連載「わたしたちの『Live』」 第一回:TAKU INOUE
TAKU INOUEに訊く、“整頓された音”を作り上げるコツ Ableton『Live』だからこそ生まれるクリエイティブとは
『Live』は「ただ音楽を作りたい」人に向いている
――これまでにないテイストの曲を作るということは、そのほかにも使っていない機能や方法を試したりしたのでしょうか。
TAKU INOUE:今回からサンプリングレートを96kHzにしたのは新たな試みでした。とはいえ、トラック数も100前後で作業が重くなるので、作るときは48kHzでMixのときは96kHzにしたんです。録りはもちろん96kHzで、そのまま48kHzのプロジェクトに取り込めたのはありがたかったです。
――96kHzにしようと思った理由は?
TAKU INOUE:今年に入ってから、試しに96kHzにしてみた仕事があって。32bit/48kHzのものを44.1kHzにマスタリングしたときと全然印象が違ったんですよ。特に奥行きが出やすいという印象だったので、Midnight Grand Orchestraは全部96kHzでやってみようと。ストリングスの質感は96kHzの方が気持ち良いと思うし、すいせいさんの歌はダイナミクスがあるので96kHz映えするなと感じました。とはいえ、96kHzだとリバーブの質感が変わってくるので、たとえばタイトなクラブミュージックの場合は敢えて48kHzで作業しようかなというような場合は今後あるかもしれませんが。
――そういった様々な制作スタイルへ臨機応変に対応できるという意味で、『Live』はご自分のやりたいことについてきてくれるDAWでもあるのでしょうか。
TAKU INOUE:そうだと思います。あと、今回はストリングスのミックス時にトラックリンクが大いに役立ちました。これまでは複数トラックをまとめて編集できなかったのですが、『Live 11』からトラックリンクが使えるようになったことで、生で録ったストリングスやドラムをまとめて編集することができて。ミックスまで『Live』でやろうと思えたのは、この機能のおかげでした。
――たしかに、生楽器のトラック数が多いと苦労しますからね……。
TAKU INOUE:トラック管理については、本当に「ありがとうAbleton」という感じです。『Protools』でもやれると思うのですが、作曲したまま取り掛かれるほうが楽なので。
ーー今後『Live』を使って挑戦してみたいことはありますか?
TAKU INOUE:最近はサードパーティでやってたことを、『Live』純正のものに置き換えてやってみようとしていて。制作中の新曲もまさにそうして作ってみたら、知らない間に進化しているプラグインがたくさんあって驚きました。アナログっぽさを求めるときはサードパーティのコンプを使うことが多かったんですが、「Glue Compressor」も良い感じの使い心地でしたし、「Echo」も良い意味でクセの強い残響音で「いけるじゃん!」と思いました。
――サードパーティを使わないでやってみようと思ったのはなぜなのでしょう。
TAKU INOUE:32bit/96kHzの作業が重かったので、純正で統一したら軽くなるのでは、と思ったのがきっかけですね。ただ、いざ制作を進めてみてわかったのですが、PCが重い原因は32bit/96kHzのせいではなかったんです。あまりにも挙動がおかしかったので、業者の方を呼んでクリーニングしてもらったら「ホコリがいっぱい詰まっていて、グリースが固まっています」と。改めてグリースを塗り直してもらってホコリを取ったら、ウソみたいに早くなっちゃって(笑)。96kHzの作業も音が飛んでいたのがあまり飛ばなくなってきたので、「もっと早くやっておけばよかった」と思いました。結果的に『Live』と関係なくなってしまいましたが、ぜひ読者のみなさまにもお伝えしておきたいです。
――あなたがDAWの問題だと思っているのは、実はハードの問題かもしれないという。
TAKU INOUE:はい。そんな勘違いもありましたが、結果的に『Live』純正プラグインの良さに気付けたのはよかったです。
――今後はソロプロジェクトにMidnight Grand Orchestra、ソングライターとしての楽曲提供と、3つの顔を持ちながら活動していくわけですが、ご自身の中ではどう棲み分けをしていくのでしょうか。
TAKU INOUE:楽曲提供はお声がけいただく形なのですが、ソロプロジェクトは「いろんな人と一緒にやってみたい」という気持ちを原動力に制作していきますし、Midnight Grand Orchestraは固定したメンツで面白いことをやるというスタンスで活動していきます。あと、僕には「大所帯でライブする」という夢があるんです。ストリングスも入れた10人くらいでライブをしたいので、それもどこかで叶えられたらと。
――楽しみです! ちなみに、今後『Live』に追加してほしい機能はありますか?
TAKU INOUE:使っているプラグインを俯瞰で見たい、というのはありますね。いまはトラックごとに見ることしかできないので、『Protools』のようにバッと並べて「これはいらない」と取捨選択できたらいいなと。あとはミックスについての機能も入れて欲しいものがいくつかありますね。オートメーションを書くときに書き方のモードも選べたら嬉しいですし、ほかのトラックに挿さってるEQのスペクトラムを別トラックのEQで確認しながら進められるサードパーティのEQがあるんですが、これも「EQ Eight」でできたら楽なので。
――ありがとうございます。最後に、イノタクさんは『Live』をどういう人におすすめしたいですか?
TAKU INOUE:良い意味で大雑把な人や、勢いで作りたいタイプの人に向いていると思います。48kHz、96kHzの違いを知らなくても、細かいことを全部やってくれるDAWなので、こっちはなにも考えずにいられますから。ただ音楽を作りたくて、煩わしいことをあまり考えたくない人にはおすすめしたいですね。音を出せる瞬間までが早いですから。センドリターンに関しても、普通はリターンのトラックを立ち上げて、送りをどのチャンネルにして……という形ですが、そのあたりのこともやってくれるのですごく楽です。まさに「直感的に使える」ので、エントリーにはピッタリです。
■関連リンク
Ableton公式ウェブサイト
Ableton Liveについて
Ableton Live 11 Suite 90日間の無償体験版
■リリース情報
1stミニアルバム『Overture』
2022年7月27日(水)リリース
特設サイトはこちら
完全生産限定盤(hmng Ver.)
CD / Tシャツ付(illustration: hmng)
¥5,500(税込)
完全生産限定盤(にゃもふぇVer.)
CD / Tシャツ付(illustration: にゃもふぇ)
¥5,500(税込)
通常盤 CD
¥1,980(税込)
<収録楽曲>
01. Never Ending Midnights
02. SOS
03. Allegro
04. Rat A Tat
05. Tuning (Interlude)
06. 流星群
07. Highway
■ライブ情報
Midnight Grand Orchestra 1st LIVE『Overture』
2022年8月20日(土)
OPEN 18:30 / START 19:00 (END19:45)
チケット:¥4,500(税込)
会場:Midnight Grand Orchestra Special Stage
チケット販売期間:2022年7月13日(水)19:00~9月9日(金)23:00
アーカイブ視聴期間:2022年9月9日(金)23:59まで
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