連載『エンタメトップランナーの楽屋』
アニメ『チェンソーマン』異例となる「100%出資」の理由は? FIREBUG佐藤詳悟×MAPPA大塚学が語り合う“アニメビジネスの未来”
『チェンソーマン』には100%出資し、リスクを背負っている
佐藤:ディズニーなどを研究していると、昔からファイナンスに強いCFOがいて。アメリカの制作会社は、だいたい作り手側と経営側がうまく分かれているように感じています。作り手が一番強いんだけど、それを支えたり価値を高めたりする経営側のビジネスセンスもすごく長けているなと。
今日の大塚さんの話は、作り手側が「面白いものを作ろう」というだけで終わってしまっている、ある種の“日本っぽさ”が表れているような印象を受けました。それはアニメだけでなく、芸能や音楽など日本のエンタメ全体がそうなってしまっているような気もしていて。
大塚:日本とアメリカの制作会社で違うところは、スタートから大きくグローバルなビジネス展開を具体化できているところです。つまり、成功した時のリターンが桁違いなわけですよ。もちろん、大勝負にしっかり勝って成功を収めてきたからこそ、現在のピクサーやディズニーがあるわけですが。それを踏まえて日本を見ると、製作委員会方式だったりと最初からリスク回避をする傾向が強い。
他方、うちは今回の『チェンソーマン』は100%出資で臨んでいて。もちろん、リスクはあります。ただ、それってビジネスにおいては当たり前のことで、さらなる成長を目指すなら大きな勝負をし、リスクを背負うことが必要になってくるわけです。
佐藤:『チェンソーマン』は最初からグローバルを狙っているんですか。
大塚:考えてはいるんですけど、MAPPAのアメリカ法人はないので、自分たちの手では出来ていなくて、各国のビジネスパートナーと協力しています。その点で言えば間に合ってないですね。現地でローカライズできたりゲームを開発できる力があれば、一気に階段を駆け上がることができますが、その力はまだないので、いま自分たちができる範囲でのビジネスに限られてしまいますね。
佐藤:グローバルでローカライズするときに気をつける点ってあります?
大塚:表現などにも気をつけたりはしますが、内容というよりもどう売るか、グッズをどう流通させるかが、最も重要になるんです。『ポケモン』もアメリカでは「サトシ」ではなく「アッシュ・ケッチャム」と呼ばれていて。ゲーム会社は、アニメのスタジオと違い、海外で結果を出しているので見習うべき企業がいくつかあります。
ーー『チェンソーマン』はMAPPAが100%出資とお聞きしましたが、過去にもそういうケースはあったのでしょうか?
大塚:MAPPAの歴史を振り返ると、最初はただアニメを制作するだけの0%が出発点だったんです。ちょっと出資しないと、あまりにもヒットしているのにお金が入らないことに懸念を覚え、5%〜10%くらい出資し始めるようになって。最近だと、いいタイトルにはできるだけお金を張った方がいいという考えになっています。100%出資したのは今回の『チェンソーマン』が初めての試みなんですよ。
佐藤:そうなんですね! 先ほどヒットの方程式が存在しないと仰ってましたが、100%リスクを背負うことはある種、大博打だと思うんです。その点、どのような意思決定をしているんですか?
大塚:ビジネスを一緒にやっている取締役の木村と話しつつ、最終的には僕の方で最終判断しています。
佐藤:スキームの発明という意味では、100%出資は新しい起爆剤になりうるということですね。あとはその先に、グローバル展開も自社でできるようになると、例えば一発のヒットでこれまでは2年分蓄えられていたものが、その2〜3倍にもなって返ってくるようになっていく。ちなみに、アニメ制作会社と合わせて製作委員会を組成して出資までする会社ってMAPPAさん以外あるんですか?
大塚:どうなんでしょうね、あまり他社の座組は知らなくて。どちらかといえば、先ほどもお伝えした通り、意識しているのはゲーム会社が多いです。フランスのJapan Expoでも、ゲーム会社のお金のかけ方がすごくて。スケールの違いをひしひしと感じました。
コンテンツを生み出し、長年育てて、継続的にヒットを出すところに至らないと、ずっと同じことの繰り返しになってしまう。日本のアニメは“ガワのビジネス”に影響され過ぎてしまうので、そろそろ自分たちの力で切り開くということが重要かなと思っています。
佐藤:たしかにゲームって、人気が続いていきますよね。
大塚:今回の『チェンソーマン』はすごくいいチャンスだと思っていて。漫画の人気原作のようなオリジナルアニメを同じような展開で生み出せるようになって、初めてスタートラインに立てると考えています。