を茶化しながら聞くことだってある。しかし、前向きかつポジティブに受け取れるような言葉遣いや、目を輝かせて驚いてみせるリアクションなどからは、「良いものは良い」とまっすぐに肯定しようという姿勢が感じられる。
こうした2つの企画でも注目を集め始めた彼女のもとには、一見するとオタク的なイメージとは一切無縁そうなオシャレ好きなファンも集まるようになっていった。星川自身の嗜好性にもとづいた企画に力をいれ、それにシンパシーを感じたファンが集まっていった結果なのはいうまでもない。
こうした企画が人気を博すというのは、VTuber〜バーチャルタレントといったインターネットカルチャーが幅広く受け入れられている一つの証左でもあるだろう。「星川サラ」は過ぎ行く時代・世相の変化ーーネガティブな意味合いでの「オタク」という言葉が過去のものであることを象徴するアイコニックなタレントへ、一歩ずつステップアップしているようにも感じられる。
そんな彼女の大きな魅力・コアとなっているのは、「絶対的肯定力」ではないかと思う。どのようなシチュエーションでも肯定的・前向きに捉えようとトライしていく姿・精神性に胸打たれたファンは多い。それも、向こう見ずなパワフルさで遮二無二に進めていくのではなく、状況を冷静に捉えた上で肯定していくような、地に足の着いたリアリティを言動の節々に感じさせるのだ。
そんな肯定力の強さは、自身を過小評価してしまう危うさをも含む。自分への期待と周囲への羨望は表裏一体、それゆえに「ちょっとしたことで落ち込みやすい」と語ることも多いのが星川。「自分なんかが」というのは自己卑下するときの鉄板のような言葉であるが、星川も同じような手つきで自己を過小評価する一面が配信で見られる。
「いかにして自己肯定感を保たせるか?」という自身のコントロール・自己を客観視する力は、彼女の雑談配信や恋愛相談などの企画でも見られるところ。「いろいろあって病んだから」という理由で急に2週間ほど配信活動を休み、海外へと旅行にいくこともある。そんな行動力の高さも、なんとも彼女らしい。
そんな星川サラは、このままの推移でいけば年内〜来年上半期にはYouTubeチャンネル登録者数を100万人を超えることになるだろう。それでも、6月10日のライブではファンから届いた楽屋花にすべて目を通したといい、12日に配信した感想配信ではファン一人ひとりに向けて感謝を述べていた。
そのなかで、「次の目標はなにかある?」というリスナーのコメントに対して、彼女は印象的な言葉を語っている。
「今回のライブで、意外と星川はアイドルっぽいのかもしれないなと思った。もっと大きいステージでみんなに会いたいなと思った。アイドルは好きだけど、星川なんかが“アイドル”を名乗るのは失礼かなと思ってた」
最後に、彼女の歌ってみた動画をいくつか挙げてみようと思う。彼女の歌ってみた動画で印象的なのは2つ。音莉飴による「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」とYOASOBIによる「アイドル」だ。
2022年1月に投稿された「陽キャJKに憧れる陰キャJKの歌」では、冒頭で「キャラメル マシュマロ いちご飴 これ全部可愛い女の子の夢 でも私が好きなのゲーム(APEX) いつになったら女の子になれるの?」と歌われる。FPSにハマってしまった女性が恋に焦がれて奮闘するこの歌は、まさに星川のイメージにピッタリ。
そんな星川がYOASOBIによる「アイドル」を歌うというのも、イメージにかなり近しいように感じられる。どこか悪趣味でサウンドや皮肉と諦観が混じった歌詞は、ふだん星川がみせている勝ち気なムードと時折見せる冷静な一面を感じさせる。
自身とは無関係な音楽のなかに、「星川サラ」が浮かび上がってくるというマジック。こういった類の選曲ができるあたり、星川が自身をかなり冷静かつ俯瞰的に捉えているだけでなく、計算高いプロデュース力を備えたタレントであることが伝わってくる。
『Apex Legends』を通して見せてきた自身の配信スタイル、人と楽しくおしゃべりすることを「写メコン」「恋愛研究所」で企画化し、数々の歌ってみた動画では「星川らしさ」をよりブーストさせるような選曲センスをちらつかせる。アイドルには「どのように自分を見せるか?」という視点が重要になるが、これほど自然と自分自身をプロデュースできるにじさんじのメンバーも中々にいないだろう。
周囲を肯定する力の強さと表裏一体の自己肯定感の低さを感じさせつつ、ソロライブを経てまたひとつ自信を付けた星川サラ。その強い肯定力と自身のプロデュースできる術をもってすれば、きっと多くの人を惹きつける“アイドル”になれるはずだ。