AIの普及で音楽業界は今後どうなる? 「AI×ピアノ」から予測する

 次に紹介する技術は、「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」とヤマハのAI技術のコラボレーションによって実現したAIピアノだ。このピアノは曲を演奏し始めると、初音ミク、星野一歌といったキャラクターがその演奏に合わせて歌い始める面白いところは、タッチをミスしてしまったり、テンポを変えたりしても問題なくキャラクターが歌ってくれるという点だ。指定の楽譜以外には対応していないが、それでも興味深い技術である。「楽譜が読めないと体験できないのか」と悲観する必要もない。譜面が読めない人向けに鍵盤上部から流れるように表示される光に合わせて演奏することで、リズムゲームのように楽しむことができる。

 また「指定の楽譜以外には対応していない」という弱点もあるが、これを技術で解決したYouTuberが存在する。ピアノ系YouTuberの「よみぃ」だ。彼はAIの挙動を予測し、AIの曲の進行を止めない範囲でアレンジを加えたり、どうしてもテンポがずれてしまう部分は技術と工夫で解決するという、素人からしたらどこが凄いのかわからないレベルでこのピアノの弱点を克服させた。

 最後に、少しジャンルを広げ、”AI×ピアノ”ではなく”AI×音楽”の分野から、作曲の分野で活躍するAIをいくつか紹介する。『Amper Music』や『AIVA』といったツールである。これらのツールは曲調や音程、曲の長さ、楽器などを選択すると、AIがほぼ自動でメロディなどを作曲してくれるそう。人の手を加えてアレンジしないと、面白味に欠ける音楽ができてしまうそうだが、それでも十分便利なツールだろう。これらのツールで作曲された曲の著作権に関する法整備など、まだまだ環境が整っていないところであるが、将来はAIが作曲した曲を普通に聴いている時代が来るかもしれない。

 さて、いくつか”AI×ピアノ”もしくは”AI×音楽”の技術を紹介してきた。このような技術がどんどん進化すれば、最終的には作曲も演奏も、はたまた演奏する人でさえも、人間である必要はなくなってしまうのだろうか。

 しかし筆者はそうだとは思わない。AIのように、技術の進化の恩恵を受けているものの1つとして「カメラ」が挙げられるかつては全て人の手によって描かれ、目の前の風景を残していたものが、現在ではカメラ1つで素人でも簡単に画像で保存することができる。しかし私たちがiPhoneで簡単に撮影できるようになったいまでも「画家」と「写真家」は存在し、活躍しているアーティストはたくさんいる。そして画家が描く絵と写真家が撮る写真は、目の前の風景を残すなどの共通点はあるものの、芸術として全く別のジャンルである。これと同じように、音楽の分野でも、前述したピアノ系YouTuber「よみぃ」のようにAIを使って作られた便利なツールを使いこなす専門の職業が作曲家とは別にできるのではないだろうか。そして、便利なツールを使いこなす専門の職業が音楽の分野でできた際、既存の音楽とは別のジャンルの芸術が生まれてくるのではないか。

 長い音楽の歴史上、人間以外が音を奏でたり、作曲をしたりといったことは無かったが、本記事で紹介しただけでもここ最近で様々なAIを活用した便利なツールが制作されている。そういった意味で、音楽業界は急速に「変化」してきている。

 そしてこの話は、音楽という分野に限った話ではなく、様々な分野で言える話ではないだろうか。近い将来、様々な分野において、AIを専門に扱う職業がたくさんできる可能性がある。AIが急速に普及している現在、私たちがすぐにできることはそういった「変化」を受け入れる覚悟をしておくことかもしれない。

また画家が描く絵と写真家が撮る写真は、目の前の風景を残すなどの共通点はあるものの、芸術として全く別のジャンルである。同じように、便利なツールを使いこなす専門の職業が音楽の分野でできた際、既存の音楽とは別のジャンルの芸術が生まれてくるのではないだろうか。

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