いのうつはSA×奏が語る“お散歩MV”と音割れの美学 聖地巡礼や定義を拒むカルチャーの行方

いのうつは×奏が語る、音割れの美学

 ここ最近の『ボカコレ』(株式会社ドワンゴが主催するVOCALOIDの祭典『The VOCALOID Collection』)のランキングを追っていると、あるひとつの手触りに気が付く。音は激しく割れ、曲の展開はめまぐるしく変化し、MVはどこか懐かしいのに場所を特定できない実写映像で構成されている作品が多い。とりわけルーキーランキングを眺めていると、いわゆる「Hyperpop」や「Hyperflip」的な音楽の広がりと、実存的かつ匿名性の高い映像表現に出会うことが増えた。

 今回は、その代表格として名前が挙がる2人、『ボカコレ2026冬』のルーキーランキングで1位・2位に輝いたいのうつはSAと奏に話を聞いた。「一億年恋してる」や「再現.leaper」から広がる可能性はどこに繋がって、何を拡張するのか。初音ミク誕生から来年で20周年。そのポテンシャルとサウンドスケープは、留まることを知らない。(Yuki Kawasaki)

■いのうつはSA


最近の趣味はYouTube Shortsを見ながらくるみを回すこと。


■奏


2024年5月活動開始。強烈な音割れサウンドと印象的なメロディーを武器に、楽曲から映像までを自ら手がけるマルチクリエイター。「閃光ライオットボカロステージ」でのグランプリ受賞や「ボカコレ2026冬ルーキーランキング」2位などの実績を持ち、現在は作編曲、映像制作、DJ出演の依頼も幅広くこなしている。

一億年恋してる - ついなちゃん -
再現.leaper / 星尘Infinity -

Kabanaguから開けた世界

――まずはおふたりの音楽的なルーツから教えてください。

奏:僕は音楽的ルーツと呼べるアーティストが2人いて、ひとりはKabanaguさんです。もともとバンドサウンドがずっと好きで、僕自身も軽音部に所属していたんですけど、Kabanaguさんに出会ってからエレクトロもいいなと思うようになりました。もうひとりがlilbesh ramkoさんで、音割れを扱った楽曲がすごくかっこよくて。こんなことして良いんだって思いました(笑)僕が音を割るタイプの音楽を始めたのは、lilbesh ramkoさんがきっかけですね。

いのうつはSA:自分も2名ほどいて、ひとりは奏と被るんですが、Kabanaguさんです。実は俺も軽音部でバンドサウンドが好きだったんですけど、そこからエレクトロ寄りのものを聴くようになって。本当に奏とは共通点が多いなと自分でも思ってます。

 2人目は、『ボカデュオ』というイベントで合作をさせてもらっている“おだじん(小田桐仁義)”さんです。ずっとバンドサウンドというか、J-POPをされている方で、メロディを大切にしているんです。自分は今、展開のメチャクチャな曲をたくさん作っているんですけど、そのルーツが割とおだじんさんにあります。

――バンドからエレクトロへの移行は、ディグり方も異なるような気がします。能動的に検索するとしても、入力するワードも違うでしょうし。そういった苦労はなかったですか?

奏:Apple Musicでおすすめ再生をやっていたらたまたまヒットして、「なんだこの人すげえ」ってなってドハマりした感じですね。

いのうつはSA:俺の場合はYouTubeのおすすめ欄がいつの間にかすごく魔改造されていて、ボカロが流れてくる中に急にKabanaguさんの曲が出てきたんですよね。何気なく聴いた時に「来たな、これ」と思ったのが出会いです。時期としては「丘にいる ft.VX-β」(2023年8月)という、ヤマハのプラグイン『VX-β』で作った曲がリリースされた頃で、ちょうどニコニコ動画がサイバー攻撃を受けた時期とも重なります。

Kabanagu - 丘にいる ft.VX-β -

――いのうつはSAさんの楽曲にはフィールドレコーディング的というか、環境音をサンプリングしたアプローチが度々みられますよね。この手法に関して、何かインスピレーションやリファレンスはあるのでしょうか?

いのうつはSA:“変な曲を作りたい”っていうのが前提なんですけど、そのときに降ってきた発想が環境音だったんですね。あの時期、『ボカコレ』の1位が駄菓子O型さんの「あちこちデートさん」で、その曲の中でフィールドレコーディング的な音が鳴っていたんですよ。そのときにめっちゃいいなと思って、自分も使い始めたというのがあります。『ボカコレ』から得てるものは多い気がしますね。

あちこちデートさん / 駄菓子O型 feat.めろう -

――特徴的な手法として、奏さんは「春過ぎて、過ぎて、」でポエトリーリーディング的なアイデアをみせています。こちらのインスピレーションはどこからですか?

奏:僕も恐らくボカロからですね。ボカロPとして活動されている世界電力さんの「ポストずんだロックなのだ」を聴いたときに気になって調べて、こういう手法が「ポエトリーリーディング」と呼ばれるらしいということを知りました。

――おふたりの視聴習慣から察するに、ともすればほぼすべてのインスピレーションをボカロ界隈から得ることもできると。エクスペリメンタルな楽曲も当然のようにバイラルトラックになるという状況は、ボカロカルチャーの充実を端的に表しているように感じます。そう考えると、HyperpopやHyperflipについてもジャンルとして影響を受けたわけではないのでは、という気もしてきました。

奏:そうですね。Hyperflipというジャンルの曲を作ろうとは思っておらず、僕の場合はとにかく「音割れ」という要素に惹かれています。Hyperpop、Hyperflipに限らず、ジャンルに固執しているわけではないですね。

いのうつはSA:自分も別にジャンルは気にしてなくて、とりあえず“変になりたい”っていうのがあって(笑)。もう絶対、今のボカロもそうですし、全体的な音楽として変じゃないと面白くないなというのが自分の中にあるんです。ジャンルとか考えずにやっていたら、ああいうことになってしまいましたね。

Sch6ss(シュロス) / 星尘Infinity -
今日も最悪だったね(^_-)-☆ - 音街ウナ -

――ジャンルとしてのHyperpop/Hyperflipはダンスミュージック的な要素も多いのですが、展開の多さから“非ダンスミュージック”的だとも感じます。おふたりの楽曲にも展開の多さが耳を引きますが、まさに“変な楽曲を作りたい”という意図によるものなのでしょうか?

奏:普段曲を作っていて、やりたいなって思ったことを詰め込みまくることが多いので、そのせいというかおかげというか……。衝動的に曲作りをした結果、展開が多くなってしまうのかなと。ただ、僕の場合はJ-POPのAメロ・Bメロ・サビという構成は結構大事にしつつ、それ以外で何か付け足したいことをやる、というやり方をしています。

いのうつはSA:俺は……こんなこと言うと怒られそうなんですけど(笑)、飽きたら次のパートに行っちゃってますね。やっぱり変な曲を作りたいので、そのパートに飽きたらダメだと思うんですよ。その意味では俺も衝動的なのかも。詰まったらさっさと次へ行くみたいな、そういった作り方をしてます。自分にとっては、このやり方が今のところ一番良い形で作品として落とし込めるんですよね。

――奏さんの「データスモッグの最中で」は、まさにJ-POP的な構造が効いている楽曲だと思います。ラスサビの〈最後に話がしたくて走馬灯さえスキップしてる〉という歌詞は、前段では〈走馬灯さえ~〉の前のフレーズが変わっています。メタフィクション的でありながら刹那的で疾走感もあるリリックで個人的に大変感動しました。

奏:この歌詞は、メロディと同時に思いついた感じで。「データスモッグ~」に着手したときは、もう絶対このフレーズとこのメロディを使って作ろうって考えから始まったんです。前後の文脈をこうしようと考えて書いてはいなかったですね。歌詞を書く時はもう直感で降ってくるのを待つので、毎回めちゃめちゃ時間がかかってしまうんですけど。曲に導かれて言葉が繋がれていった感じです。昔から本や文学に親しみがあったわけではなく、漫画も小説もアニメもあまり見ないので、そういうところからのインスピレーションではないと思います。1クールぐらい観れば、何かを得て自分の曲にも繋がるかもと思いつつ、なかなかそういった習慣が身に付かないですね。

データスモッグの最中で / 星尘Infinity -

――対して、いのうつはSAさんは『少女終末旅行』をリファレンスとして明言されていますよね。

いのうつはSA:最初の曲「まだいきてるいめーじ」は、本当に『少女終末旅行』を読んで、その瞬間から曲を書き始めたものです。歌詞も絶対『少女終末旅行』のことを書こうと決めていました。それ以外は書き始めはあまり何も決めていなくて、冒頭のフレーズを聞きやすい言葉でまとめて、そこから枝分かれさせてどういうテーマで作っていこうというのを歌詞を書いている中で決めています。

――なぜあの曲のボーカロイドに初音ミクを選んだんですか?

いのうつはSA:よくぞ聞いてくださいました! あの時、『少女終末旅行』と初音ミクを絡めたファンの方が書いた物語をどこかで見つけて、「もうこれ絶対に初音ミクを使うしかないじゃん!」と思って。『Synthesizer V』シリーズとか、もっと人間の肉声に近いものも当時からあったんですけど、やっぱり初音ミクのロボットっぽい声を使いたいなと。『少女終末旅行』も、人がいなくなった世界でロボットがまばらに存在している世界なので、これは初音ミク以外で出したらダメだろうと思って突っ走りましたね。作っている時はほぼほぼ泣きながら作ってました。

まだいきてるいめーじ - はつねみく -

――サンクラ(SoundCloud)に上げてらっしゃる「まだいきてるいめーじ(おやすみver.) 」は、どういうコンセプトなんですか?

いのうつはSA:あれはもともと自分がVlogみたいなものを撮っていて、そのBGMとして作ったものなんです。その曲とは別に、ボカロP仲間のまかろりにアレンジを手伝ってもらったピアノバージョンもあって、そちらは『少女終末旅行』に向けたつもりでして。ストーリーの最後、階層型都市の一番上の階層にたどりついた時の気持ちを表したもの、いわば後日談をイメージした曲です。原作を読んだ後、「もう無理」「生きていけない」と感じてしまって、自分でハッピーにしたいという思いがあふれて、本当に衝動的に作った曲なんです。

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