「オーディオ×コスプレ×コーヒー」が5万人を集める理由 第20回深圳国際オーディオショーとその魅力

中国・深圳で8月14日から16日まで、「第20回深圳国際音頻展(Shenzhen International Audio Show/SIAS 2026)」が開催された。会場となったのは深圳の中心部、福田区に位置する深圳会展中心6号館。今回の出展ブランドは約300社、来場者は5万人を超える規模にまで成長したという。
オーディオの展示会として考えれば、この数字だけでも十分に大きい。しかし、SIASを単なる「大規模オーディオショー」と捉えると、その本当の面白さは見えてこない。会場を歩けば、最新のイヤホンやヘッドホン、DAC、ポータブルプレーヤー、アンプ、スピーカーなどが並ぶ一方で、コスプレイヤーが行き交い、コーヒーショップが並び、ライブ配信やSNSを意識したブースも目につくからだ。

SIASが掲げるテーマは「AUDIO × COSPLAY × COFFEE」。「コスプレ」と「コーヒー」という、一見するとオーディオとは異質にも思える2つの文化を組み合わせることで、従来のオーディオファンだけではない人々を会場へ呼び込んでいる。

今回、SIASを第17回から取材してきたオーディオ評論家・野村ケンジ氏とともに会場を歩いた。野村氏は今回の20回目をこう振り返る。
「深圳国際オーディオショーは今年、節目となる20回目を迎えました。今年は参加メーカーは約300社という、オーディオ関連のイベントとしてはかなり大規模な展示会となっております。私は第17回から参加しておりますが、このオーディオショーは極めてユニークな特徴を持ち合わせています」
「100人のオフ会」から始まったSIAS

現在のSIASからは想像しにくいが、第1回は約10社のブランドが参加し、100人ほどのオーディオファンが集まる小規模なイベントだったという。開催時間も半日程度。いわばオーディオ愛好家の「オフ会」に近い存在だった。そこから回を重ねるごとに参加ブランドと来場者を増やし、第18回には4000平方メートル超、200ブランド超、第19回には5000平方メートル超、200ブランド超、来場者約3万人へ。そして第20回では約300ブランド、来場者5万人超という規模にまで拡大した。
この成長の背景には、SIASを立ち上げた王社長夫妻の存在がある。もともとSIASは、王社長夫妻が中心となってスタートしたイベントだ。現在ではインフルエンサーの千杯(せんぱい)氏が広報やプロモーションを担い、王社長夫妻が会場の手配や設営、スケジュール調整など、イベントを成立させる実務を支えるという役割分担になっている。

野村氏も、その変化を実際に現地で見てきた。
「そもそも、このオーディオショーは王夫妻が立ち上げたイベントでありますが、当初は僅か10社程の、同好会的な展示会だったと聞きます。そこに水月雨などの若いメーカー、若いユーザーがどんどん集まってきたというのは、将来を見据えたコンセプトの巧さでしょうか」
ここがSIASを理解するうえで重要なポイントだろう。最初から巨大な展示会を作ろうとしたのではない。まず「好きな人が集まる場所」があり、そこへブランドが集まり、さらに新しい世代が加わっていった。その結果として、現在の大規模イベントが形成されている。つまり、SIASは「展示会を作って人を集めた」というより、「人が集まるコミュニティを育てた結果、展示会が巨大化した」と見ることができる。
オーディオだけではない、「Audio × Cosplay × Coffee」の意味

そんなSIASを象徴するのが、「AUDIO × COSPLAY × COFFEE」というテーマだ。オーディオ展示会でコスプレとコーヒーを組み合わせる。日本の感覚からすると、かなり大胆な発想に思える。しかし会場を歩いてみると、これが単なる「客寄せ」のための企画ではないことが分かってくる。
水月雨(MOONDROP)やTANCHJIMといったブランドは、その象徴的な存在だ。両社ともイヤホンを中心とするオーディオブランドであり、音質や技術に対して非常に真摯な姿勢を持っている。一方で、アニメやキャラクター文化、コスプレなどとの親和性も高い。製品そのものだけではなく、ブランドを取り巻く世界観まで含めてユーザーとの接点を作っている。

「テーマに沿ったメーカーとして、特筆すべきメーカーとしては水月雨が挙げられるでしょうか。イヤホンやヘッドホンだけでなく、スピーカーやスマートフォンもラインナップ。中国では高い知名度と人気を誇るメーカーで、すでに日本でも注目の存在となっていています。また、有線イヤホンを得意としつつ、無線製品も手がけるTANCHJIMも注目です」(野村氏)
さらに野村氏は、両ブランドについて「両社に共通するのは、オーディオに対して高い知見と技術力を誇りながら、一方でアニメ、コスプレ、はたまたコーヒーといった他のカルチャーの要素もしっかり抑えに来てる点です」と解説する。

ここにSIASのユニークさがある。オーディオに興味がある人だけを呼ぶのではなく、アニメが好き、コスプレが好き、コーヒーが好き、あるいはSNSで面白いものを探しているーーそんな人たちが会場に足を運ぶ理由を作る。その結果、オーディオに詳しくない若い来場者がブランドのブースに立ち寄り、そこで初めて高品質なイヤホンやヘッドホンに触れることになる。「これによって、従来のオーディオファンだけでなく、幅広い層、そして若い層のユーザーがブースに足を運んでいるのが興味深い点となります」(野村氏)。
コスプレやコーヒーは、オーディオから離れるための要素ではない。むしろオーディオへ入ってくるための「入口」なのだ。
若手と老舗が同じ場所にいる意義

もちろん、SIASに若いブランドだけが集まっているわけではない。FiiOやHIFIMANなど、中国を代表するオーディオブランドも存在感を放っている。これらは、コアなオーディオファンにとっても見逃せない存在だ。野村氏が今回注目したのがHIFIMANだ。
「オーディオファンが気になるのがHIFIMANやFiiOといったメーカーでしょうか。HIFIMANのDr.Fang氏がブースにいたのですが、彼から次世代のヘッドフォンなどこれから発売される新製品についていろいろと聞かせてもらいました」

さらに野村氏は、FiiOについても、新しい方向性を感じたという。
「FiiOは新たに大型スピーカーを投入するなど、卓上型のアイテムで培った技術をより大きな盤面(ホームオーディオ)に向け拡大した展開を行っているのが特徴的でした」

ここもSIASの面白いところだ。新興ブランドがアニメやコスプレなどのカルチャーを取り込みながら若いユーザーを獲得する一方、成長した中国ブランドは、ポータブルオーディオで培ってきた技術をヘッドホンやスピーカーなど、より大きなカテゴリーへ広げている。つまり会場には、オーディオ市場の「過去」「現在」「未来」が同時に存在している。

さらに、まだ日本では知られていないブランドも数多く出展している。「また日本未上陸のメーカーも続々と結集しており、今後のオーディオ業界の動向を占う展示会という側面も大きいです」と野村氏。中国のオーディオ市場を知るという意味でも、SIASは非常に重要な場所になっている。
「好きなものを共有する」ための場所

SIASの主催者が掲げる理念をたどっていくと、なぜコスプレやコーヒーが存在するのかも理解しやすくなる。王夫妻が語るSIASの原点は、「音楽を愛するすべての人が集まり、交流できるプラットフォームを作ること」。ここには、いわゆるハイエンド系のオーディオショーとは少し違った思想がある。
単に機器を展示する場所ではなく、普段はなかなか触れることのできない製品を試聴し、音楽について語り、自分の好きなものを誰かと共有する場所。その考え方が、100人規模だった最初のイベントから現在まで一貫している。


だからこそ、コーヒーを飲みながら会話することも、コスプレを楽しむことも、SNSで発信することも、SIASにとってはオーディオとは関係のない余計な要素ではない。すべてが、人と人をつなぐための仕掛けになっている。そして現在では、インフルエンサーやライブ配信などを通じて、会場の外にもその体験が広がっていく。

野村氏は、王夫妻を中心とした運営の変化にも注目する。
「現在、王夫妻は千杯氏に広報を託し、若い層のアイデアや行動力を背面からバックアップするという形式になってきています」
20回を迎えたイベントが、最初から最後まで同じ人間だけで運営されているわけではない。若い世代に役割を渡しながら、イベントそのものを次の世代へ更新していく。その構造もまた、SIASの強さなのだろう。
5万人を集めた「展示会」の次にあるもの

今回のSIASは、規模という点でも大きな節目となった。約10社、100人ほどから始まったイベントが、20回目には約300ブランド、5万人超を集めるまでになった。「来場者も鰻登りで加速、今年は来場者が5万人を超すビッグイベントともなっています」と野村氏。
ただし、数字だけを見てしまうと、このイベントの本質を見誤るかもしれない。300ブランドが集まったから5万人が来たのではなく、まず「好きなものを共有できる場所」があり、そこにブランドとファンが集まり、さらにコスプレ、コーヒー、インフルエンサー、SNSといった要素が加わって、コミュニティが広がっていった。

そしてもう一つ、SIASには特徴的な取り組みがある。チャリティだ。主催者によれば、チャリティ活動は約10年間続けられており、イベント収益の一部を地方の小中学校への寄付に充て、図書室の建設などを支援。これまでに60校以上を支援してきたという。しかも、主催者だけの名前で行うのではなく、出展者全員の名義で社会貢献を行うという。
ここにも「コミュニティ」というSIASの考え方が表れている。オーディオを楽しむ。ブランドとユーザーが交流する。そこで生まれたイベントの力を、今度は社会へ還元する。趣味から始まったコミュニティが、企業を巻き込み、さらに社会貢献へとつながっていく。
SIASは「オーディオショー」の次へ

第20回を実際に見て感じるのは、SIASがすでに一般的なオーディオ展示会とは異なる段階へ進んでいるということだ。もちろん、最新のイヤホンやヘッドホンを試聴し、DACやアンプを比較し、スピーカーの音を聴くというオーディオショーとしての基本は変わらない。しかし、その周囲にはアニメ、ゲーム、コスプレ、コーヒー、SNS、ライブ配信といった文化が存在する。
野村氏が第17回から見続けてきたSIASの変化は、まさにその部分にある。
「ここまで見てきたように、このオーディオイベントは極めてユニークな特性を持っております。それは『オーディオ×コスプレ×コーヒー』などと、異なる文化圏に属するファクターを掛け合わせることで、新たなる盛り上がりを作り上げようとする主催者側の意図があるからです」

オーディオは、ともすると「詳しい人のための趣味」になりやすい。しかしSIASは、そこに別の入口をいくつも用意した。音楽が好きならいい。イヤホンが好きでもいい。アニメが好きでも、コスプレが好きでも、コーヒーが好きでもいい。会場へ来て、何か一つに興味を持ってもらえれば、そこから別の文化へも触れることができる。それこそが「AUDIO × COSPLAY × COFFEE」の意義なのだろう。
そして第20回という節目を迎えた今、SIASは次の段階へ向かおうとしている。今後は北京や上海など、深圳以外の都市での開催を求める声もあるという。さらに日本を含む海外展開についても、可能性が検討されている。もしSIASが他都市へ広がるのであれば、単純に深圳のイベントをそのままコピーするのではなく、その土地の文化と「Audio × Cosplay × Coffee」をどう融合させるのかが重要になるだろう。

深圳で生まれたSIASが、20回をかけて作り上げたのは、巨大な展示会場そのものではない。「好きなものを持つ人たちが集まり、好きなものを発見し、好きなものについて語り、その文化を外へ発信する場所」。約100人のオーディオファンが集まった小さなオフ会から始まり、今や5万人を超えるユーザーを集めるまでになったが、その成長の過程こそがSIASというイベントの最大の魅力なのかもしれない。
20回目の深圳国際オーディオショーで見えたのは、中国のオーディオ市場の大きさだけではない。オーディオという趣味をもっと開かれたものにする。そのために異なるカルチャーを取り込み、新しい世代へつないでいく。SIASが示しているのはこれからのオーディオ展示会が「製品を見せる場所」から「文化に出会う場所」へ変わっていく可能性なのである。

























