ChatGPTがMBAの試験に合格 教育分野での可能性と限界について考える
2022年はMidjourneyをはじめとする画像生成AIが次々と登場して、それらが生成する高精細な画像に大きな注目が集まった。そして2022年末、今度は人間とチャットしているかのような自然な会話ができるAI「ChatGPT」がリリースされて、そのポテンシャルに並々ならぬ期待が寄せられている。この記事ではChatGPTの応用分野として期待されている教育分野への影響と、同AIの限界をまとめていく。
かつてない自然な会話を実現したChatGPT
2022年11月30日、画像生成AIブームのさきがけとなったAI「DALL-E 2」を開発したOpenAIは会話AI「ChatGPT」を発表すると同時に、同AIを試用できるウェブページも公開した。OpenAIのアカウント、もしくはGoogleまたはMicrosoftのアカウントでログインできる試用ページにアクセスすると、日本語で同AIに質問できる。たとえば「PlayStation 5とは何ですか」と質問すると、以下のような回答が表示される。
「PlayStation 5 (PS5) は、Sony Interactive Entertainmentが発売する、次世代のゲーム機です。高性能のグラフィックス、高速なロード時間、リアルタイムリアクションなど、より臨場感のあるゲーム体験を提供することを目的としています」
同様の質問をGoogle検索で行った場合、さまざまな検索結果が表示されるのに対して、ChatGPTの回答は簡潔で読み易い印象を受けるだろう。
ChatGPTは使い勝手の良さと、なにより無料で試用できることによって、瞬く間に多くのユーザを獲得した。調査会社Statistaは2023年1月24日、同AIが100万ユーザを獲得するまでに要した日数を既存のアプリやサービスと比較したグラフを公開した。そのグラフによれば、同AIが100万ユーザを獲得するまでに5日を要したのに対して、Instagramは2カ月半、現在イーロン・マスクの指揮で改革を進めているTwitterは2年、動画配信大手のNetflixにいたっては3年半を要したのだ。こうした比較を見ると、同AIに異例とも言える注目が集まったことがわかる。
〈出典:「ChatGPT Sprints to One Million Users」〉
教育分野へのインパクト
ChatGPTの活用事例に関しては、マーケティングにおけるブレインストーミング、小説の執筆支援などさまざまなものが報告されている。そうした活用事例でもっともインパクトが大きいのが、教育分野での使用である。同AIをレポートや論文に執筆に使えば、飛躍的な作業効率化が実現できるのは誰の目にも明らかであろう。こうしたなか、Google創業者を輩出しているスタンフォード大学のキャンパス内メディア『The Stanford Daily』は2023年1月22日、同校の学生を対象として同AIの使用状況調査を行った。その結果によると、調査を行った4,497人の学生のうち17%が2022年秋学期の試験に同AIを使っていた。
〈出典:「Scores of Stanford students used ChatGPT on final exams, survey suggests」〉
以上の調査で興味深いのは、「秋学期最後の課題や試験でChatGPTを利用する場合、どの程度利用するのか」という質問に対して、「ブレインストーミング、アウトラインやアイデア出し」と回答が59.2%にのぼったことだ。この回答から実際には同AIを使っていないものも、すでに利用方法をはっきりと想定している学生が多いことが読み取れる。ちなみに、「ChatGPTの生成したテキストを編集なしで課題レポートとして提出する」という回答は5.5%にとどまり、同AIからの「丸パクリ」はさすがに非倫理的と考えられている学生が大多数なこともわかった。
ChatGPTに各種試験を受験させた事例も報告されている。アメリカ大手メディアNBCは2023年1月24日、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのChristian Terwiesch教授が同AIにMBAの最終試験を受験させたことを報じた。その試験結果は、同AIがB-からB程度の評価を得て見事合格した。またアメリカ大手メディアABCは2023年1月12日、同AIがアメリカ医師免許試験を受験した場合、50%以上の正答率となり「合格圏内」に入るという研究結果を報じている。
〈出典:「ChatGPT passes MBA exam given by a Wharton professor」
「ChatGPT appears to pass medical school exams. Educators are now rethinking assessments」〉
人間が作った文章と区別がつかないほど自然で、そのうえ知識が豊富なChatGPTが教育・学術の現場で悪用されると、壊滅的な悪影響が生じることは容易に予想できる。同AIの悪用対策として、たとえばアメリカ・ニューヨーク市では同市立学校から同AIへのアクセスが2023年1月3日より禁止されたり、科学雑誌『Science』では同誌に投稿する論文の著者にAIを含めることを禁止するという声明を出したりしている。
〈出典:「NYC education department blocks ChatGPT on school devices, networks」
「ChatGPT is fun, but not an author」〉