加藤純一「一回やってみよう」 プロゲーマーからストリーマーへ転向したTonbo、1年経ったいまを語る

国内最強のストリーマーである、加藤純一によって設立された日本のプロeスポーツチーム「MURASH GAMING」。
そこに所属する、1人のストリーマーがいる。
現代のプロゲーマーの多くは、競技者としての生涯を終えたあと、ゲームの楽しさを広める役割を担う、ストリーマー(ゲーム配信者)になっていく。
今回、インタビューしたTonbo氏もそのひとりだ。
本インタビューでは、Tonbo氏にプロからストリーマーに転向して約1年、「どのような苦労があったのか」「プロゲーマーとストリーマの大きな違いとは」「オーナーからの助言はあったのか」などを聞いてみた。
さらにもう一つ。Tonbo氏は2020年のリリース当初から『VALORANT』の競技シーンに身を置く、いわば競技シーンの歴史を知るプレイヤーだ。2027年からの競技フォーマットの変化(リーグ制の廃止)についても見解を伺ってみることにしよう。(小川翔太)
1年での変化「ファンのために頑張る」から「ファンと一緒に頑張る」へ

――2025年5月にプロからストリーマーに転向されました。自身の心境や実際の活動にどんな変化があったのか、この1年間を振り返ってお話しいただけますか。
Tonbo:ファンのありがたみを知ったというのが大きかったです。eスポーツを盛り上げるのが大事だなというのもあるし、配信もそれと一緒なので。プレイする側から盛り上げる側に回った、という印象が強いです。
――現役の頃もファンの存在は強く意識していたかと思いますが、今のほうがより向き合っているということでしょうか。
Tonbo:そうですね。「ファンのために頑張る」から「ファンと一緒に頑張る」みたいなイメージに変わりました。
――具体的にどう違うのでしょうか?
Tonbo:選手時代は「価値を届ける側」だという気持ちで戦っていました。チームとファンのために頑張る。ストリーマーになってからは「ファンと一緒に盛り上げる側」になったというイメージです。
――どちらのほうが自分らしく活動できていると思いますか。
Tonbo:もともとプロからストリーマーに変わるとき、プロの感覚が抜けなくて、切り替えるのに時間がかかってしまいました。
だから「まだ慣れていない」という意味では、プロのころのほうが、自分らしく過ごせていたといえるかもしれません。ストリーマーに転向して、少しずつこちらの活動の大変さも知ってきたという段階です。
プロ時代にリアクションはご法度だったが、ストリーマーはオーバーリアクションが必要
――転向に時間がかかったとのことですが、他の人と比べても、ご自身の中で苦労したという感覚があるということですか。
Tonbo:僕自身もそうですが、おそらくほとんどのプロが経験しているんじゃないかと。「プロゲーマーからストリーマーは、難しいです」とみんなが口にします。プロというのは、みんな自分の世界というか、自分のパフォーマンスを上げることに没頭しちゃうんです。そのスタンスから、配信のパフォーマンスを上げることに切り替えないといけない。そこが難しいのかなと思います。
――配信のパフォーマンスを上げるというのは、視聴者とのコミュニケーションのようなことでしょうか。
Tonbo:リアクションやコミュニケーションなどを通して、「自分を表現する」感じですね。
――リアクションが薄いと配信として面白くないから、少しオーバーリアクションしてみるといったことでしょうか。
Tonbo:プロにおいてリアクションというのは、無駄なコミュニケーションなので、御法度なんです。例えば、やられた瞬間に「あー! やられた!」と言ったら、「そんなことより報告して」となる。
プロは「必要な情報だけを仲間に伝える」ので、なるべく「自分を出さない」のですが、ストリーマーはどんどん出す必要がある。そういうところから変わってくるので、最初はそれが難しかったです。
ちなみにストリーマーになって1年以上たちますが、スクリム(練習試合)に呼ばれたりすると、めっちゃリアクションしちゃうんです。
もし、またプロに戻るとなったら、リアクションを減らすところから始めないといけないでしょう。
加藤純一氏に「どう頑張っていけばいいか」と相談した
――プロ時代のクセをなくすところからストリーマーとしての活動が始まったのですね。ちなみに競技プレイヤーが全員ストリーマーになるわけではなく、そのまま引退する人のほうが多い中で、ご自身は「絶対にストリーマーとしてやっていく」という気持ちだったのでしょうか。
Tonbo:どちらかというと「道があればやってみるか」という感覚でした。まずは努力してみてから判断しようと。もともとストリーマーをやりたかったんですが、それでも競技が面白いなと思って、アマチュア時代にチームを組んだりしてからプロになったので。『VALORANT』がリリースされてから「これは絶対に競技として流行る」と思って、プロの道を目指しました。
――以前に活動されていたタイトル『フォートナイト』では、競技として活動する意向は強くなかったのでしょうか。
Tonbo:当時はeスポーツ全体が「競技として盛り上がっている」という雰囲気ではありませんでした。徐々にゲーミングチームが増えていき、競技としての盛り上がりが生まれてきたように思います。爆破ゲームのほうが好きだったので、『VALORANT』でプロをやりたいと思いました。
――もともとストリーマーをやりたかったということは、本来のスタイルに戻ったとも言えますね。MURASH GAMINGはストリーマーの加藤純一さんがオーナーですが、そこもご自身の意思決定に影響しましたか?
Tonbo:オーナーからは「一回やってみろ」と言っていただいて「じゃあやります、やらせてください」という流れでストリーマーになりました。
――背中を押してくれた一言でしたか。
Tonbo:押してくれたというより、結構、持ち上げてくださる方なので、その点はありがたかったです。加藤純一さんに言われたら、もうやるしかないというか、やりたくなっちゃいます。
――加藤純一さんから配信面のアドバイスはありましたか。
Tonbo:相談するとアドバイスはくれます。「どう頑張っていけばいいか」「強みを生かす方法がわからない」といったことを相談をしました。
――言える範囲で、どんな回答が返ってきましたか。
Tonbo:配信を始めた当時は「『VALORANT』をやってるなら、まず『VALORANT』で一回やってみたら。そこから自分のスタイルを見つけたらいいんじゃないか」というアドバイスをいただきました。
――見守ってくださっている感じなんですね。ちなみに全ての『VALORANT』のプロが引退後はストリーマーになるべきだと思いますか?
Tonbo:人によりますね。ストリーマーやインフルエンサーが多ければ多いほど競技も盛り上がると思います。ストリーマーを経て、コーチに転向してくれる人が出てくるといいなと。プロからコーチへの転向って結構少ないので。そういうサイクルが生まれたらいいのかなと思います。
競技シーンはトーナメントになったほうが「応援しやすい」
――2027年から『VALORANT』の競技フォーマット(※1)が変わり、2022年以前に近いフォーマットに戻ります。ZETA DIVISIONが世界3位になった2022年の世界大会(※2)では、オープントーナメントに近い形だったこともあり「日本勢は変更後のほうが有利なのでは」という声もあります。長く競技シーンを経験されてきたTonboさんは今回の変更をどう見ていますか。
Tonbo:僕もトーナメント制のほうが好きですね。リーグ制の難しいところは、まず対策されやすいこと。あと、下から上がっていくという意味では、全員にチャンスがあるわけではないことです。
その点トーナメント制になると、誰が勝ち上がるかわからないし、国内でいろんな高め合いが生まれるので、さらに強くなるんじゃないかという印象があります。ただ、トーナメントは世界大会を経験しづらいという点もあります。
必ず特定のチームや選手が世界大会を経験でき「世界の舞台に慣れることができる」という点が、現状のリーグ制のいいところではあったと思います。
※1:2023年~2026年まで『VALORANT』の競技シーンはインターナショナルリーグとチャレンジャーズリーグの2部制だったが、2027年からは、その垣根が撤廃されオープンなトーナメント方式へ移行する。
※2:2022年の世界大会「VCT 2022 - Stage 1 - Masters Reykjavík」。各地域から予選を勝ち上がった12チームがアイスランドで開催されるオフラインでの戦いに挑んだ。日本代表として出場したZETA DIVISIONは、3位という驚異的な成績をおさめた。
――リーグ戦のほうが世界大会を経験しやすいというのは、選手単位でいうと、チャレンジャーズリーグの選手がインターナショナルリーグに所属するチーム(ZETA DIVISIONやDetonatioN FocusMe)に移籍すれば「経験を積める」という意味合いでしょうか。
Tonbo:そうですね。トーナメントだと「VCT Pacific」までの壁がたくさんあるので、そこに到達できない可能性はあります。
――なるほど。下手をすると、日本チームの選手が世界を経験できない時期がしばらく続いてしまう可能性もあると。そういう意味では、現状の最低2枠が確保されていたほうがよいという側面もあったということでしょうか。
Tonbo:ただ、盛り上がりという面では、トーナメント制のほうが圧倒的によいです。応援しやすいし、どのチームもゼロから上がってくるという面では、ストーリー性もあって、とても盛り上がると思います。
もしかしたらプロに復帰するかもしれない
――ひとつ懸念しているのが、現状、2027年からは「VALORANT Challengers Japan」のような大規模なオフラインイベントが未定になっていることです。「ファンがオフラインで時間を共有する場が作りづらくなるのでは」という懸念などは感じますか。
Tonbo:新ガイドラインの発表で、来年から、大会が開きやすくなった。コミュニティ大会自体は開きやすくなって、そこの盛り上がりもありますし。あとは、日本の全チームが日本でやれることになるので、さらに盛り上がりやすい。ZETAみたいなチームも日本でやってくれたほうが国内の盛り上がりが良くなって、正直、外野の人たちにも目をかけてもらえるんじゃないかな、という目線はありますね。
――公式が用意する大規模な大会がなくなる分、他のコミュニティや各eスポーツチームが何かをやりやすくなっているから、より盛り上がるんじゃないか、ということですね。
Tonbo:怖いのは、今年までの盛り上がりを来年にどう繋げるかが、ちょっと不安定かなと思います。特に昨年は本当に盛り上がっていて「Tier 2が一番盛り上がっているのは日本」と言われていたので。その盛り上がりをどこまで維持できるかとか、Tier 1が消えてどうなるかが、ちょっと未知数というのはありますね。
――確かにチャレンジャーズリーグの制度をうまく利用して盛り上がってきたのが日本のシーンでした。
Tonbo:最初はみんなちょっと不安かもしれないですけど、僕としては不安というよりは「来年の盛り上がり次第」という期待のほうが上回っています。
――ご自身としては、来年以降どのように活動していこうと考えていますか?
Tonbo:まずは『VALORANT』に関わっていきたいです。ただ、どのような関わり方になるのか、僕自身も分かりません。もしかしたらプロに復帰するかもしれませんし、ストリーマーを続けるのかもしれない。あとは昔あったPremier(※3)の制度が楽しかったので、そういうのがあれば、また気軽に出られたらなと思っています。
※3 『VALORANT』のゲームモードのひとつで、チーム戦に特化した競技モードであり予選大会。チームを組んで、プロの大会に近い形式で長期間にわたって競い合う。
























