丸谷マナブ × ArmySlickが語りあう、音楽作家としての“流儀” 「定期的に自分の耳に客観性を持たせるようにしている」

丸谷マナブ × ArmySlick対談

スタイルの異なる2人が語る、それぞれの制作手法

――ゾーンに入るためにとは別に、制作の上でのルーティーンや必ずやることはありますか?

ArmySlick:夜型ではないので昼に作業をしているんですが、昼食は絶対外で取るようにしています。ここで作っていて、ご飯を食べるのもここで、ずっとここから出ないというのは気分転換にならないし、嫌なんです。だから必ず外を歩いて、外で食べたい。それでまたここに戻ってきて制作モードに入る、というのは絶対にやりたいことですね。あと、作るときはずっと集中してそのときに作っている曲ばかりを聴くのではなく、少し作ってはリファレンスを聴いて、また作って違う音楽を聴いて……と、定期的に自分の耳に客観性を持たせるようにしています。

――それは耳をフラットにするみたいな感覚?

ArmySlick:そうです。ずっと作っていると主観で突っ走って、オーダー通りじゃないものになっちゃったりするから、作りながら30分に1回は発注のメールの文章をもう1回読んだりしています。

ArmySlick

――めちゃくちゃ微調整ですね。

ArmySlick:よく見たら元々発注にこう書いてあったから、この構成だと辻褄が合わないな、みたいなこともなくはないんですよ。発注ありきの仕事なので、そこはすごく気を付けてますね。

――丸谷さんはどうでしょう?

丸谷:自分も出歩くようにしたりはしますけどね。でもあんまり決めごとを作らないようにしているかもしれないです。すぐ飽きるから。あとメロディーはひらめきたいので、何も出なかったらわけもなくずっと歩いたり。昔だったら歌詞が出てこなくて、山手線を2周くらい乗って集中してみたり。メロディーは難しいですが、歌詞はちょっと雑音がある方がうまく書けたりするんですよね。

――お話を聞いていて、お2人はそれぞれ制作のスタンスが違っていて、それは担当している領域が違うことも影響しているのかなと思ったのですが。

丸谷:たしかに、僕はそういう領域があるようで無い、という制作スタイルになっていますね。AKB48の「ハート・エレキ」を書いたころはトップライナーが多かったのですが、リトグリの楽曲を作るようになってからはアレンジも多くなったり、最近は化学反応を起こすのが大事だからトップだけにしてみようと思ったり。トラックだけを用意するトラックメイカー的なことはやってないんですが、プロデューサー的な立ち位置になるのか、トップライナーになるのかは、案件や相手によって使い分けるようになったといえます。

ArmySlick:僕は逆で、トラックメイクやサウンドプロデュースをして、トップラインは人におまかせするパターンが多いですね。最初にJ-⁠POPの仕事をやりだしたときは1人で作っていたんですが、歌詞は元々書けないので仮歌詞とメロとトラックを作ることが多くて。でも、事務所の人と「コライトは海外でも流行ってるし、得意な人同士を組み合わせればいいじゃん」という発想になり、同じ事務所で得意な領域が違う作家と組むようになったら、そこからコンペに通ることが格段に増えたんです。

――そこで自分に向いているやり方を見つけたんですね。

ArmySlick:そうですね。僕からも丸谷さんに質問したいのですが、発注を受けて曲を作るときに、一番大事にしているポイントはなんですか?

丸谷:「誰が聴くか」を重視しているかもしれません。メインのファン層がどういうところで、その人たちに届けたいのか、それともまだ見ぬ次のファン層にアプローチしたいのかといったところです。あとは、それかタイアップかどうかも重要ですね。タイアップだったら誰が聴くというよりも、アーティスト像とタイアップ先のなにかーー化粧品なら化粧品の画と合う曲かどうか、という。

丸谷マナブ

ArmySlick:それ、面白いけど一番難しいですよね。

丸谷:一番難しいですし、それがなんなのかっていうところは具体的には分からないんですけど(笑)。いま話していて思ったのは、2012年にいきなりAKB48の表題曲「永遠プレッシャー」でコンペに通ったことがあるんですよ。そのときにすごくテレビで歌ってもらって。当時の自分はそんなヒット曲を作ったことがなかったし、ボロアパートの六畳一間で作った曲が『ミュージックステーション』や年末の音楽特番で、B’z~「永遠プレッシャー」~Mr.Childrenみたいな順番でオンエアされたんですよ。それをテレビで観ていて「こういうところでかかるものがポップスなんだ」と色んなものが繋がって。そこから曲を書くときに、誰がどういうときに聴くのかを想像して作るようになったんだと思います。音楽の最終地点って「音楽が鳴って響く場所」じゃないですか。そこをゴールだと思うことで、曲に説得力が生まれるのかなと。

ArmySlick:そういう話、もっと聞きたいですね。たしかに、言語化するのは難しいんですよね……こうすればいいじゃんという答えは毎回違うわけですし。

――それはダイナミクスの話でもあるでしょうし、音数の問題とかトラック数の問題とか、それぞれ因数分解していくと技術論の話にもなっていくのかもしれないですね。

丸谷:そう言われると、自分は因数分解が足りないのかもしれないですね。そういう音楽的な分析に時間がかかるし、ゾーンに何回も入らないとゴールにならないのかもしれないです。でも、さっきの案件の文を見直すみたいな話から派生するんですが、僕は途中までいったら外れててもいいやと思うタイプで。結局使われなくても、いつか日の目を見ればいいかなと。

ArmySlick:良い曲だったらそうなりますよね。

丸谷:自分がアウトプットしたものに対して「じゃあ、これも」という風に連想していくものだと思うので。連想して別の方向に行っちゃった場合、案件からかけ離れたとしても、曲として筋が通っていれば曲の面白さに従っちゃいますね。それがコンペのよさじゃないですか。

ArmySlick:そうですね。作曲なんて全部指名制にしちゃったら大御所にしか指名いかなくなっちゃうから、そもそも若い人が誰も参入できないゲームになっちゃう。コンペで落ちても使われた曲と照らし合わせて感想を持てるというのは貴重ですよね。

丸谷:やっぱりこういう話をするのは楽しいですね! 今回はありがとうございました!

丸谷マナブ 公式サイト:https://manabumarutani.wixsite.com/index
Armyslick 公式サイト:https://bavtronix.me/

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