アニメ『チェンソーマン』異例となる「100%出資」の理由は? FIREBUG佐藤詳悟×MAPPA大塚学が語り合う“アニメビジネスの未来”

アニメ『チェンソーマン』100%出資の理由

 お笑い芸人や俳優、モデル、アーティスト、経営者、クリエーターなど「おもしろい人=タレント」の才能を拡張させる“タレントエンパワーメントパートナー“FIREBUGの代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟による連載『エンタメトップランナーの楽屋』。

 第三回は『呪術廻戦』『進撃の巨人』The Final Seasonといった大ヒットアニメを手がけるスタジオ「MAPPA」の社長・大塚学を迎える。

 今回は、2人の関係性やクリエイターに寄り添う姿勢とビジネスとのバランスの保ち方、両者の野望などについて語り合ってもらった。

ヒットの方程式はない。いかに時代感を反映させられるか

ーーまずは大塚さんと佐藤さんの関係性についてですが、最初の出会いのきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

佐藤:2カ月前くらいに初めてご飯に行ったのが最初でしたよね。

大塚:はい、なので今日がお会いするのが2回目になりますね。

佐藤:講談社のマンガ編集者の川窪慎太郎さんと、YOASOBIのプロデューサーの屋代陽平さんも交えて4人でご飯行きましたね。大塚さんとは同い年なんですよ。

ーー大塚さんは佐藤さんのことを以前から知っていたんですか?

大塚:川窪さんから紹介されるまでは知らなかったんです。芸能系の事業をやられているのに興味を持ちましたし、今まさに『チェンソーマン』で関わっている集英社の漫画編集者の林子平さんも1982年生まれと、同世代がすごい頑張っているなという刺激を受けました。

ーーありがとうございます。大塚さんに色々とお聞きしたいのですが、アニメ制作には、漫画や小説原作を借りてアニメ化するケースと、スタジオ内でゼロから作り上げるオリジナルアニメの2種類が存在すると思います。こうしたなか、新たなIPをゼロから生み出すことの難しさについてどのように考えているのでしょうか。

大塚:どちらがやりたいとか、大事にしているとかは特にあまりなくて。原作モノとオリジナルの一番の違いは「お客様がどういう状態であるのか」ということです。原作ものだったら、最初から原作のファンがいるので、既存のファンにしっかりと応えつつ、新規のファンも開拓していくことが求められます。オリジナルアニメに関しては、ゼロからお客様を作らなければならないので、どういうアプローチができるかを考えながら制作に取り組んでいますね。

ーー原作ものとオリジナルアニメで、何かアニメーションの作り方などに違いはありますか?

大塚:一番の違いはプリプロ(開発)にあります。原作を元にどう映像に落とし込むのかと、0からキャラクター、世界観、舞台、物語を生み出していく作業は、本質は同じですが内容は大きく違うと思います。また、絵的な部分でも元々原作絵があるのと、0からデザインしていくのとでは、必要とされる能力が変わってくることもあります。

ーーいまの世の中はどんなものがヒットするのか、なにをトリガーにして人気になるのかは予想しづらいですよね。

大塚:「簡単にヒットする方程式」はないわけで。原作の段階で人気のあるモノの映像化がいつまでヒットし続けるかわからないですし、高校生の青春映画を作ってもヒットするかは読めない。一番大事なのは、時代感を反映できているかどうか。それを確認するためには、いろんな角度からアプローチしなくてはいけなくて。

 「これはいまヒットしないよ」と簡単に言うプロデューサーもたくさんいますが、ではどうやったらヒットに繋がるかを考えることが重要で、作品制作を続けながらジャブを積み重ねていく。それが結果として、勝負を決めるパンチを出せるきっかけになる。偏った作品づくりではなく、いろんなアプローチでお客様を刺激して、その反応を知っていくことが、ヒットへの近道だと思いますね。

ーーいまの時代感だと『呪術廻戦』や『進撃の巨人』といったダークファンタジー作品が脚光を浴びています。

大塚:MAPPAの場合は、さまざまなジャンルのアニメーションを手がけていますが、海外のアニメ好きの方には、まさにダークファンタジーがストレートに刺さりますので、その点は意識しています。あとは女性ですね。劇場版 『呪術廻戦 0』の初日に行ったら、本当に女性の方が多くて驚きました。一方、うちにまだ少ないのは往年の男性アニメファンをメインターゲットにした作品です。そこを目掛けた作品がまだあまり作れていなく、そこを狙っていきたいと考えるプロデューサーが現れれば、そういった作品のアプローチもいいなと考えています。

佐藤:いまの時代って、最終的には何が当たるか想像もつかないわけじゃないですか。かつ、ヒットの方程式もない。それで言うと、20年前とかはテレビで放映しておけば、ある程度流行らすことができたとかあるんですかね。

大塚:京都アニメーションさんが人気作を連発していた、深夜テレビアニメが全盛期のころは、それこそいまの往年の男性アニメファンの方が、アニメの市場でパッケージを中心に買っていてくれて、存在感は大きかったと思います。

佐藤:ある程度、テレビの放映枠を取れたら、ビジネスもスケールしていたという感じですか?

大塚:そうですね。いまほどアニメは一般には浸透していなくて。テレビの放送枠でも完全に深夜に追いやれていたというか。OVA(オリジナルビデオアニメ)等のパッケージビジネスも成立していて、パッケージを買うファンと、レンタルショップでDVDやビデオを借りるアニメファンが業界を支えているような構造だったと思います。その反面、大きなグローバルなビジネス展開はほとんどなかったので、いまと比べると制作の単価はすごく安かったと感じています。

ーー先ほど触れた原作ものでいうと、近年はテレビと配信の2つのチャネルがあり、原作ファンはどちらを観て、新規のファンは配信が多いとかの違いはあるのでしょうか?

大塚:テレビと配信の視聴割合は半々くらいになってきていますね。どちらかというと、若い世代は配信がメインになってきているのではないでしょうか。ただ、夜にアニメを観るという視聴習慣が根付いているので、深夜にアニメ放映をテレビで観る人も多いと思います。あとはテレビ放送と連動しやすいTwitterでのトレンドですね。いわゆるバズる瞬間は、多くの人に注目されるので、そういう意味だとテレビはまだまだ宣伝効果が強いなと。

佐藤:テレビの放映時間帯に、Twitterのトレンドに乗れば、配信とかよりもその瞬間だけ一気に関心度が高まり、結果としてキャンペーンのような宣伝効果が得られるということですね。

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